109 船旅
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
次の日、一緒に甲板を歩いてくれたりして部屋から連れ出してくれた。
ハイル、やさしくなってる?
午後、何か希望はないか聞いてくれたので、何か着替えがあれば身体を拭いて着替えたいと言った。
船で風呂は無理そうだし……。
箱が部屋に運ばれ、中に入るように言われる。
あー、どこかに港に入るのかな?
マッちゃん、どこかの港に入るみたい。また箱に入るから連絡しばらく途絶える。
『どこかの港だな? 連絡途絶えと……。気をつけろ!』
うん、箱におとなしく入って横になると、ハイルに頭を撫でられた。なんだ?
蓋をされ、また光達と戯れて遊ぼうとしたら、すぐに蓋が開く気配がした。
前より早い、数時間くらいかな?
起き上がると立つのを待てないくらいの勢いで子どもの様に脇あたりを抱えられ抱き上げられる。
ちょっと子どもとか人形じゃないんだから……。
新しい下着と服がベッドの上に用意されてた。
今、着てるのより涼しそうだけど、布の面積少なくない?
上なんてほぼ下着と変わらないデザインですけど?
下は長めのスカートだから大丈夫そうだけど……。
私が正直に「上の露出が激しい。何か羽織る物が欲しい」というと、舌打ちして、シャツを渡してくれた。
「身体を清めたいんだよな」
「清めるというか、お湯浴びたいけど、船だと水は貴重でしょ?
身体拭ける布と、少しお湯を分けてもらえれば……」
水魔法で水は出せるっちゃ出せるけど、部屋の中で出しても床にぶちまけるわけにはいかない。
水塊にして身体を漬けるとか……できるかもだけど。
ここで試すのは無謀すぎる。
「水は大丈夫だ。寄港したばかりだから。
お湯と身体を拭く布だな。
野郎なら甲板で行水できるが、姫さんだからな……。待ってろ」
そう言って箱が下げられ、代わりに大きなたらいが運び込まれお湯が入れられた。
大きめのタオルが2枚ほど渡される。手桶もくれたのでそれにきれいなお湯を溜めておいた。
「これなら浸かれるだろ?」
「ありがとう」
「30分ぐらいしたら戻って来る」
ハイルはそう言って出て行った。
急いでドレスを脱ぎ、下着を脱いでたらいに浸かる。手でお湯を身体にかけて汗を流した。
一度身体を拭いて足を拭き、新しい下着を身につけた後、身体を流したお湯であるけど、贅沢は言っていられないので髪をほどいてお湯につけ、頭と髪の毛を洗った。
まあ、洗わないよりいいだろう。少しべたべたしていたのがすっきりした。
最後にきれいな手桶のお湯で髪の毛を洗い流した。
もう1枚のタオルで髪をある程度拭けたところで、服を着てみる。
下のロングスカートは巻き付けるみたいな感じだった。
上のなんか左右の身ごろもが胸の前で合わせたようなデザインな奴は本当に下着の上を覆うぐらいでしかもピタピタな感じなので、その上にシャツを羽織った。
ソファに腰かけて髪の毛をさらに拭いているとハイルが戻ってきた。
脱いだ服と下着は、下着をくるむように畳んであったが、ハイルがつかんだので「それはどうするの?」と思わず聞いた。
「もういらないだろ?」
「えっ、いるよ!」
「そうか、いるのか……。わかった、洗っておいてやる」
「えっ、下着もあるので、水とせっけんもらえれば、自分で洗うけども……」
「大丈夫だ、うちのメイドにやらせるから」
メイド? 女性が乗ってるのか?
「着いた先に俺の屋敷があるからな。預かっておいてやる」
部屋にある籠に私のドレスを入れた。そこが洗濯物入なのか。
髪を下ろした私を見て「本当にきれいな金の髪だな……」と言った。
「この金髪は父似です」というと笑われた。
「そこは母だろ普通」
「いや、本当に父です。目は母似だけど……」
「どれ?」
急にずいっと近づかれたので焦ってソファの端っこから後ろにひっくり返りそうになる。
「!! 本当にあぶねーな」
ハイルに抱き寄せられて目を覗き込まれた。
「本当だ。目もきれいだな。母親はさぞかし美人だったんだろうな」
「はい、美しくて強い人でした」
「そうか」
ハイルはふっと笑うと私を甲板に連れ出した。
星がきれい。
昨日、あと3日って言ったんだっけ?
じゃあ、後2日か?
船だと風が良ければもっと早く着くかも?
私は船の帆を見上げたがよくわからない。
ハイルが帆を見ている私を見て言った。
「船旅は初めてか?」
「はい、海は見たことあるけれど、船は初めて乗りました」
「気持ちいいだろ」
「そうですね。風が気持ちいいです」
「ああ、いい風だ。この調子で吹き続けてくれれば、明日にも着けるかもな」
ふーん。早く着くかもなのか。
ウォロはどこにいるのかな。
その時、私の右手の指輪から一筋の光が伸びた。
あわてて左手で指輪を隠すが、ハイルに右手をつかまれる。
「これは魔道具か?」
「ただの指輪です」
「居場所がわかる指輪を贈るとは、お前の婚約者もなかなか面白い奴だな」
言いながら、指輪を取られてしまう。
「俺が新しいの買ってやるよ」
そう言いながら、海に投げられて……。
「あ……」
指輪、海に捨てられた……。
『指輪が魔道具とばれた。ちょうど夜の甲板にいて光がばれたな。海に捨てられた』
マッちゃんが言ってくれる。
「そのネックレスは? 見せろ」
「これは!」
抵抗したが押さえつけられて、外されてしまった。
なんで発動しないんだ?
悪意じゃないの?
仕事だからか?
「これも婚約者からか」
頷く。
「魔道具かわからねえな。わからないものは仕方がない!」
また海に投げられた。
魔道具かわからないのに捨てるなんてひどくない?!
『ネックレスも魔道具と疑われ、捨てられた』
マッちゃん、伝言ありがとう……。
なんか、どんどん自分の物が、ウォロとの物が取り上げられて、失って行くのが怖い……。
私の元気がなくなったので、ハイルが機嫌悪くなり、部屋に連れ戻される。
たらいが片付けられていて、食事の用意がされていた。
「食べてろ」
そう言われてひとりにされた。
「ああ、ウォロごめん。プレゼントしてもらったのに……」
指輪もネックレスもずっと身につけていたから、なんだかなくなるとスースーする。
私はため息をついてから食事を始めた。
『ネモ、気にするな。また作るからとウォロが言っているぞ』
うん、ありがとう。
『ネモがありがとうと言っている』
うん、ごめんより、ありがとうの方がいいよね。
食事を終え皿を下げやすいようにまとめておく。
そしてソファに横になり、昨夜から使っている大きめのバスタオルみたいな布をお腹から胸にかけた。
ウォロ、おやすみ。
『ネモ、おやすみ』
マッちゃんが言ってくれた。ウォロも言ってくれてるんだろう。うん、ちゃんとつながっている。
部屋の明かりの調節方法がわからないので、顔が陰になるように斜め下を見るような感じで寝ていたのだが、急に揺り起こされる。
「もう、朝? なわけないか……」
部屋の光量は少し落としてくれたようで薄暗い。
窓を見ると外はもっと暗い。まだ夜中のよう。やっと寝たのに……。目がしょぼしょぼする。
「何?」
ハイルだった。まあハイル以外の人がこの部屋に入ってくるのは箱を運んでくるぐらいか。
お酒臭い!!
ハイルの目がちょっとおかしい。焦点が合ってないような……。
なんでそんなになるまで、しかも仕事中だろうに飲んだんだ?!
私の右耳をつかむ。
「こっちには耳飾りしていないのな?」
右耳をずっと形を確かめるみたいに触られ続けて、いいかげんイライラしてきた。
無言で耳をむぎゅむぎゅされたり、指でなぞられたりするのは気持ち悪い。
『酔ってるな。これならネモの闇魔法でも寝かせられるんじゃないか?』
おお! その手があった!
そっと左手のひらをハイルの方に向けて闇魔法をかけてみる。
黒い点々がハイルの方へ向かっていく。
前はなんとなく靄っぽく見えてただけなんだけど、今回は光と同じく点々に見えた。
ハイルにくっつくとスーッと身体の中に入って行く。
「ん?」
ハイルが右手を虫を払うように振った。
気がつくということは聖魔法持ちなのか?
しかしここでやめるわけにはいかない。私は力を上げた。
黒い点々達がハイルの周りでぴょこぴょこしてる。
なんだか『やってやんぞ!』と頑張っているように見えて微笑んでしまった。
私の顔を見てハイルが「やっと笑った……」とうれしそうに言って、がくんと倒れこんできた。
寝た!!
私はソファとハイルの間から脱出して、ほっとした。
でも、ここは船の上。
逃げ出してもどこにも行けないから、部屋から出るのは得策ではない。
『そうじゃな……。上陸してないと逃げられないな……。下手にここで逃げると監視が厳しくなる可能性もあるか……』
そうだよね。逃げると闇魔法で寝かしたのもばれちゃうかもしれない。
ハイルがソファで寝るなら、ベッドで寝ちゃうか!
私はベッドで手足を伸ばした。
なんだか素晴らしい解放感!!
久しぶりにぐっすり眠った。
窓から入ってくる朝日で目覚める。
起き上がって大きく伸びをする。
ハイルはまだソファで寝ている。
私は起き出してベッドを整え、ドアを確認する。
うん、やっぱり、ハイルじゃなきゃ開かないようにされてるね。だと思った。
部屋の窓を開ける。ふたつあるので両方とも。
これはちゃんと開けられた。まあ小さな丸窓なのでここから脱出は不可能だけどね。
外の空気が入って来る。
今日の午後か明日上陸できるって言ってたよな。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




