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103 出発までに(前)

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 とはいえ、私とウォロにはやらねばらないことがあった。

 みんなにミーア帝国の若い人に魔法についてももっと理解してもらうため、魔法を見せて説明する場を設けたいと伝える。


 エドワードやランスは乗り気で、ふたりを中心にプログラムを考えてくれることになった。

 聖魔法の紹介も入れるように頼む。


 夜にはエドワード、ティエルノ、ミカ、マリア、ウォロ、私はマリヤム宮に戻った。

 ランスもエドワードと話し合いたいということでこちらに泊ることになった。


 カノンが嫌がるかと思ったのだが、意外とあっさりしていて、ちょっとあれ? と思った。


「落ち着いたみたいだよ。

 ウォロとふたりで出て来たじゃん。ウォロもかっこいい! と言い出してた」

 ランスが笑いながら言った。


 あ、カノン、ウォロのことも大好きだったもんな……。


「こっちがいろいろ悩んで損した気分だよ」

 笑いながらもため息をついて見せるランス。

「かわいい女の子に振り回されるなら本望じゃないの?!」

 私が茶化して言うと、首をすくめてから苦笑い。

「ここんとこ、振り回されてばっかりだよ」


 明日、皇宮に行き、今週中に魔法を見せる会を行えるように話をすることにした。

 私達が選んだ治療リストのその後の確認もしないといけない。

 魔獣に襲われた親子や騎士のその後の容態も見たいし……。


 明日は朝の剣の練習をしたら、私とウォロは皇宮へ。

 エドワード、ティエルノ、ミカ、マリア、ランスは騎士団を訪問することにするという。


 明日の朝練にダンテが来るだろうから、その時に話をするそうだ。

 私とウォロは行けないけど……、しょうがない。

 早く話が終れば合流できるかも?!


 夜、私の部屋でマリアと帰りの日程の確認をした。

 あまり強行軍にならないように余裕を持って帰りたいところであるので……。

 明日の陛下との日程決め、早めの日程にしてもらいたいと頼まれた。


 その話をしている時にウォロが様子を見に来たけれど、マリアがいるので戻ってしまった。


 その様子を見てマリアが言いにくそうに言った。

「今日、第1夫人が婚約中に恋人と……、その生まれた子どもがどちらの子かわからなくてという話を聞いて……。ミーアはそういうことにちょっとルーズなのかしら?

 カルタロフ伯爵も……、父親はウォルフライト王国の人だけど、その、私生児として生まれてるし……。

 ネモ、大丈夫? 学校を卒業するまでは妊娠、出産ということにならないように気をつけるのよ」

 あー、オードリーにも言われたわ。

 私は苦笑いしながら頷く。


「女性の方が不利益をこうむるのよ、こういう場合。本当に気をつけて!」

 はい、気をつけますが……。

「オードリーも心配してくれて、ウォロにも話をしてくれてるみたいです。

 私も気をつけます……」


 次の日の朝、やはり目覚めると、ウォロがいた。

 えーと、これは寝てる時に何かされないようにしなくてはいけないのか?

 何もしないよね? 

 んー、言うと逆に気にしそうだし、どうすんだ?


 エドワードの言葉が思い出された。

 本当に鍵つけた方がいいのだろうか?

 ウォロなら魔法で壊せそうだしな……。

 信用してないみたいだし……、拗ねそうだし……。


 とりあえず今朝は明るくなる直前に起こして自分の部屋に戻るようにしてもらった。


 剣の練習に行くとダンテも来て、私とウォロ以外は騎士団の見学と練習に参加したいとエドワードがお願いした。

 私とウォロは陛下と話をした後、魔獣に襲われた親子や騎士達の様子を見舞ってから、そちらに合流したいと伝える。


「わかった。彼らのことを頼むな」と言われる。

 魔獣の事故などはどれくらいの頻度で起こっているのか聞いてみた。

 夏から秋が多いらしい。

 魔獣も人間も行動範囲が広くなる時期ということなんだな、きっと。

 しかし、例年に比べると夏のこの時期に魔獣が人里まで降りてくるのは珍しいという。

 もしかしたら、山や森で何か異変が起きているのかもしれない。

 警戒を強くしているそうだ。


 なるほど……。

 王国の方はどうなんだろう?

 帰りにダナンの様子も聞いてみよう。


 朝食後、みんなで皇宮に向かった。

 私とウォロは上を目指し、エドワード達は回廊の方を回り騎士団の方へ行く。


 陛下の執務室にたどり着き入室すると、早速お茶が用意されねぎらわれた。


 メイリンとメイユウ様は第7宮殿で過ごすことになったのだそう。

 カルタロフがいなければ特に何か起こせるわけでもないので……。

 メイリンはこのままというわけにもいかないので、皇太子選びに口を出してこなそうな(そして巻き込まれなさそうな)ミーアの貴族を選んで結婚させるかもと言われた。

 メイリンが幸せになれるならいいけど……。


 第1宮殿は無人になる。

「まあ次の皇太子の第1夫人が入ることになるだろうし……」と陛下は私を見た。


「まだ決まってないのに、そんな風に見るな」

 ウォロが嫌そうに言う。

「すまん、すまん、ついな」

「今回のことは、陛下も悪いよ。ちゃんと愛しあっている人を夫人にするべきだよ。

 ネモのお父さんもそうだけどさ……」

「それはウォロはネモを見つけてお互いに気持ちが通じたからだろう。

 全員がそういう奇跡に恵まれるわけではない……」


「ウォロと私は出会えて良かったね」と私はウォロに言った。

「そうだな、ダイゴに感謝だな。

 というわけで、皇太子はダイゴで頼む!」

「さあな、それはこれから決めることだからな」


 陛下にミーアの若者を中心に王国の魔法のことを見せたり説明したりすることの企画を考えていることを話し、できるだけ早い日程(帰んなきゃだから)で場所や規模、おおよその参加人数など教えて欲しいと話す。


「それはもう決めた。明日の午後はどうだ。

 ダイゴが通っていた国立の学校だ。

 広い運動場があり、そこで魔法を披露してくれて構わないということだ。

 学校の生徒は約300人ほどだ」

「うちの学校の倍くらいだね」と私。

「まあ、魔法対戦の時みたいな感じかな?

 わかった。何時にそれぞれの宮を出ればよい?」

「1時に馬車を迎えにやろう。

 シズカ宮とマリヤム宮に1台ずつでいいか?」

「ああ、両方とも大きいので頼む。マイベルやカノンも行きたいだろうから」

「わかった手配しておく」


 それから私達が選んだ5件の治療リストはどうなったか聞く。

「医者に診察してもらったところ……。

 3件は薬や治療で治せるそうだ。

 2件は原因不明と治療が悩ましいケースで魔法で診てもらえるならということだった」


 〇伯爵家の5歳の女の子

  急に歩けなくなった→原因不明

 〇子爵家の20歳の男性 

  身体の中で炎症が起きていると思われるが、場所が特定できず、しかも薬が効きにくい


 この2件をウォロと一緒に診ることになった。


「今日の午後はどうだ」

「やけに手回しがいいな」

「いや、親にしてみればできるだけ早くという思いから、いつでもよいと頼まれていてね」


 そうだよね。早い方がいい。

 私達は了承した。

 明日の学校へ行くのは午後だし、今日疲れても明日の午前中はのんびりできそうだしね。


 この後、魔獣に襲われた人達をお見舞いして、騎士団に行く予定と話す。

 昼食後、皇宮から直接治療に回ることになった……が、練習に参加したら汗かくよね?

 一応私は練習着を持っては来たが……。


「練習後、ウォロはすごい汗だくになるんじゃ……。それは私もか?」

「なら着替えを用意させよう。騎士団にシャワーがある。そこに着替えを届けさせるから」

「私、持って来てます。着替えるところがあれば……」

「そうだな……、ネモは騎士団では無理か。客間の風呂を使えるようにしておこう」

「ありがとうございます」


 今度は下に降りて、回廊を進んで行く。

「いろいろ早く終わった方がいいけれど、過密スケジュールだな」

「でも、すぐ決まってありがたいよ」

 私は笑って言った。

「そんなにすぐ帰りたいのか?」

「そういうわけじゃないけど、今回は他のみんなもいるしね」

「帰り、ふたりでのんびり帰らない? ほら、旅行できなかったし」

「……学校もあるし、みんなと一緒に帰ろうよ。

 ライトやセレナ、アリスにアンドレアス。待っててくれてるし!」

 にっこり笑ってウォロの顔を覗きこむようにそう言うと、急にウォロが身体を寄せてきて回廊の壁に押しつけられるようにされてキスされた。

 こんな所で! と焦って手で押そうとするがそのまま抱きしめられて動けない。


「……こんな所でやめて」

「こんな所じゃなきゃいいの?」

「ちがくて……。

 その、オードリーにもマリアにも心配されてる。ウォロも言われたでしょ?」

「キスじゃ子どもはできないよ」

「それはそうだけど……、ふたりっきりでというのは少し控えようよ」

「やだ」

「とりあえず今は離して。早く医院に行こう」

「……今日の夜、話せる?」

「うん、わかった」


 離れて歩き出したのでほっとしながら後から付いて行く。

 ウォロが振り向いて私の右手を握った。

「手を繋ぐくらいならいいよな」

「うん」


 医院に着いて、最初の部屋に見覚えのあるふたりの騎士がいた。

 ベッドの上に起き上がり、雑談していたようだ。

 かなり元気になっている。


「こんにちは。怪我の具合はいかがですか?」

 私は声をかけて入って行った。


 戸惑った表情のふたりだったが、私の隣のウォロを見ると「モーリオン皇子!」と背筋を伸ばした。


「治療をして下さったと聞いています。どうもありがとうございました」

「怪我の具合はどう? 痛みは?」

 ウォロが質問する。

 切り裂かれた怪我の騎士が答える。

「かなり良くなりました。傷も塞がったので後2日ほどで家に帰れるだろうと言われました」

「それは良かった。毒をすぐ中和できたのが本当に良かったよ」

 ウォロが笑顔で応える。


 医師に声をかけ確認する。

「光魔法をかけて治癒力を上げても大丈夫ですか?」

 OKをもらえたので、ベッドのそばに行き切り裂かれた傷に爪が残っていた方の騎士の手を取り、光魔法を流した。

 うん、スムーズに流れる。光が傷の方へ集まって治癒を盛んにしている。

「うん、大丈夫ですね。良くなっています」

 

 私は振り向いてもうひとりの手を取り、同じことを繰り返す。

 こちらは噛み傷の人。ウォロが傷をかなり修復してくれたので、ほとんど治っているよう。

「大丈夫。いいですね」


 親子はどこにいるのか聞くと、奥の治療室から上の階の病室に移動したと言われ、そちらに向かう。


「大丈夫か?」

 ウォロが心配してくれる。

「うん、傷がもう少し早く治る程度の光魔法にしたから、全然大丈夫だよ」

読んで下さりありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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