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126 カイオー

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。



 甲板からカイオーがいる方の船べりに行き、カイオーを見つめる。

 カイオーが私を見つけて「ギュラリュヨヨーン……」と小さく鳴いた。

 

 とても苦しそうで私は思わず身を乗り出してウォロに捕まえられる。

「危ないだろが!」

「あの子、苦しがってる!」

 私はウォロに言ってハイレディンを見た。

「ここからあそこまでボート出せる?」

「出せるけど……。近くに行って暴れられたら命の保障はないよ」

 ハイレディンは言ってボートを下ろす準備を始めてくれる。


「マッちゃんには契約するなと言われただろ!」

 ウォロが小さい声で呟いた。

「うん、わかってる。契約はしない。ただ助けたい。おかしいよ、あんなに瘴気だらけになってるなんて。苦しそうだし、なんだか助けてって言ってるみたいで……」

「……わかった、一緒に行く」

 

 ボートの用意ができ、私とウォロとハイルが乗り込んだ。

 ハイレディンも乗り込もうとしてハイルに止められる。

「ハイレディンは待っててくれ。これは王弟としての俺の仕事な気がする」

 ハイレディンは何か言いたそうな感じだったが、頷いてボートを下ろす合図をした。


 ボートを吊り下げている鎖が下げられ海面に達してハイルが外す。

 オールを使う間もなくボートがカイオーの元に引き寄せられた。

 8~10メートルくらいの全長かな?

 魚の全長は尻尾まで含むんだよね。10メートル近いか?!

 

 私はカイオーに手を伸ばして触る。

 すごい瘴気が身体中に溜まっている。


「苦しいよね。なんでこんなことに……」

 私は浄化の光魔法をかける。

 すごい量でなかなか減らない。

 ウォロが私とカイオーに光魔法をかけてくれる。

 ハイルも少しだけ光魔法が使えるようで私にかけてくれている。


 気がつくとギーマ先生とクラウス先生、向こうの船からはマリアとカルタロフが私達に光魔法をかけてくれていた。


 私はカイオーの瘴気の浄化にだけ集中する。

 みんなの光魔法の力が私を通してカイオーに注ぎ込まれ、最後まで瘴気を浄化することができた。

 その時、カイオーの記憶が光魔法で繋がっていたみんなに伝わった。


 カイオーは地底湖であの聖石の柱を守っていたのだ。

 聖石が瘴気を吸い込むたびにカイオーがそれを吸い出し、外の海に捨てに行き、柱をきれいに保っていた。

 あそこはカイオーのお気に入りの大切な場所だったのだ。

 

 いつの間にかそこに人が来て、柱に触れ、魔法を授かったりするようになった。

 そして国ができ、カイオーは柱を守る精霊と呼ばれるようになった。

 

 ある時、カイオーが柱の所にやって来ると、柱は人々の瘴気を吸い込みすぎて光が消えそうになっていた。

 それをカイオーと聖魔法持ちのひとりの少女が協力して浄化したのだ。

 それを見た周囲の人々は精霊と契約した聖女とその少女を祭り上げ、少女は王妃になった。

 

 カイオーはその聖女と契約したわけではないが、彼女が王妃となり母となった時に、約束した。

「私の子ども達とこの国の力であるこの聖なる柱を守って」と。


 それから、カイオーは時々柱を訪ねてはその時代の聖女と協力して柱の浄化をしていた。

 

 が、ここのところ、聖女は現れず、カイオーはひとりで聖なる柱の瘴気を吸い続けていたのだ。

 国が盛んになればなるほど、瘴気の量は増え、カイオーはひとりで苦しんでいたのだ……。

 

 私が地底湖に現れたことで、この時代の聖女だと思ったカイオーは助けを求めていたのだ。

 それなのに、私は去ろうとし、カイオーは私を追って……。


「すぐ気がついてあげられなくて、ごめんね」

 私はカイオーの頭をなでなでした。


「もう最初の少女との約束は十分果たしたよ。今まで、ありがとう……。

 もう自由になっていいんだよ」

 私はカイオーにそう言った。


 カイオーは目をうれしそうに瞬かせた。

「ギュラ! ギュラリュオーン!」

 鳴き声も元気になった。

 もう大丈夫かな。


「ハイル……。精霊も、契約も聖女も、封印も、本当はないものだったね。

 柱は聖魔法……、神聖力? の浄化の力で浄化できるはず。

 若い女性とかにこだわらず、浄化の力が使える国のすべての人に協力してもらって柱をきれいしてあげて。

 ハイルならきっとそれができると思う」

「……わかった。

 俺ひとりじゃ難しいかもしれないけれど、ハイレディンにも協力してもらってやってみるよ」

 ハイルが力強く言った。


 渦潮は消え、船は動き出せた。


 なぜかカイオーが後ろからついてくる。

 どうしてだ?

 自由になってと言ったんだけど。


『カイオーは聖石の柱が好きだったんだろ? それと同じ働きをしているものは?』

 マッちゃんの言葉に大神官の言葉を思い出した。


『思い出したか……。 

 今、あなたはこの場でこの聖石と同じような働きができる唯一の方です。

 と言われたよな。

 カイオーにしてみれば、新しいお気に入りは、場所じゃなくて人物になっただけだ』


 えっ?

 私についてくるの?

 えっ?

 ウォルフライト王国まで?

 で、そっからどうするの?


 ……まさかボールには入らないよね?

 どうするんだ?


 次の港町に入港した時、王都の様子が少しわかったそう。

 

 神殿地下から噴き出した水は広場を抜けた私を追って一方向へ伸びていたが、私が馬車で走り去ると全方向に広がり始め、神殿と王城と広場を水浸しにした。


 王は最初の方、水が私を追って一方向に自然の摂理に反して伸びていく段階で、神殿からの救援依頼も何もかもうっちゃり、馬車で山の方に逃げたのだという。


 大神官は夜の契約の儀式に備えて地底湖で準備をしている時に、苦しくなったカイオーが暴れ出したのに巻き込まれ行方不明だという……。


 地下の水路を使い、カイオーが私が乗るアルテ号を追いかけ、浄化できた時間ぐらいからじゃないかと思うのだけど、夕方には広場の水が引き始め、夜には王城、神殿もいつもの状態に戻ったそう。


 王も戻ってきたけれど、逃げ出した王の姿を見た神殿の神官達は王の言うことを聞かなくなったそう。


 また、王が馬車で神官達のお願いを振り切るように、自分だけが助かろうと馬車で逃げ出すところを見ていた民も多かった。

 

 その時の王の言動がかなり独りよがりだったそうで、あっという間に話が広がり、王都では王への不信や不満が爆発しているという。


 ハイル達早く戻った方がいいんじゃない?


「ちゃんとネモ達をウォルフライト王国まで送り届けてから戻るよ。

 それが……、俺達ができるせめてものお詫びというか、行動だから」

 ハイルが言うと、ハイレディンも頷く。

「今までの考え方がひっくり返るくらい、一度ガタガタになった方が、やり直ししやすいだろうし」

 ハイレディンの方がやっぱり、いろいろ先を考えてる、よな。

 本当にいいコンビだと思う。

 

 私とクラウス先生は航海中にハイルに光魔法の使い方を教えた。

 クラウス先生はハイルの草魔法のことも研究できて喜んでた。


 カイオーはずっとアルテ号についてきていて、ハイレディンが船尾からよく話しかけていた。

 カイオーの力なのか、船がいつもより早く進むのだという。

 隣を進むウォルフライト王国の船も同じような感じらしい。


 浄化の光魔法をかけてくれたみんなのことをわかってるみたいだよね。

 魔物とクラウス先生が言っていたけれど、人を襲う感じではないし(苦しくて暴れた時に大神官は行方不明になっちゃったけれど)、聖石をきれいにしたくて瘴気を吸って捨てに行くということもしていたし、人との関りも持てて言葉も理解しているようだし、知能も理性もある感じだよね。


 ランスとウォロは学校に提出するレポートをまとめていた。

 ランスは神聖ホウエン王国の神殿について書くことにしたそう。

 ウォロは魔法陣の箱にえらく興味を持ち、ハイレディンに実物を見せてもらいそれをまとめるという。

 そのうち実物作りそうだけど……。


 それから、魔道具の指輪もすでに作ってあったそうで、またプレゼントしてくれた。

 私の右手にまた復活した指輪を見たランスが「そんなにネモの居場所が特定できないと不安なのかよ」とウォロに言うと、それを聞いたハイルが頷いた。

「そんな指輪を婚約者に持たせてるなんて思いもしなかったよ。

 家族が小さな子どもに持たせるとかは聞いたことあるけどね」

 ハイレディンも言った。

「そうか、ネモは小さい子どもと一緒か。確かに危なっかしいもんな……」


 えっ?

「でも、ウォロとつながってると思うと安心じゃない?」

 私の言葉にウォロが笑った。


 ウォルフライト王国の港町に到着した。

 帰ってきたー!!

 

 その港町でハイルとハイレディンはすぐにホウエン王国に戻ることになった。

 ボートに乗りカイオーのそばに連れて行ってもらう。


「カイオー、ここまで送ってくれてありがとうね!

 私はここから陸に上がっちゃうの。

 一度ここでお別れだよ。また会えるといいね……」


 ハイレディンが言った。

「カイオー、このまま私達とホウエンに戻ってみないか?

 ハイルがホウエン王国を立て直すのを私は手伝うつもりだ。

 それに、仕事でウォルフライト王国に来る時にネモに知らせて、ここまで会いに来てもらうこともできるよ。ネモ、それはどう?」

 私は頷いた。

「うん、事前に連絡くれれば、この港町まで会いに来るよ。

 学校の試験とかと重ならなければ会いに来られる」


 カイオーはじっと考え込んでいるようだ。

 ハイルも言った。

「時間はかかるかもしれないが、聖石の柱の地底湖も浄化できるように頑張るよ。

 カイオーはもう何もしなくていい。

 俺達が頑張るから! それを見守ってくれれば……。

 それで時々、俺達と一緒にネモに会いにくればいい」


 カイオーは「ギュラ!」と短く頷くように鳴いた。

 納得できたみたいだ。

 私はカイオーに触れて「また会おうね。もう無理しちゃだめだよ」と言って、光魔法にその気持ちを込めて伝えた。


 私とウォロは陸に上がり、ハイルとハイレディンはアルテ号に戻り、出航して行った。

 カイオーも後ろからついて行く。


 マリアが国王陛下からの使いが来ていて、ちゃんと書類や契約した金額とかのやり取りも無事に終わったことを教えてくれた。(陛下に借金したみたいで、なんか怖い……)

 

読んで下さりありがとうございます。

午後投稿予定です。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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