120 闇社会の魔道具職人
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
次の日、私は部屋着ではなくてシャツとワイドパンツを身につけて準備した。
いつもと違うことが起こるわけだし。
動きやすい服装の方がいいもんな。
ハイレディンが「今日はその恰好?」と聞いてきた。
「うん、ハイルが人連れてくるって言ってたから」
「まあ、うん。たまにはドレスも……。いや、あまり魅力的なのも……。うん、いいんじゃないか?」
何をごちゃごちゃ言っているんだ。
まあ、了解を取れてほっとした。
何か企んでるな? と思われたら厄介だなと思ってたんだ。
朝食を一緒に食べてから、ハイレディンの身体を診る。
うん、大丈夫。
私の光を前ほど急激に吸収しなくなってきた。
身体の中でうまく栄養やらホルモンやらそういうものが回っているんだろう。
成長にエネルギーを使うため、疲れやすいのはあるみたいだから、そこを補うような効果に切り替える。
目を閉じて力を送り込んでいると急に左頬に手を当てられびっくりして目を開けた。
「何? なんか違和感でも?」
「いや……、ネモに触りたくなって、ごめん」
ごめんと言いつつ、手は左頬に当てたままだ。
私が顔を動かすと手もついてくるので、わざとひょいひょいと動かしてから笑った。
「ごめんと言いつつ、離れないな!」
「ごめん……」
左頬の右手に力が入り、顎を持ち上げられる。
えっ、これは……。ウォロがキスしようとする時、こんな感じ……。
私は治療をやめて両手でハイレディンの両頬をむにっとつまむようにつかんだ。
「はい、おしまい!」
元気に言って、つまんだ部分をちょっと揺らした。
「いひゃい!」
ハイレディンが言ったので手を離して笑った。
「ひどいな、ネモ……」
両頬をさすりながらハイレディンがぶつぶつ言った。
私は減ってしまった部屋の中の光を満たそうとまた光を放出した。
ハイレディンは聖魔法、ここの国だと神聖力、を持ってないのであまり気にならないよう。
逆に治療されてるぐらいで心地いいはず。
ハイルは光だと大丈夫みたいなんだけど闇は不快に感じるみたい。
どっちかというと攻撃だもんな、闇は。
その時、ドアがノックされたので私とハイレディンはあわてて座っていたベッドの上から降りた。
ハイレディンはドアに向かい、私は部屋のソファに座る。
ドアが開けられたので、行け! 光!! と私は念じる。
何個か廊下の方に飛び出して行った。
頭の中に廊下が見えたが、ドアが閉まるとその映像は遮断される……。
ハイルともうひとりの男性が入ってきた。
……!!
私の表情が強張りそうになり、ハイレディンやハイルに気がつかれないように下を向いた。
カルタロフだった。
うつ向いたまま考える。
えーと、今は味方なんだよね?
あの後、何かあって逃げたとかないよね?
私は右手の指輪を無意識に触る。
すると心が落ち着いた。
うん、なるようにしかならん!
私が下を向いているのに気がついたハイレディンに声をかけられる。
「どうした、ネモ?」
「この指輪、壊しちゃうの?」
なんだか、とてもかわいい声でかわいい言い回しのセリフが飛び出した。
いやー、自分でもびっくりした。
ちらりと見上げるとハイレディンとハイルも困ったような顔をしていた。
カルタロフがくすっと笑っている。
いや、あんたのせいだから! 動揺をごまかそうとしてんやぞ!
「彼女の右手の指輪ですか?」
カルタロフが言って私の方へ来ようとして、ハイレディンに止められる。
「ハイルはお前を信用したようだが……。先に荷物を改めさせてもらう」
カルタロフがカバンを渡した。ハイレディンが中を確認する。
「よし、不審なものはないな。じゃあ、指輪を見てみてくれ」
カルタロフが私の前に来て右手をつかんだ。
ドキッとしたが何も起きない。味方というのは信じてよさそうだ。
メガネを胸ポケットから取り出しかけてから、指輪をじっと見る。
「カバンを」とハイレディンに言い、近くに持ってこさせるとクラウス先生の作った簡易鑑定魔道具を取り出した。
それを当てたりいろいろしている。
えーと、壊すだけなら本当はそんなことしないでもいいのだ。
なんかそれらしく見えるようにいろいろしているわけで……。
私は笑いをこらえて、左手で口を覆い、肩を震わせた。
それをハイルは勘違いしたみたいで「ネモ、その指輪が外れたらもっとすごい石の贈るから泣くな」と言った。
カルタロフもフッと笑った。
私はそれを見て、スッと冷静になることができた。
あー助かった。
「一度嵌めると外せない効果と定期的に居場所を発信する効果があるようです。
壊すなら私の力でショートさせられますが……」
「壊してくれ」とハイルが言った。
「頼む」とハイレディンも言った。
私はため息をついた。
カルタロフが闇魔法の思念化を始めた。
闇の点々がカルタロフの周りを飛び回り始める。
はー、カルタロフの闇ってこんな感じなんだ。
黒くてトゲトゲしている。
流石、作業が早い!
もう魔石に闇を送り込み始めた。
魔石が濁り、ピキッと音がした。
「壊せました」
カルタロフの言葉に、ハイルが私の右手をカルタロフの手からひったくるようにつかみ、指輪を引き抜く。
抜けた。
「返して!」
私は指輪を取り返そうと身体を浮かして左手を伸ばした。
草の蔓が床から伸びてきて左手に巻き付き、右手にも巻き付いて拘束され、思わずソファに座りこむ。
部屋の光達が草の蔓を攻撃して少し緩むが私はじっとしていた。
カルタロフが草の蔓を興味深げに見ている。
ハイレディンがカルタロフに話しかける。
「名前は?」
「ダーゼン」
「そうか、腕がいいというのは確かなようだな。魔道具の作成もできるのか?」
「どんなものが欲しいんだ?」
「属性魔法を使えなくする、抑制する魔道具は作ったことがあるか?」
「ある」
「ではそれを頼みたい。何日くらいでできる?」
「最短なら3日で」
「では頼む」
「では3日後」
カルタロフが立ち上がり、ハイルを見て言った。
「送ってくれ」
ハイルはため息をついて立ち上がり、私の手の草の蔓の拘束を解いて、ドアを開け出ていった。
「3日後、魔道具ができたらネモを神殿に移す」
ハイレディンがそれだけ言うと部屋を出て行った。
私は自分のお尻の下に隠していた封筒を取り出し、急いでクローゼットの下着の所に隠した。
私が指輪を取り戻そうとハイルに掴みかかった時にすっとお尻の下に差し込まれたのだ。
ひとりきりになれるのは風呂の中なので、今すぐ見たいけど、我慢して後で読もう。
とりあえず、ここに私がいるのは確認できただろうから、後はウォロ達を信じて待つしかない。
すぐにハイルとハイレディンが戻ってきた。
何やら口論している。
「そんなすぐ? 魔道具ができてすぐじゃなくても……」
ハイルがハイレディンに言っている。
たぶん、3日後に神殿に引き渡すことに文句を言っているんだろう。
「とりあえず一度神殿に連れて行き引き渡さないと、仕事がいつまでも終わらないし、金も受け取れない。
もし、引き続きこちらで匿うなら、そこから新たに契約して連れ帰ればいい。
ウォロ達はどうしてる?」
「ウォルフライト王国の領事館を宿にして、王都の近隣を探しているみたいだ。
ここには気がついていないみたいで、ネモが服や靴を売った街の周辺や王都の市場などを回っている」
「そうか、でもネモが持っていた魔道具の指輪のこともある。
もしかしたら、こちらがつかんでいないミーア帝国のスパイがいるのかもしれないし。
ダーゼンだっけ? 調べた?」
「ああ、調べた。
ウォルフライト王国から不正規品の魔道具の作成で追われ、ミーア帝国に逃げ、そこでも皇家に対して事件を起こし、こちらに流れて来たんだ。どちらの国ともつながっている気配はない」
読んで下さりありがとうございます。
午後投稿する予定ですが、出かける用事があり、いつもより早めになると思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。




