118 魔法陣の部屋
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
あれ、今回なかなか開かないな。
箱の中で思った。
前は体感15分くらいで10日経ってたよね。
でも、体感だからなぁ。
その後はすぐ開いたと思ったら、数時間過ぎてたということが多かったしなぁ。
もうあんまり気にしない方がいいのかと思うけど、本当はどんどん日数が過ぎてると思うと焦る。
私だけ時間に置いて行かれている。
この調子で行ったら、学年で一番年下になっちゃう!
なんて考えていたら、箱の蓋が開けられた。
箱が開いてうれしい気持ちと、出たら何されるんだろうという怖さとごちゃまぜな感情。
「早く起き上がれよ!」
ハイルに言われるが動けない。
結局、腕をつかんで起こされ、抱き上げられる。
そのまま、また苦しいくらい抱きしめられて……。
「苦しそうですよ」
サナが言ってくれる。
やっと腕を緩めてもらい、息がつけた。
ベッドの上に座らせられる。
窓の外を見て驚く。
もう夏じゃない?!
森の緑の色が少しくすんで見える。日差しも少し柔らかい。
ハイルの屋敷の私がいた部屋だ。
「何日経ったの?」
「2週間だ。この部屋を直してた」
この部屋を?
見た感じはそんなに?
空気感に違和感を感じた。
こっそり風魔法を出してみようとして、出ないことに気がつく。
マッちゃん?
……、えっ?
箱の中と同じ感覚?
ハイルが右手をつかんで指輪を抜こうとするが抜けない。
「魔道具か……。いつウォロと接触したんだ?!」
「いえ、会ってない……」
「じゃあこれは」
右手首をつかんだまま揺さぶられる。
「ウォロに貰ったものに似ているから……」
「……わかった、今度時間がある時に外そう。この部屋の中では魔道具の交信もできないしな」
やっぱり、箱の部屋版作ったんだ!
絨毯の下とか壁紙の下とかに魔法陣書きこんであるのか?!
想像したらくらくらした。
ちょっと待ってよ。
もう9月下旬ってこと。
私、箱の中ではほとんど自分の時間が経ってないのに、ここのところを合算すると1ヶ月も周りは過ぎてるの?
そして今でもそれは進行中って……。
「この部屋を交信や魔法が使えないようにするので2週間もかかったんだ」
「魔道具の交信と属性魔法の抑制? 空間だけ? 時間は普通?」
私は聞き返す。
「時間を気にしていたのか?
この部屋の時間は周囲と同じだ。同じだけ時が進む」
ちょっとほっとした。
光魔法……は使えるんだよね、この部屋。
でも空間が遮断されてるなら光の点々達も飛ばせないか?!
部屋の隅に新たな壁が造られている。
元々広めの部屋だからそこまで違和感ないけど……。
私の視線に気がついてサナが言った。
「トイレと風呂だ」
独房ですか?!
もうこの部屋から出す気ないですね?!
「服脱げ。風呂に入れてやる」
ハイルに言われる。
「自分で入れる!」
立ち上がって風呂と呼ばれた場所に自分で行こうとしてサナに止められた。
腕をつかまれ、まじまじとその手を見て愕然とする。
「……男性だったの?」
腕をつかまれることなどなかったから、今まで気がつかなかった。
「ああ、私とそこのハイルで、正真正銘のハイレディンだ。
商会はハイルと私で動かしている。
背が低く小柄で童顔だから油断したか?
こうやってメイド服を着ればたいていの奴は騙されるけどな。
お前もメイド服が似合いそうだな……。
今度着せてやるよ」
わざとお前って言ってるな。
「お前はやめて、サナ」
サナの表情が歪む。
「サナって呼ぶな!」
あ、この人が本当のハイレディンなのかもしれない。
ただ、体格のコンプレックスか、先代がそうしたのかわからないけれど、体格の良い王弟を表のハイレディンとして迎えたのだろう。
「本当の名前は?
あなたが本当のハイル?」
「黙れ!」
サナが私のシャツをつかんで乱暴に壁に押しつけた拍子にボタンがいくつか取れた。
「おい、やめろ!」
ハイルが止めようとするが、サナに睨まれひるんだ。
「いつもお前の願いを聞いてやっているんだ。
たまには譲ってくれてもいいだろ?
な、王弟殿下?」
銀髪のハイルはサナを睨みつけると部屋から出て行った。
力関係はサナ……、いや、本物のハイレディンの方が上か。
「……悪かったな、乱暴して」
手を放してくれる。
「風呂に入りたかったんだろ。ハイルが戻ってこないようにいてやるから、さっさと入ってこい」
「え?」
「嫌なんだろ? あいつに抱かれたいわけ?」
慌てて首を振る。
「私はそこまで女性に興味はないから。でも、私といればハイルは簡単にお、いや、ネモには手を出せない。
部屋の改装を口実に、箱から出さないようにするの大変だったんだぜ。
あいつ、すぐ箱を開けたがってさ。何?」
私はサナの目を見てお礼を言った。
「ありがとう、ハイレディン」
サナの顔が真っ赤になる。
「この部屋の中なら、あなたを本当の名前で呼んでもいいよね」
「……勝手にしろ!」
私はクローゼットから下着と部屋着を取り出すと(クローゼットを開けたらドレスが増えてて驚いた)、小さな風呂に入った。
ああ、1階の広い温泉はもう入れないのか……。
しかし、どうするかな。
もうクラウス先生達もホウエン王国には来ているはずなんだけど、ここの場所も手紙でなんとなく当たりはついているだろうし。
私の反応がないから乗り込んで来れないのかな?
久しぶりにお風呂に入れて気持ち良かった。
「今度、メイド服着せてよ」
私が髪を拭きながらそう言うとサナ改めハイレディンがまた顔を赤くしてプイッと向こうを向いて言った。
「そういう変態みたいなことさらっと言うな」
「いや、動きやすそうじゃない、メイド服って。かわいいし!」
私の視線に気がついて、自分の服をちらっと見て顔をしかめた。
「かわいい言うな!」
「確認させて。ハイレディンは私をウォルフライト王国に返すつもりはないんだよね?」
「ああ、ホウエンの依頼で攫ってきたわけだし。きちんと引き渡して金をもらわないと」
「で、ハイルが私を婚約者というか恋人にしようとするのは阻止してくれると?」
「大事な商品だからな。
最初はあいつがふざけて言ってるのかと思ってたんだ。でも、思いのほか真剣だとわかったから……。 けっこう純粋な奴なんだよ」
「わかった。それでも、私にはとてもありがたい。ありがとう。
それで私はいつ神殿の方へ引き渡してもらえるんだ?」
ハイレディンは笑った。
「面白い言い方だな。そんなに引き渡されたいのか?!
まあ、神殿に入れば、ハイルはなかなか手を出せなくなる。
……王の方は自分で何とかしなくちゃいけなくなるけどな」
「王?
ハイルのお兄さん?
それは置いといて……」
「置いとくのかい!」
「神殿に行けないということは……?」
「そう、まだウォロだっけ? ネモの婚約者が頑張っているよ。
王城からは出してもらえたそうだけど、監視はばっちりついてるし、よくめげないなあと敵ながら感心するよ。
で、その指輪は本当にどうやって受け取ったんだ?」
私は黙った。
「まあ、どうせ箱や部屋にいる限り発信はできないけどね」
読んで下さりありがとうございます。
午後投稿する予定です。
これからもどうぞよろしくお願いします。




