110 上陸
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
窓のそばに椅子を置いてハイルが起きるのを待つ。
全く起きねぇ……。気配すらねぇ……。
お腹も空いてきたぞ……。
私のご飯は?!
私は仕方なくハイルを起こすことにした、が近寄って起こすのは……。
寝てしまった! やばい!! と慌てさせてやりたい。
窓のそばにしゃがんで風魔法でそよ風ぐらいの風をハイルの顔に当てる。髪の毛が揺れる。
ちょっと表情が変わったか? もうちょい強めに……。
目を開け、顔に手をやり、起き上がり頭を振って……、また目をつぶって……。
はっ! とした表情になり、ソファとベッドを見て、慌てて立ち上がり、下に落ちた掛け布を踏んで転びそうになった。
私は我慢しきれなくなり、笑いだしてしまった。
ハイルが信じられないような表情で、こちらを見た。
「逃げなかった……のか?」
「おはよう、ハイル。お酒臭いよ。
それに私の朝ご飯は? お腹空いた」
「あ、待ってろ」
ハイルは部屋を出て行った。
私は床の落ちた布を払って畳み、ソファの上を片付けて座った。
次に箱に入れられるタイミングは上陸だろうな。
それまでに何かできることは……。
『船の名前でもわかるといいんだが……』
船の名前かぁ。
ハイル以外の人と話す機会ないからなあ。
まあ、わかったらいいよね。考えておく。
そういえば、王国の船は、そのホウエン王国とやらに入国できるの?
『ああ、国交はあるそうだ。
攫われたウォルフライト王国の令嬢を探しに来たというと警戒されるだろうが、ウォロ達はそのように申告する作戦らしいぞ』
へー、でもその方がホウエン王国としては協力しないと怪しまれるから、王城とかへも入りやすいかもね。
『そうだ、そして次に来るクラウス、ハロルド、ギーマ、カルタロフが王国貴族と商人に扮して、裏から探るそうだぞ』
なるほど。
私は王城か神殿とか、そこら辺に閉じ込めらるのかな?
『追手が掛かったことがわかったから……、どこか違うところに匿われるかもしれんな』
そういや、ミーアも動いたことを知っていたし、情報網広そうだよね。
ドアが開いてハイルがご飯を持って来てくれた。
「遅れてすまん」
「いえ、ありがとう」
パンにチーズに果物に、しかもスープがある!
「おいしそう!」
スープ皿はふたつ。ハイルも食べるのか?
私はコップに水を入れ「ハイルもここで食べるの?」と聞いた。
「ああ、いいか?」
もうひとつのコップに水を入れテーブルの上に並べる。
「どうぞ」
「ありがとう」
一緒に食べ始める。少し食べ進めたところでハイルが顔を上げて私を見た。
「どうして逃げなかった?」
「逃げても捕まるよね」
それに海の上じゃ、逃げられないし。でも、それを言っちゃうと上陸してから逃げる気があることがわかっちゃうもんね。
「あきらめたのか?」
「そうじゃないけど……。ウォロが追ってきてくれてるならそれを待った方が良さそうだし」
「何か他に連絡方法が?!」
「えっ、ハイルが言ったんだよ。王国から追手が来てるって。ウォロ以外にいないでしょ?!」
「あ、そうか。俺が言ったか、うん……」
「この船はハイルの船なの?」
「なんで?」
「いや、客にしては、この部屋、客室って感じじゃないし、船長だともっと忙しそうだろうし。
オーナーってとこかな? と」
「まあ、そんなようなところだ。
……昨夜は悪かったな。その、夜中に起こしたりして」
「うん、本当に眠かったよ」
「俺、何かしたか? その……?」
覚えてないのか?
「あー、私の右耳をなんだかずっと触ってきて、何だ? と思っていたら、ハイル寝ちゃったんだよ。
記憶がなくなるまで飲むなんて身体に悪いよ」
「あ、ああ、そうか。何もしなかったのか……」
「いや、右耳ずっと触ってきたって!」
「耳ぐらいならいいじゃないか」
「耳ぐらい?! 夜中に起こされて、酔っ払いに耳をずっとさわさわされたんだぞ?!」
「……それは悪かった」
「うん」
朝食を食べ終えると、ハイルが食器を下げに行ってくれた。
船の名前なんて唐突に聞けないしなー。難しい。
風の方はどうなんだろ。いい状態なら夕方ぐらいに箱に入れられちゃうかな?
ため息をついて、ハイルの詩集を手に取り、ソファに戻った。読書でもするか……。
ハイルが戻って来てベッドに腰かける。
「少し寝る。また読んでくれるのか?」
私の手の詩集を見て言った。
「続きから読もうか?」「頼む」
ベッドに横になると、また腕を顔に乗せ隠すようにする。
寝る時の癖なのか? 明るいのを防いでいるのか?
私は栞のページを開き、次の詩を朗読し始めた。
また5篇読んで、しおりを挟む。
暇だ……。私も寝よう。ソファに横になる。
開けてある窓から外のおしゃべりが聞こえた。
「ハイレディン様って貴族なのか?」
「ああ、まあ貴族だが、国の一大実業家でもあるよ」
「まあ、王家が後ろ盾についていれば成功するってもんか!」
「なかなかやり手だし、王国の裏の仕事もよく任される」
「あ、今回のどっかの姫さんをさらうとか?」
「そうだな、そんな仕事の時は足が速いこのアルテ号を単独で使うんだ」
ベッドからハイルが立ち上がった気配がしたので、私はそのまま寝たふりを続ける。
ハイルが窓を閉め、私を覗き込み、そして出て行った。
『アルテ号、この船の名前だろう。
そしてハイレディンは貴族で、王家の後ろ盾のある大きな商会を率いている実業家ってところかな』
そうだね。ラッキーだったね。
ハイル、寝たと思ってたのに……、あんまり深く寝ないのかも。
昨夜は酔いと闇魔法のせいで熟睡してしまった感じかな。
一緒の部屋にいる時は気をつけよう。
午後、甲板に連れてってくれて、そこでサンドイッチを渡された。お昼か。
船の向かう先に陸地が見える。
けっこう大きい街並みがぼんやり見える。街? もしかしたら都なのかも?
塔のような大きな建物が見える。
マッちゃん、ここだよ! よく覚えておいてね!
『うむ』
部屋に戻ると箱があった。やっぱりね。
中に入るように言われる。私は何も言わずに入って横になる。
またハイルに頭を撫でられた。
なんだよ? 子どもみたいに思ってるのな?
蓋をされる。
体感から、けっこうすぐ開くんじゃないかと思い、じっと待つ。
1分くらいで蓋が開いた。
どこかのお屋敷の部屋の中って感じ。
「ネモ、大丈夫か?」
ハイルの声で気配はそうなんだけど……。また姿が変わっている?!
今回は銀髪で肌が白い。目だけ変わらず水色。
さっきまでの黒髪、浅黒い肌も仮の姿なのか?
ミーシカ王子が淡い金髪に白い肌だったから、そっちよりになったけれど、雰囲気は全然違う。
ミーシカ王子はもっとおおらかでつかみどころのない雰囲気だった。
オードリーに言わせたら、たぶん今の方がより王子様っぽいと言われる感じだ。
本当にハイルなのか?
「ハイル?」
「ようこそ、神聖ホウエン王国へ。歓迎するよ。ここは私の屋敷だから、安心して過ごしなさい」
言葉使いも違うし、本当……、どれが本当のハイレディンなんだ?
もしかしたら、姿ごとに名前も変えているのかも?!
戸惑って座りこんだままハイルを見上げていた私を、また、抱き上げる。
おいおい、だから子どもや人形みたいにって……。
「まあ、どこの野良猫を拾っていらしたんですか?!」
女性の厳しそうな声がしてそちらを見る。
メイド長といった雰囲気の黒服の年配の女性がいた。
確かに、猫を抱き上げたようにも見えるかもしれん。
品のない感じの服だしな。
「モイラ、この子が例の聖女様だよ!」
「!! それは失礼しました」
「船で行水はさせてあげられたんだけど……。風呂に入りたがっていたから、仕度してあげてくれる?」
モイラが頷いて、後ろにいたメイド達に何か指示している。
「私を攫うように頼んだ依頼主の所へは?」
私が聞く。
銀髪のハイルは笑って「そのうちにね」と言った。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




