102 王国に帰ろう
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
心配してたけど、心配しなくてもいいふたりだったな……。
カノンが走って行ってランスに飛びついた。
ウォロがこちらを見る。
私はにっこり笑って頷いた。
警護局の隊士達が到着し、建物の周囲を調べたり、まだ水をかけたりしている。
私はその中に昨夜の小隊長を見つけた。
そのそばにいるのが副長かな?
なぜか隊長を連れて、宮の裏に回ろうとしている。
もしかして……、私はあわててそばにいたミカとダンテの腕を取ると「一緒に来て!」と言ってそのふたりの後を追った。
私とミカがダイゴの飾り紐を見つけたあたりでなんかウロウロしている。
「火をつけた犯人の心当たりがあるのだな?」
隊長の言葉が聞こえた。
「はい、確かここらへんに証拠が……」
副長が答えている。
「あれって、ダイゴのこと?」
ミカが呟き、私はダンテにあのあたりでダイゴの飾り紐を見つけたこと。かなり前に盗まれたものであることを伝えた。
「では、あの男は……」
ダンテの言葉に頷く。
「たぶん、何らかの方法で、カルタロフに協力させられていたんじゃないかな。火をつけた人かも」
ダンテが頷き「確かめよう」と言った。
「ふたりで何をしているんだね」
ダンテが声をかけながら出て行く。
「ジェイド皇子! 昨夜は失礼しました!」
隊長が慌てて敬礼し言葉を続けた。
「この者が火をつけた犯人に心当たりがあるそうです!」
副長を指し示す。
「はい、私は火をつけたのではないかと思われる犯人が逃げてくるのを見かけたのです」
「いつ?」
私は聞いた。
「ちょうど11時過ぎです」
私達がメイユウ宮に突入した頃だな。
「誰だ?」
ダンテがさらに尋ねる。
「それは……ルチル皇子です」
ルチル皇子=ダイゴだね。
「ダイゴはその時間私達とメイユウ宮にいましたけど」
私が言うと副長の表情がおかしくなる。
「えっ、そんなはずは、私は見て……。それにここに……証拠が落ちてるはずで……」
副長の腕を見ると見慣れたブレスレットが……。
「操られてるのか?」
ダンテが言うが、今はカルタロフは拘束されているはず。
『ネモ、映像だ! 頭の中に闇魔法の反応がある』
マッちゃんの声。
映像……、カルタロフの?
私は副長の手首をつかんだ。
闇魔法の映像の感じがした。
ダイゴが火元の当たりからこちらに走って来て、飾り紐を落としたことに気がつかず走り去る。
直接頭に入れたんだ!
記憶と混同している。
自分が拘束されるかもという時に、操って火をつけさせ飾り紐を落とさせ……。
メイユウ宮に来させて、直接、偽の記憶を刷り込んだんだ!
エルメス宮からメイユウ宮まで歩くとしたら……。記憶を入れ込む方を優先し、ブレスレットを回収する時間がなく、メイユウ様に呼び出され私達の前に現れた感じになったのだろう……。
「闇魔法の映像ですね。記憶と混同してます。
火をつけたのはあなたですね。このブレスレット、人を操る魔道具です、きっと」
私の言葉に青ざめる副長……。
「このブレスレットはアメジスト皇女に頂いたもので……」
アメジストはメイリンの皇族名だ。
やっぱりね。
「そのことを確認しましょう」
私はそう言って、副長をミカとダンテに捕まえてもらった。
「もしかして昨夜も、副長があの時間あの場所にいるように言ったんじゃないですか?」
私が聞くと隊長は驚いた表情で大きく頷いた。
「そうです! そうなんです!」
ダンテも言った。
「とりあえず、あなたにも話を聞いた方が良さそうだ」
私達は隊長も一緒に来るように促して表に戻った。
ダンテが来てくれた騎士団の騎士に、ふたりを皇宮に連れて行き、火事の証人なので目を離さないようにと伝えた。
慌てて飛び出て来ちゃったけど、カルタロフの方は大丈夫だったんだろうか?
クラウス先生もいるし、大丈夫だとは思うけれど……。
ランスがカバンを手に声をかけてくる。
「クラウスの荷物なんだ! たぶん必要になると思って! メイユウ宮に届けよう!」
ダンテが馬に乗せて連れて行ってくれると言う。
ウォロも来て、話に加わり、一緒にメイユウ宮へ行くことになる。
私もウォロの馬に乗せてもらうことになる。
避難したマイベルやカノンはシズカ宮で保護することに決まり、ダイゴが他のみんなと一緒に連れて行ってくれることになった。
ウォロの馬に乗ると身体をぎゅっと引き付けられて後ろから抱きしめるようにされてびっくりする。
「何?」
「何でカノンみたいに飛びついて来ないんだよ……」
えー、そこ?
「心配はしてたけど、あの登場を見たら、心配なんかしなくてもいいふたりだったなと思っちゃって」
「あー、そうか……。弱ってたらやさしくしてくれるんだよな、ネモは」
「そーいうわけじゃないけど……」
馬を走らせてる間、ずっとなんだかそういうことを囁かれ続けた……。
心配はしてたけど……。
うーむ。
メイユウ宮に着くと全員の無事と警護局の小隊の副長がブレスレットを身につけていて、しかも作られた偽の映像の記憶を持っていたことを伝えた。
メイリンとメイユウ様は皇宮へ移送されたそう。
カルタロフは強い魔法を持っているし、下手に触ると精神的な攻撃をされる可能性もあるし、睨み合いが続いていたそう。
ランスが届けてくれたカバンを見て、クラウス先生がほっとした表情を浮かべた。
「これがあれば……」
クラウス先生がカバンから両手につける拘束具のようなものを取り出した。
「それは!」
カルタロフが呻く。
「そう、見覚えあるでしょう。
あなたの作った魔道具だ。身につけた者のすべての魔法を封じるね」
そんな恐ろしい魔道具があるんですか?!
絶対、つけられたくない!!
クラウス先生がウォロと協力してその魔道具をカルタロフにつけた。
がっくりとうなだれるカルタロフ。
「ウォルフライト王国が動いているとなると……、伯爵家に累が及ぶようなことはあるのか?」
クラウス先生に聞いている。
「さあ、報告はしますが、それはウォルフライト王国の国王陛下が決めることです。
絶対にこの魔道具を外さないように!」
カルタロフに近付いてきた皇帝陛下の従者や警護局の隊士にそう言い置いてクラウス先生はこちらに戻ってきた。
「すっごい魔道具があるんだな。魔力を封じる……なんて」
ランスが身震いして言った。
私も頷く。
私達がエルメス宮に向かった後、カルタロフがなぜそんなことをと聞かれ「メイリンとメイユウに皇女達を亡き者にするように頼まれた」と言ったそうだ。
それを聞いてメイリンとメイユウ様が言い争いを始め、お互いにそこまで言っていない、どっちが言ったと擦り付け合っていたという。
私達は宮殿の中を調べた。
なぜカルタロフが気配を消していることができたのか……。
『ウォロの気配が消えた?』
マッちゃんの言葉に私はあわてるが、ドアの向こうにウォロはいる。見えてる。
ウォロも驚いてこちらを見ながら、戻ってきた。
『おっ? わかった気がするぞ……。ネモ、そこの敷物を剥がしてみてくれ』
私とウォロは廊下の敷物を剥がしてみる。
「……魔法陣か!」とウォロが呟いた。
廊下の敷物も剥がしていくと魔法陣が下に敷き詰める様に描かれていた……。
ふたりで読んでみると、気配を遮断するがこちらからの魔力は出せるというかなり複雑な内容の魔法陣だった。
「どおりで……、気配を消しながら魔道具を通して人を操ったり、魔道具の作成を続けたりできたわけだ……」
クラウス先生が唸った。
「こんなにすごい能力の持ち主なのに……、復讐にとらわれるとは、もったいないな」
ランスも呟くように言った。
魔力を封じられたカルタロフ伯爵は罪をあっさり認めたらしい。
メイリンとメイユウ様は知らないと言ったり、カルタロフが勝手にしたことなどと言い続けているそう。
ダンテは居住を皇宮にすっかり移し、皇太子は辞退するが、今のまま騎士団の指導を任されることを続けることになったという。
メイリンは辞退というより剥奪なので……。
新しい皇子皇女が生まれない限り、ダイゴ、ウォロ、マイベル、カノンの4人から皇太子が選ばれることになる。
ダイゴしか成人しておらず、まだ決めずにウォロの学校卒業を待って決めることにすると言う。
約4年後だね。
マイベルも15~6歳になる頃だし、カノンも12~3歳なはず。
ま、それなら誰が選ばれても良さそうかな。
宮殿の中を調べ、魔道具などを確認し違法なものは回収、カルタロフの使っていた道具や資料や本も見つかった。
まとめておいてシズカ宮で調べることにする。
違法ではない物はレイモンド達に戻してもいいのではという話も出るがこれからの取り調べの進み具合によってはまた変わることもあるだろう……。
私達はシズカ宮に行き、みんなとこれまでのことを話し合った。
「でも、これで一応もう危ないことは起きないはずだよな。これで王国に、学校に帰れるな」
最後にランスが言った。
読んで下さりありがとうございます。
今日は午後投稿する予定です。
これからもよろしくお願いします。




