108 王家の紋章(カトレア視点)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
今回は時々入る他視点の話です。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
ネモ達がミーア帝国から帰国すると連絡をもらい、ほっとした。
何でネモはあんなにトラブルに巻き込まれるのか。
まあ、自分から飛び込んでいるケースも無きにしも非ずだけど。
でも、全くの考えなしじゃない。
確かに無謀だったり、呆れてしまうようなこともあるけれど、それをウォロと補い合って解決していく姿は、見ているととても好ましい感じがする。
同じ神の愛し子という共通点があるからか、妹のような……、もう娘のような気さえする。
カルタロフ伯爵の性的な作り物の映像での脅迫……。
映像を消す作業はしんどかったけれど、ネモのためにも頑張ったわ。
ウォロには絶対に見せたくなかったし。
被害に遭ってしまったランスも、クラウスの弟で気が使える子だから、吹聴したりすることもないだろうけれど、本当にひどいことを考える人間がこの世にいるんだと改めて思わせられる出来事だった。
私達は子ども達を守るためにもっと創造力や予想力を身につけないといけないのかもしれない。
思ったより早く帰国でき、残りの夏休みを王城で寮のみんなと過ごすようだと聞いた。
せっかくの夏休み。カルタロフの事件も片付いたことだし、のんびり楽しんで欲しい。
夏休み明けに会えるのをとても楽しみにしていた。
ところがとんでもない連絡が飛び込んできた。
ネモが誘拐された?!
ウォロもマリアもアンドレアスもエドワードもランスもいる王城で?!
どういうことなの?
私は王城に駆けつけた。
マリアとウォロは王城からネモを誘拐して逃げたと思われる謎の一団の追跡をすでに始めて、城を出たそう。ネモの義兄のジョシュアも合流する予定だそう。
私はネモが誘拐される直前まで一緒にいたランスに話を聞いた。
プーラン王国のミーシカ王子を名乗って王城に逗留していた男は……偽者だったのだ。
ネモに昔の噂の話をして、誤解を解かせようと仕向け、ネモだけを呼び出そうとしてきたが、ランスが一緒に行ったのだという。
そこで、知らぬ間に植物の蔓のようなもので拘束され、ランスを傷つけたくなければ、大きな箱に入るようネモに命じたのだという。
植物の蔓……、草魔法かしら?
聖魔法と同じでとても珍しいのよね。
その直前、ネモはミーア帝国で光魔法でたくさんの人を治癒してきたことを言われていたそう。
そして聖魔法は魔法ではないと……。
草魔法と聖魔法の定義の違い……。
そして治癒魔法へのこだわり……。
神聖ホウエン王国では?!
でも、ネモを誘拐した人物。
つまり他国の王子に変装して王城に潜入し、陛下や大勢の目を欺き、ネモをまんまと誘拐した人物がホウエンの人間だとはとても思えない。
ネモが入るように言われた箱の中には魔法陣が描かれていたそう。
ネモとウォロの間のサンマチネスの守護霊のつながりも一時的なものらしいが絶たれているそう。
それだとやはりホウエンが怪しい。
神聖ホウエン王国の関与が見られるが、実行犯は違う……。
ランスはかわいそうなくらい落ち込んでいて……。
殴られた傷を私が治療するとすぐにウォロと合流すると言ってきかなかった。
私はランスを研究室に連れて行き、神聖ホウエン王国についての説明をしてから、一緒に学校長の所へ行った。
ネモを取り戻すのは日数がかかるのが予想されたからだ。
そこで、ネモが神聖ホウエン王国まで連れ去られていた場合、奪還するのに日数がかかるだろうということを伝え、ウォロとランスの学校外活動を認めてくれるように言った。
このふたりは止めたとしても学校をやめる勢いで飛び出して行ってしまうとわかっていたから。
国王陛下から、ネモの救出に際してウォロやランスの行動に配慮をしてやって欲しいという連絡もあったそうで(ウォロはわかるけどランスも?)、このふたりに関しては学校外特別課題ということにしてもらえた。
ネモは3ヶ月の休学期限を越えてしまったら、その時また考えようということになった。
私は王国からミーア帝国皇都にあるウォルフライト王国大使館へ連絡を入れた。
王都にあるミーア帝国大使館にも。
そして国王陛下はミーア帝国皇帝に緊急の文書を送った。
その内容を知ったのはクラウスがミーア帝国を発つ連絡をくれた時だった。
クラウスとその従者、マイネ、辺境伯爵家の従者であるハロルド、それにカルタロフが一緒に王国に帰るという。
なぜ、カルタロフ?
クラウスの連絡には国王陛下がカルタロフの力を使いたいと皇帝陛下にお願いし、認められたとあった。
何考えてんだ! あの国王は!!
確かにカルタロフは聖魔法も魔法陣も使いこなすし、調べ物をしたり探索したり、侵入したり、魔道具を作る……ということが得意かもしれない。
でも、ネモとウォロを狙ったり、ミーア帝国に復讐しようと皇子や皇女を狙っていた男よ。
マイネは学校に戻るし、クラウスとハロルドだけでは心許ない。そうカルタロフの逃亡の恐れも……。そこで私はクラウスが帰国次第、ギーマも一緒に行動してくれるように頼んだ。
夏休みが終わる2日前、クラウス達がカルタロフを連れて戻ってきた。
私はその前に、レイモンドとアルテイシアにミーア帝国でのカルタロフの話をし、帰国したネモが違う事件に巻き込まれ誘拐されたことも話した。
そして、両方の国の陛下からネモの救出を依頼され、それによりカルタロフは王国に戻れること、ネモを助けることができたら、両国からカルタロフ伯爵として許され認められる予定であることを話していた。
レイモンドもアルテイシアもネモを助けて欲しいと父親に頼んでくれた。
アルテイシアは父や家の名誉のために言っていたようだが、レイモンドは違った。
心からネモを助けて欲しいという気持ちが伝わった。
「そうか、お前もネモフィラを好きなのか?」
「それはわからないけど……、学校に入学して2年生の時にネモとウォロが入学してきた。
僕はふたりにつらく当たった。なんでかというと、父様が怒っていたミーアの皇子だし、その婚約者だし、アリス様とも仲が良くないと聞いていたからだ。
でも、違うんだ。あのふたりは、本当に。いい奴なんだ。一緒に過ごすとわかる。
父様もずっと狙っているうちに……、本当はふたりのこと好きになったんじゃない?
そういうふたりなんだよ。国とかそういうのじゃなく!!」
カルタロフの表情が少し緩んだ気がした。
「わかった、努力してみよう」
次の日、ネモとウォロのサンマチネスによる会話ができるようになり、居場所のわかる魔道具の反応も現れたそうだ。
それによると王国から南西の海を航行中の船にいるようだとのこと。
やはり神聖ホウエン王国に向かっているのだと思われる。
王国の船を手配し、ウォロ達は追いかけ始めた。
クラウス達はそれを追いかけ、数日遅れで出発する船に乗り込む予定だ。
寮にエドワードやアンドレアス達が戻ってきた。
彼らは生徒会室で何やら相談を続けている様子。
何かしでかしてしまわないように、私は生徒会室を訪ねて、進展状況を説明した。
「今は考えられる最高の人材がネモを追っています。行き先が神聖ホウエン王国だろうという推測もできました。後は待つだけです。ネモとウォロとランスが戻ってきた時に困らないようにサポートしてあげて。それができるのはあなた達だけよ」
「でも、カルタロフが裏切ったら? あいつ、本当にミーアへの復讐のためだけに、小さな子どももいる宮殿に火をつけたんだよ!」
エドワードが吐き捨てるように言った。
「今は信じましょう」
「何故、神聖ホウエン王国がネモを狙うんですか?」
オードリーが聞いてきた。
「神聖ホウエン王国は精霊を世界のすべてと考えていて。
王国や帝国と違うのよね、特に聖魔法に対する考え方が。
私達は聖魔法と便宜上呼んでいるけれど、彼らにとって精霊の力を借りて起こす奇跡なのよ。魔法って」
「だから聖魔法を使って、ミーアで治療をたくさん行ったネモを……」
「そうね。ホウエン王国にしてみればその情報をゲットして精霊聖女を見つけたという感じかしらね。
だから、向こうは誘拐したというより優秀な聖女を自国へ迎える、それは以前から精霊に決められていた運命くらいの感覚なのかも。
ネモはひどい目には合っていないわよ。きっと」
生徒達もとりあえず納得してくれたみたい。良かった。
私は自分の研究室に帰りながらふと思った。
あれ、主人公が金髪で青い瞳でなんかいつも他国の王や王子に攫われたりしているマンガがあったよな。なかなか完結しなくて……。最後どうなったんだ?
主人公の名前がキャロルだっけ……。
久しぶりに前世の世界のことを思い出した。
読んで下さりありがとうございます。
今日の午後も投稿する予定です。
どうぞよろしくお願いします。