115 王都へ到着
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
国交があるから大使館か領事館があると思うけれど、たぶん見張りがついてるだろう。
どこで一晩過ごすかな。
王都に入る時、大きな道には検問があるかも。
王都ぐらい大きな都市になると外側に城壁もないし、ゆえに門もない。
ウォルフライト王国やミーア帝国も大都市ほど門とかないし、通行料も取られない。
王城や王宮の近くになると壁や城壁などで簡単に入れないようにはしてるけど。
そしてその周囲に段階的に地区や公園を配置してそれが見えない城壁という感じの都市作りな感じがする。
小さな村や街の方が防壁や門があって、門番がいて通行料取られる。
見た感じ神聖ホウエン王国の王都もそんな感じだ。
港町ということもあるし。
でも、私のことがあるからいつもより道での検問が厳しくなっているんじゃないかな?!
もうすぐ夜になる。
丘を下ったところに、たくさんの人が集まっていた。
急いで王都を目指していたが、夜の移動は危ないので、ここでなんとなく集まって野営するのが慣習らしい。
私も子どもを3人連れた商人風のご夫婦に挨拶をして、横にいさせてもらうことにする。
「あら、男の子かと思ったら、女の子なのね」
奥さんが小さな声で私に言った。
「はい、男のふりしてます」
「そうね、気をつけた方がいいものね」
一番上の女の子が10歳、男の子が7歳、その下の女の子が5歳だという。
女の子が弟と妹に本を読んでやっている。
うまく読めなくて「ちゃんと読んでよ!」と弟に文句を言われてちょっと涙目になっている。
「一緒に読もうか?」と声をかけ、指で文字をたどりながら声に出していく。
女の子はけっこう読めている。だけど自信がなくて声が小さくなり、弟に聞こえないとかちゃんと読んでと言われて、よけいにつっかえちゃうみたい。
一緒に読むと大きな声で読めて笑顔になった。
奥さんが私にシチューを1杯ご馳走してくれた。
私はお返しに果物を子ども達にあげていいか確認してから渡した。
旦那さんからどこへ行くのか聞かれる。
「王都の港に婚約者の船が戻るので会いに行く」と答える。
「ひとりで?」と驚かれる。
「実は地元の村で婚約者が戻るのを待っていたけれど、他の男性に迫られて……逃げてきました」
そう言うと奥さんと旦那さんは顔を見合わせた。
嘘じゃないもんね。ようはそんな感じの話だ。
「お姉ちゃん、一緒に寝よう!」
女の子が言ってくれ、火のそばで寝させてもらえて助かった。
朝、お礼を言って家族より早めに出発する。
カバンの中のリボンとかあげてもいいかなと思ったけれど、検問とかで引っ掛かる可能性もあるし、迷惑になるかもと思い、やめておいた。
途中から横道を行き、検問がなさそうな場所を探す。
果樹園が広がるところに出た。
ここは手薄そうだな。
果樹園の向こうに細い道が見える。
果樹園と私がいる場所の間には用水路みたいなのが流れているから、警戒されてないんだな。
私は周囲に人がいないのを確認して、走って跳んで用水路を飛び越えた。
果樹園を小走りに抜け、細い道を行くと畑に出た。
こっちからなら物流の流れの道で港にたどり着けそうだな。
マッちゃん、王都に入れたよ。
そっちはどう?
どこに行けば合流できるかな?
『王城になんだかんだと理由を付けられ、留め置かれて出してもらえない』
私が逃げているからか……。
でも王城には近づけないし……。
大使館か領事館?
乗ってきた船はまだ停泊しているかな?
私も王都には来れたけど、居場所というか隠れる場所がないんだよね。
『領事館はある、船もまだ停泊している。しかし両方見張られているだろう』
ウォロ達は本当はどこに宿を取るつもりだった?
『船を使うか、王城のそばの宿か……』
そっか、とりあえず市場とかに紛れ込んでしまった方が良さそうかな?
どこか安い宿を探すよ。
『お金はあるのか?』
うん、少しなら、たぶん2~3泊ぐらいなら何とかなるんじゃないかな?
『王城から出られることになったらすぐ連絡する』
うん、待ってる。
港の市場だと危険かと思い、その手前の市場を歩いてみる。
露店のパンがおいしそうでひとつ買った。
お金も節約しないとな……。
市場の広場のベンチでパンをかじっていると、掲示板に何か新しいものが貼られみんなそれを読んでいる。
「そんな小さな子も……」「家族全員が……」なんて言葉が聞こえた。
なんだろ?
食べ終えてから、掲示板を見に行く。
貼ってある知らせを読んで血の気が引いた。
あの、夜を一緒に過ごした家族が捕らえられていた。
貴族から指輪を盗んだとあった。
父親は王都に入る直前に知り合った女からもらったと言っているが、その指輪はある貴族が婚約者に贈ったものであるため、その女が明日の正午まで名乗り出て来ない場合は、家族全員を処刑すると書かれていた。
なんで?
私はまた広場のベンチに戻るとカバンの中を震える手で確認した。
リボンが減っていて、指輪を結んだものがない。
あの家族の誰かが、盗んだんだ……。
恥ずかしそうに微笑む女の子の笑顔が浮かんだ。
シチューをくれた奥さん。
男の子に小さな妹ちゃん。
周囲の人と情報交換をしつつ、家族の様子を見ていた旦那さん。
気がついてしまった。
たぶん男の子だ。
カバンを少しの間だけど預けた瞬間があった。
その時にカバンの中でリボンを見つけて抜き盗ってしまったんだろう。
全然、気がつかなかった。
でも、家族が捕まっているということは、私の格好もばれているということだ。
マントは脱いでカバンにしまい、大判のハンカチを頭に巻いて髪を隠すことにした。
とりあえず、どこかに宿を取り、どうするか考えなくては……。
裏道に入ると小さな宿屋があった。
私は1泊の料金を訪ねた。
夕朝食事付きの料金で手持ちのお金なら4日ほど泊まれそう。
だけど、明日の昼までには出頭しないと家族が処刑される。
とりあえず1泊お願いして前金で払う。
小さな部屋に通され、夕食の時間になったら食堂に来るように言われた。
マントを取り出し、ほこりを払ってしわを伸ばしてから椅子の背にかける。
マッちゃん、非常事態だ。
ごめん、明日、私は出頭しなくてはいけない……。
『盗まれたのにか?』
あの家族を見殺しにはできないよ。
『まあ、ネモならそうだろうな。だからあんな知らせを周知したんだろうし』
うん、ウォロ達は王城から出してもらえない?
『ああ、そのせいでクラウス達とも連絡が取れない』
そうか、クラウス先生達も船で来るんだよね。
船、うー。港のそばにいるのに動けやしないし、逃げたらあの家族は処刑されちゃうし……。
とりあえず、明日の朝まで様子を見て、その後のことを考える。
でも、もう出頭する覚悟はできている……。
マッちゃんを介してウォロとも話しあった。
明日の昼に神殿を案内すると言われたそうだ。
王城と神殿は近いよね。
神殿なら王城より近づきやすいけど、昼だともう出頭した後だよな。
捕まったらどこに連れて行かれるのかな?
神殿か王城か……。またはハイルの屋敷か……。
どっちにしろ、次に捕まったら、もう自力で逃げるチャンスはないだろう。
ウォロとランスが無理やり王城を飛び出すことも考えているそうだが、ウォルフライト王国を代表してきていることもあり、あまり無理はできない。
『何とかウォロだけでも抜け出せないかやってみるそうだ』
いや、ウォロは無理でしょ。ハイルに絶対ガチガチに見張られてるよ。
他の人の方がまだ可能性あるんじゃない?
いつの間にか外が暗くなり、夕食の時間になっていた。
食堂に行くと、家族の処刑の話題で盛り上がっている。
「その女ってのが貴族の婚約者なのかね?」
「いや、婚約者付きのメイドかもしれん。盗める立場にいたとなると!」
「でも、そんな命懸けで盗んだ指輪を人にくれてやるか? やはり父親の嘘なんじゃないか?」
「そうそう、その女はもう家族に殺されてたりしてな!」
みんな好き勝手言ってるな。
カウンターで黙々と食事していたので、宿のおかみさんに話しかけられる。
「休んだら、疲れは取れたかい? まだ顔色が良くないね。大丈夫かい?」
「はい、今夜も早く休みます」
その時、後ろで処刑を見たことがある話が始まった。
「処刑は王城と神殿の間の広場でよう。仮設の刑場が造られると、見物が押し寄せるんだよ!!
こうどわーっとさ。
血が飛び散るようないい場所で見たかったら、午前中から行った方がいいぞ!」
おかみさんが顔をしかめて言った。
「ごめんね、物騒な話をしていて。ここらの船乗りや馬借の連中は悪い奴じゃないんだけど、口が悪くてね。申し訳ない」
「いえ……」
神殿と王城の間の広場なら、最後にウォロの姿を少しは見られるかも。
でも、昼まで出頭しないのは、あの家族の精神的負担がすごいか……。
確かに刑場まで引き立てられるというのはすごいトラウマになりそうだし。
その前に出頭して助けた方がいいのかな。
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