106 夏休みの続き(後)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
「なんか気に入らないな。あのミーシカって王子」
ランスが言った。
「従者は横柄だったのに、王子は物腰が柔らかで丁寧な感じだったわね」
オードリーも首を傾げている。
「うん、丁寧なんだけど、なんか裏がありそうな感じだと思った」
私も感じたことを伝える。
「王城ではそんなことをしないと思うけれど、ネモとオードリーとシーラは気をつけた方がいいな」
エドワードも経緯を聞いて言った。
まあ、従者にはケンカ売っちゃいましたからね、私。
「アンドレアスと同じくらいの人?」
私の問いかけにアンドレアスが答えてくれる。
「いや、年上だ。22歳だったかな?! 20歳は越えてるよ」
けっこう年いってるな?!
第2王子だっけ?
国に婚約者いそうじゃない?
なんでウォルフライト王国に来て、ナンパなんかしてんだ?
「どれくらい滞在するの?」
「それはわからないな。マリアに聞いておくよ」
今度はエドワードが答えてくれた。
セレナのメイドのマナ、アリスのメイドのアンにも話をして、シーラと一緒に行動してもらえるように頼んだ。
オードリーと私はみんなと一緒に行動すれば大丈夫だろう。
昼食後、みんなで勉強をしていると、またミーシカ王子と従者がやって来た。
そういえば後のふたりは何者なんだ?
セレナとアリス達のテーブルに行き、声をかけている。
ライトとアンドレアスがちょっとピリピリしていた。
そうだよね。
昨日、レストランでナンパしてたよという人物が自分の婚約者に声かけてきたら嫌だよね。
アリスと話しながら、私の方を見る。
なんだ?
するとこちらのテーブルに来て話しかけられた。
「アリスとネモは姉妹なんだね」
ネモっていきなり……。アリスのことも呼び捨てだし。
「はい、そうですけど。アリスは第1王子アンドレアス様の婚約者です。
名前呼びを許したのですか? 親しげな呼び方はやめた方がいいと思います……」
私の言葉にエドワードが笑った。
私の名前も呼ぶなよという意味がエドワードにはわかったみたいだ。
「さすが悪役令嬢と噂されてるだけあるね。エミリア嬢と呼んだ方がいいかい?」
「どうぞお好きに。いつの噂の話をされているのですか?」
「いや、噂を聞いて君に会ってみたいと思ってね」
前の噂?
ウォロと政略婚約で、アリスをいじめてるという奴かな?
「どんな噂でしょう?」
「美しいけれど高慢で男を惑わす悪役令嬢のため、この国では手に負えないと隣国の皇子に婚約者として押しつけられたという噂だよ」
ん? 1年の時の花祭りの時のかな?
「実際に会って、噂は嘘だった事がおわかりでしょう」
「いや、君は美しくて高慢だ」
「は? 初めて高慢と言われましたけど?!」
私の言葉にエドワードとウォロが笑い出した。
「うーんどちらかと言えば……」
ランスが不穏なことを言う。
確かにランスは突っかかって来るから強めに言い返したりするけど、それが高慢になるのか?!
「そっか、気をつけるようにするよ」
とりあえずそうランスに返事しておく。
話は終わったつもりだった。
「いや、あなたはそのままで!
私があなたをそのまま受け入れます。どうぞ私の手を取ってくださいませんか?」
ミーシカ王子が急に言ったので、みんなびっくりした。
「えっと……、私には婚約者がいまして……」
「ええ、政略的なものですよね。おいたわしい……。私が救いだして差し上げましょう!」
えっと、ツッコミどころがあり過ぎる。
「全然違います! なんか全然違うんですけど!!」
ウォロもエドワードもランスも笑っていて助けてくれない。
孤立無援とはこのことか?!
「あなたの噂を聞いた時、この人こそが私の求めていた運命の人だと思いました。
昨夜、レストランでお見掛けして心惹かれたのもその証拠です!」
いや、運命の人にこれから会いに行こうとしているのに、レストランで他に気になる女の子に声かけてる時点でおかしいよね?!
今回はたまたま同一人物だったけどさ。
私が苦笑いを浮かべているのにミーシカ王子の話は続く。
「周りに誤解されているのですね。私が力になります。
あなたは私のそばであなたらしくいて下さればそれでいいのです」
「……何かあるのですか?
ウォルフライト王国の貴族女性と結婚しなければならないとか、何か事情がおありですか?
私の悪い噂を聞いて、この女性なら、政略結婚を嫌がっているなら、あなたの手を取ると?」
ミーシカ王子の表情に焦りが見えた。
確かに何か理由があるみたいだ。
「その私の噂は1年程前のものです。
でも、それはわざと作られた噂で……。本当の事ではありません。
どんな理由があるかはわかりませんが、私があなたの手を取ることはありません」
ミーシカ王子がウォロを見て頷く。
「婚約者と一緒の席では本音は言えませんか……。
別の場所でお話できませんか?」
めんどくさいな。でも、ウォロのことを誤解されたままというのも癪に障るし、話はつけるか!
「わかりました」
席を立つと、手を差し出してくるが、その手はつかまない。
「どこですか?」
「私が逗留している部屋で」
「……部屋ではなくて、外の方がいいのですが。あの池の所のベンチとかどうですか?」
ここから見える池のそばのベンチを指差す。
「いや、私は虫が苦手でして……。室内の方がありがたいです」
「……わかりました。ただ部屋だとふたりきりでは……」
「私の従者がおります」
あの暴力従者か……。
「じゃあ、私も友人をひとり……」
ぐるっと見てランスの腕をつかむ。
「ランス、一緒に来て」
「えっ俺?」
「こういう時はランスが頼りになりそうだから」
「しょうがないなあ。ネモに頼りにされたら行くしかないか?!」
そのやり取りを見てウォロが立ち上がりかけるが制止する。
「ウォロがいると本音で話してないって言われちゃうんだから、待ってて」
「本気で相手してやることないんじゃないの?」
ウォロが心配そうに言った。
「政略的な婚約とか結婚じゃないこと、説明してくるよ」
王城の中の部屋に通され、ソファーに座るように促された。
お茶も出されるが私もランスも手をつけないことにした。
「私もランスも用事を抜けてきています。時間をかけるつもりはありません。
持ち出す噂にしても古すぎるし狙いは何です?
それに私とウォロは政略的な婚約ではありません。
個人的に知り合ってから、お互いに思い合って婚約しています」
ミーシカ王子の雰囲気が急に変わった。
「……ミーア帝国で魔法による治療行為を行いましたね?」
「はい? それをどこから?」
まだウォルフライト王国でも噂というか話題にすらなっていないのに。
「それも噂ですよ、私達の所には様々な噂や情報が日々入りますから。
今年の夏、ミーア帝国に聖女が現れたと。
神殿の治療院で大勢の子ども達を。また魔獣に襲われた人々を救ったと。
それはあなたのことですね」
「私、ひとりではないです。マリアもウォロも聖魔法を使えるし……」
ランスが話すのを止めるかのように、私の前に手のひらをこちらに向けて差し出した。
もうしゃべるなということだ。
「聖魔法と呼ばれるその……、魔法ではないとしたら?」
「魔法ではない?」
私は混乱して聞き返した。
「そうです。魔法とは違う大きい存在の力です」
ドアからもうふたり、大きな箱を持って部屋に入って来る。
何か違う話になっている。
プーラン王国はウォルフライト王国に似ている宗教的な価値観や文化を持っているはず。こんな話聞いたことがない。
「失礼します」
私は立ち上がろうと気がついた。
足が縛られている。全然気がつかなかった。
ランスも足を縛られ、腕も後ろに拘束されたみたいになっている。魔法は出しにくい体勢だ。
私はまだ手が自由だったので、足の拘束を触ってみる。
植物の蔓みたいな……。光魔法の電撃をするとするっと逃げるように解けた。
マッちゃん、ウォロにつかまったと伝えて!
『ネモとランスが捕まった。相手はプーラン王国ではなさそうだな。
ネモ、プーラン王国ならば、肌と髪の色が特徴的だ。真似しやすい』
プーラン王国の王子ではない?!
王城に乗り込んできているのに?!
王城のセキュリティどうなってんだ?!
「ネモ、逃げろ! 俺にかまわずにげろ!」
ランスが叫ぶが、そんなことできるわけない。
ランスの蔓にも電撃をと思うが、ランスは男達に引きずられ私から離されてしまった。
「ランスを放して!」
「ネモ、この箱の中に入って頂けますか?
入って頂ければ、ランス君に危害を加えないと約束しましょう」
この箱?
従者が箱の蓋を開けた。
覗き込んでびびった。箱の内側に魔法陣がびっしり書き込まれている。
「魔法陣? なんで?」
「入って下さい。入らなければ……、やれ」
ランスが殴られる。
「やめて、入るから!」
ミーシカ王子のふりをしていた人物の目をじっと見る。
「ランスにもう何もしないで。
あなたを信じます。ランスは無事に帰して下さい」
「ネモやめろ!」とランスの声が聞こえた。
「ランス、ウォロに、よろしくって言っておいて!」
私は箱の中に入った。足を軽くかがめて寝ころべるぐらいの大きさ。
ちょっと窮屈ではあるけれど、苦しいわけでもないぐらい。
蓋をされ真っ暗になった。
外の音も全然聞こえない。
魔法陣の効果なのだろうか?
マッちゃんも遮断されちゃったみたいだ。
あー、王城に入ってきている人だしと油断しちゃったな。
プーラン王国でないなら、いったいどこだ?
もしかしたら国でもないのか?
夏休みまだ残ってたのに。
誕生会もやろうって話してたのに……。
読んで下さりありがとうございます。
午後投稿する予定です。
これからもどうぞよろしくお願いします。