103 出発までに(中)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
2階に行くと、親子の病室に案内される。
子どもは歩き回れるようになっていたが、母親はまだベッドから起き上がれない様子。
私は医師に頼んで傷を見せてもらう。
うん、傷は塞がっている。
見た目で毒は感じない。
私は母親の手を左手で握り、右手を傷にかざした。
身体の中と外から傷に集中する。
外の方は傷が治っていくが、身体の中側が治りが遅い……。
何が原因だ?
身体の中の光魔法の流れを意識する。
肺の動きが少し悪いようだ……。
なんだろう?
肺の方に光魔法の力を注ぎ込み力を高める。
続けると肺の動きも良くなり、呼吸も楽になったようだ。
身体の中の光魔法の流れも背中の傷に集中して流れるようになった。
これで大丈夫。
「呼吸が苦しかったですか?
今、治したので、身体が楽になったと思います。もう大丈夫ですよ」
母親が答えてくれた。
「ありがとうございます。かなり楽になりました。
私、魔獣に嚙みついたんです。子どもを守るために夢中で……。
その時、血を吸い込んでしまったらしく……。言葉も出しづらくなっていて……。
最初はそこまで苦しくなかったのですが、だんだん……」
「そうだったのですか……、最初治療した時、気がつかなかったです。ごめんなさい」
「いえ、こうやって気がついて治していただけて、本当にありがとうございます」
子どもの方はウォロが光魔法をかけてくれていた。
大丈夫そう。
「お大事にして下さいね」
ふたりで医院を出て、私はため息をついた。
「疲れた?」
「ううん、口の中も洗浄していたら、肺の症状ひどくならなかったのかと思って。
身体を最初に診る時、口の中も見た方がいいんだね。うん、気をつけよう」
「あの場ではそこまで気が回らないよ。急いでいたし。様子を見に来て良かったな」
「うん」
「あんまり気にするな」
魔獣に襲われた時は口の中も洗浄できるならすること。
しっかり覚えておかないと。
騎士団の方に行くと、外の練習場に案内された。
マリアが見学している。
預けていた荷物を受け取り、私は動ける服装に着替えることにする。
騎士団の人に空いている部屋を教えてもらい、着替えてから出てくる。
ウォロがお茶を飲んでいて、私にも渡してくれた。
歩き回って、光魔法かけて、のどが渇いていたからありがたい。
ミーアには女性騎士いないんだな。
ダンテが二刀流の木剣と防具と手甲足甲持って来てくれた。
「サイズはどうだ?」
「うん大丈夫です!」
久しぶりに着けてみた。
トントンその場でジャンプしてみる。大丈夫ずれない。
「それにしても、騎士団によくありましたね? 騎士というと長剣のイメージがあります」
「ほとんどの者が長剣となにか違う得物の練習をしている」
「そうなんだ! それは剣術としても強いですね!」
私の素振りをダンテが見てくれた。
「ダンテは二刀流できるの?」
「私はできないが……」
「じゃあ、何で見てるの?」
「ネモと試合してみたいと思ってな」
「えっ! エドワードやウォロの方が強いよ!」
「ネモとした後、ウォロと試合するよ」
「さすが騎士、体力すごいですね……」
長剣の木剣を構えたダンテと向かい合う。
うー、なんかウォロと似てるな……。全然隙がない。
しかも話を聞いた感じだと、違う剣術ともよく戦ってそうな感じだし……。
足甲でかき回すしかないか!
私はいきなり足甲で蹴りを入れた。
ダンテが剣で払ってくるので、その反動を利用してさらに上に跳びあがり、ダンテの肩を反対の足で蹴りたいところがそこまでできず、足場にして押すような感じでさらに背後に飛ぶ。
「剣の戦いではなさそうだな」
ダンテが少し体勢を崩しながらも笑って言った。
「剣では無理そうなので」
私も間合いを取りながら答える。
「それでは参る!」
ダンテが言葉とともに突っ込んでくる。
ふるってきた剣の下をくぐり、転がるようにして後ろに抜けるが、そのまま剣を後ろにぶん回してきやがった!!
とんでもない!!
転がってかろうじて避け、飛び起きて距離を取る。
勝てる算段が全く見えない!!
私が逃げる方向を読んで、そちらに剣を向けてくるのだ。
ダンテが思いつかない方向に逃げるか攻撃するしかない。
私はダンテに一気に近づくと、左の短剣で振りを止め、ダンテの剣の柄に左手、ダンテの腕に右手を掛け逆上がりの様にぶら下がって足を振り上げダンテの頭を足甲で狙った。
ダンテが腕の力を抜いた。私は地面に転がって逃げる。
「とんでもないことをしてくるな」
ダンテが笑いながら言った。
相手の力を利用して方向を変えたりする私のやり方をもう見抜かれてる。
もうだめかも。
ダンテが剣をコンパクトに振りながら間合いを詰めてくる。
後ろに下がるしかない。
右の短剣も左の短剣も受けるだけで、剣の勢いを受け止めきれず、結局、手に限界が来て両方の短剣を飛ばされてしまった。
「参りました」
私は降参した。
「ダンテの魔法属性は何?」
私は試合を終えてから聞いてみた。
「火だ。私は1属性しか持っていないが、あまりうまく使えなくてね」
「これだけ剣術が強いなら、剣にまとわせれば魔法も斬れるはず。
火なら、ウォロもエドワードもティエルノもかなりの使い手なので、練習方法を教えてくれますよ」
ウォロが「頑張ったな」と迎えてくれた。
「ダンテ強いね。ウォロに似ている。やっぱり兄弟だね」
「ダンテに勝ったらご褒美は?」
「……そいうのやめようよ」
ウォロもダンテと試合をしたが、打ち合いになり、ダンテがウォロを追いつめて場外に出し、勝った。
ウォロが憮然とした表情で戻って来る。
「……ネモが何か約束してくれたら、もう少し頑張れたのに」
「何言ってるの?! その言葉はダンテに失礼だよ!」
私は防具を外すのを手伝ってあげ、頭の汗を拭いてあげようと思って言った。
「汗拭くから、少し屈んで」
ウォロが試合場の壁を背に座りこむ。
機嫌悪いな……。
私はウォロの前に膝立ちすると頭の汗をタオルで拭いてあげた。
ぎゅっと抱きしめられる。
ウォロの顔が私の胸当たりをすりすりしてくる。
「ちょっと、やだ。くすぐったい、。やだって!」
逃げようとするが、足もウォロの足で抱え込まれてて動けない。
「ウォロ、やめて」
「大丈夫、みんなあっちの試合見てるから」
「そういう問題じゃない! やめてよ!」
私が泣きそうな表情をしているのに気がついて、手足を外すと「ごめん」と謝ってくれた。
私はそのままぺたんと座りこむとウォロの胸倉をつかんで言った。
「人がいるところで……、見てないにしても……嫌だ!!」
それだけ言うと立ち上がり、マリアの所に行った。
マリアは見ていたようで(見ている人いるじゃん!)「大丈夫?」と言ってくれた。
私は頷いて「うん、大丈夫、だけど、ウォロが……。拒絶したくはないんだよ……」と言いかけて、涙が出てきた。
ウォロのことを拒絶したくはないけど、受け入れられることと、できないことがある。
そういうことをちゃんと話していかないといけないんだろう。
皇宮のメイドが来て「お着替えの仕度ができました」と声をかけてくれたので、マリアに「着替えてくるね」と言って荷物を持って付いて行った。
客間に通されて、脱ぐのを手伝おうとされるので「シャツにズボンなので大丈夫です!」と断る。
風呂の方へ行くと、身体を洗う別の女性がいて驚く。
ざっと身体を洗われ、風呂につかりながら髪の毛を洗ってもらう。
確かに気持ちいい。上の方に窓があり青空が見える。
落ち込んでいたけれど、少し気持ちがほぐれてきた。
この後、ふたりで出かけるし、その時、また話せばいいか……。夜も話そうって言ってたし。
気持ちが落ち着いて、今はミーアのお風呂を楽しもうと思えた。
着替えを持っていますと伝えるがこちらで用意してありますのでのでと言われて下着もドレスも新しい物を着せてもらう。
薄い青の爽やかな色のシンプルなドレスだった。
首元が大きく開いていて涼し気だ。
髪の毛もきれいに結い上げてもらい、軽く化粧もされる。
ドレスと同じ色の貴石が付いた簪のような飾りを最後に付けられる。
あれ、この石って……、ブルートパーズより色が薄い……、アクアマリンじゃない?
アクアマリンって、陛下の皇族名じゃなかったっけ?
「あの、この髪飾りは……」
私が言うと、メイドは微笑んで「陛下からの贈り物です」と言った。
贈り物とか……、ウォロ以外の男の人からその人の名前の石の物ってもらっていいのか?
父親になる人だからいいのか?
またウォロがなんか言いそうだな……。
靴もミーア風のサンダルが用意されていて、履き方を教えてもらいながら身につけた。
「ありがとうございます」
お礼を言って、荷物を持って騎士団の所に戻ろうとしたら、陛下が現れた。
「陛下、服や飾りを頂きありがとうございます。
あの、この髪飾り……、かなり高価なものだと思うのですが……。その……」
返すというのは言い出しにくくて言葉に詰まる。
「金の髪によく似合う。もらってくれればうれしい。ウォロに何か言われるか?」
「そうですね。機嫌が悪くなるかもしれません」
私の言葉に笑う。
一緒に騎士団に行くと、ウォロがこちらを見て顔を強張らせた。
急ぐようにこちらに向かって来る。
私の髪に手を伸ばすのを陛下が止める。
「娘への贈り物だ。お前のものだとはわかっている。気を悪くするな」
お前のもの?
なんか引っかかる言い方だな……。
私が複雑そうな顔をしていたので、ウォロも陛下も私を見て戸惑っている。
「ウォロ、お父様からの贈り物なら受け取っていい?
もし嫌ならお返しする。
それから、陛下、私はウォロのものではありません。ウォロも私のものではないですし。
お互い大事に思い愛し合っているだけです」
ウォロはちょっと驚いた顔をしてから、にっこり笑った。
読んで下さりありがとうございます。
午後投稿する予定です。
これからもよろしくお願いします。