122 神殿へ
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
ハイルは私と話したことで落ち着いたみたい。
「うん、とりあえず先のことが少しでも決まると頑張ろうと思えるな」
独り言のように言って、私を見た。
「ネモ、ハイレディンの病気、治してくれて、ありがとう。
ずっと言いたかったんだけど、ハイレディンがいつもいるから言えなくて」
ハイル、いい奴だな。
治しやがってとか思ってもおかしくない立場なのに、全然そういう気配がない。
ミーシカ王子を演じるのがうまかったけれど、……これは本当に本心からだろう。
「ネモをこの国に連れてきて、本当に良かったよ」
いや、それは……違う。誘拐は悪いことだぞ!
あ、でも、ハイレディンを治すことができたのは良かったけど、私とウォロを引き離してるのは悪いことだから!
「私は良くない! ハイレディンの病気を治せたのは良かったけど……。
私は帰りたい。
ウォロに会いたいし、ウォロの所に帰りたい!
学校に、友達や家族の所に帰りたい!
返してよ! 私の時間を! みんなの時間を!
こんな所に閉じ込められたくないし、神殿にだって行きたくないし、この国の聖女にだってなりたくない!
本当にまだ学校で自分がやりたいことだっていっぱいある!」
言い始めると止まらなくなり、涙が溢れてきた。
「ネモ……」
ハイルが慌てて近づこうとしてくるが、闇の防御壁を張った。
「ごめん、来ないで。
今は、泣いてる顔見られたくない。出てって」
「そうだよな……。ごめん」
ハイルがそう言って部屋から出て行った。
あー、なんか急に感情が溢れてしまった。
ハイルとハイレディンの関係は素敵だと思う。
ハイレディンの病気も治せて良かった。
でも、私がここにいるのは違う。
そして、私を助けようとウォロや友達や先生が……、もう1ヶ月以上も国を、学校を、離れて苦労しているんだよ。
良かったと言えない。
ウォロに会いたい……。
あー、考えれば考えるほどせつなく悲しくなってきた。
闇の防御壁を解除すると、闇の点々達になり、ふよふよと漂い始め、私の周りに集まって来るが近づいてはこない。
私は涙を拭って顔を上げた。
光の点々が私の頬にくっついてきた。
慰めてくれてるのかな。
闇の点々達もこちらに近付きたいけど、どうしよう……という感じで漂っているのが見える。
なんだろう。
私の闇の点々は丸っこい。
光はぴょこぴょこしてるんだけど、闇はふよふよ漂っている。
私は闇の点々達にも手を伸ばした。
ざっと群れで手から離れようとしてから、おずおずと戻って来て手に触れた。
一度触れるとぐいぐい寄って来る。頭を擦り付けてくるみたいに。
甘えてくれてるのかな?
なんか猫みたいだな。
闇もかわいいな。
私はそのままベッドにごろんと寝転がり、光と闇の点々達と戯れてるうちに寝てしまった。
目が覚めると部屋にハイレディンがいた。
「おはよう、その……、昨夜、ハイルがネモを泣かせたと気にしてて……。大丈夫?」
私は頷いた。
ハイレディンとハイル。あの後も話、できたんだ。それは良かったけど……。
「迷っていたんだけど、今日、神殿にネモを連れて行くことにした」
「えっ? 魔道具は?!」
「箱に入れていけばいいから。
私達も仕事だからと思っていたが……。そうだよな。ネモは幸せに暮らしていたところから、攫われてきてたんだよな。
一度、商会としてもこの仕事に区切りをつけたいし……」
いや、カルタロフが来てからじゃないの?!
計画が……。
えっ?
朝食を食べ、シンプルなドレスに着替えるとお馴染みの箱が運ばれてきて……。
えっと、どうしたらいいんだ?!
いやだとごねるか?
いや、神殿にクラウス先生達がいるかもしれないんだっけ?
えっと、どうする?
かなり動揺している私を見て、ハイレディンが笑った。
「動揺しすぎ。早く神殿に引き渡されたかったんじゃないの?」
「それはそうなんだけど……」
「大丈夫だよ。私はネモに助けられた。ネモが苦しむようなことはしたくないから」
「それはどういう……」
「今は言えない。箱に入って」
ハイレディンがここのところ、私を商品と言わなくなっていることには気づいていたが……、どういうことなんだろう?
味方になってくれるのか?
でも、この国の利益を考えると……。
ハイレディンが近づいてきて私の手を取った。
「触ると放したくなくなるから離れてたのにな……。
私は商人だ。契約した仕事はやり遂げなくてはならない。
でも、仕事が無事に終わりさえすれば、自分の好きに行動できるんだよ」
「それって……」
つまり、私を神殿に引き渡せば仕事はおしまいだから、その後はハイレディンの考えで動けるっていうこと?!
もしかしたら私を助けてくれるかもしれない?
「周囲の状況によってはどう動くかはまだわからないけど……。
今よりはネモの味方ができると思うよ。
だから、まず、私と、神殿と国の仕事の契約を終わらせてくれる?」
うーん、なんか騙されてる気もしてきたが……。
まあ、この部屋に閉じ込められてるのも飽きた。いいかげん暴れたい。
属性魔法を抑制しないのなら、神殿でも暴れられるしな……。
私はウォルフライト王国やミーア帝国の正式な使節や旅人でもない。
攫われてきていて、ここにはいないはずの人間だ。
私なら、自分を守るという口実で暴れても大丈夫だろう。
「わかった」
私は頷いて箱に入る。
騙されてませんように……。
箱に入って蓋をされたと思ったら、すぐに開けられた。
2、3時間ぐらいってとこか?
ハイレディンとハイルが見下ろしている。
後ろの空間に光の点々達がいっぱいいるのが見えた。
前に神殿を覗いた時に見た感じ。
私が半身を起こして座るとうれしそうに点々達が私に寄って来る。
「おお、神聖なるもの達が喜んでおります!」
知らないお爺さんが言った。
私は周囲を見渡した。
箱を開けてくれたのがハイレディンとハイル。
少し離れた所に椅子があって、その知らないお爺さんが座っていた。その後ろにふたりぐらい男性が立ってる。
もうひとつの椅子には若いちょっとぽっちゃりした男性が座っていた。ちょっとだけハイルに似てる。
ということは王かも?!
その後ろにも男性がひとり立っている。
最初のお爺さんは服装からすると神殿の人か?!
「「聖女様をお連れしました」」
ハイレディンとハイルがそれぞれ手を差し出すので、片方ずつつかまって箱から出るのを手伝ってもらう。
うん、抱き上げられなくて良かった。
ハイレディンは私をハイルに任せると、王らしい若い男性と話して書類を渡し、サインをもらい……ということをしていた。
「ではここにハイレディン商会の仕事が、無事に終わったということで」
ハイレディンが大きな声で言ってにっこりした。
「ネモ、またな。ハイル、ネモを頼んだ」
ハイレディンは入ってきた男達に箱を片付けて持たせるとその部屋から出て行った。
えっと、これでハイレディン商会の仕事は終了。
後はハイレディンがどう動くかわからないけれど……。
何かは進展している感じだ。
「王からのお言葉がある。こちらへ」
ぽっちゃりの後ろの男が大きめの声で言った。
ということは、ぽっちゃりが王で間違いないよな?!
ハイルが私をエスコートするように動き、王の所へ近付く。
「お前がミーア帝国で数々の奇跡を起こしたという聖女か?」
お前って言うなー!!
私はむすっと返事をしない。
ハイルが気がついて言ってくれる。
「王、ネモはお前って呼ばれるのを非常に嫌がる!」
この国では陛下じゃないんだ。
王が眉を顰める。
「面倒くさい女だな。性格が悪いのか、今回の聖女は……」
いやー、こちらもわかり合える気がしないっす!
私の表情が怒っていることに気がついているハイルがこそっと言った。
「とりあえず、落ち着こうネモ。兄さんは怒らせない方がいい。後々面倒だから」
あ、このハイルの兄さんの感じからしたら、ハイルがスペア扱いされてたっていうのなんかわかるわ?!
私は怒りを隠して笑顔を作る。
よーし見てろよ、とことん抵抗してやるからな。
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