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101 聖女と皇帝(エヴァンス視点)

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

今回は時々ある他視点の話です。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 ベリネ王国は今、長年の戦争の痛手から立ち直ろうとしている最中だ。

 王に代わり第1王子が政務を執るようになり、希望が見えてきた。


 第1王子の求めにより、勇者として名高い魔法剣士マチネス様もベリネに来て、私達、青年騎士団に魔法と剣を指導してくれている。


 マチネス様は私にとって師である。

 剣と魔法と……。

 特に魔法は剣と相性の良い私の属性の火の魔法の使い方を熱心に教えてくれ、昔から続く詠唱魔法が主流の騎士団の中でもかなりの実力者と認められるようにまでなれたのは、本当にマチネス様のおかげだと思う。

 

「何故、私にここまでしていただけるのでしょうか?」

 ある時、私が聞くとマチネス様は笑って答えてくれた。

「エヴァンス、君はすごくいい人間だよ。

 まっすぐで人を思い、そしてやさしさもある。

 君なら力を手にしても正しく使ってくれると、私は信じたからだ」


 マチネス様は類まれなる魔法の力の持ち主で詠唱魔法、魔法陣、魔道具、属性魔法とあらゆるものに興味を持ち、それを究めていた。


 そして、聖なる力の持ち主でもあった。


 ベリネ王国には聖女がいる。

 稀に聖なる力を持つ人物が現れる時がある。

 特に女性で聖なる力を持ち、強い治癒や癒しの力を持つ者が現れると聖女と呼ばれ、神殿付きの治療院で聖女としての仕事を行っていた。


 戦争中は強い力でなくても、少しでも治癒の力を持つ者を無理やり集めて、前線で犠牲を強いることがあったようだ。そのこともあり、しばらくは聖なる力を持っていても隠す者が増えたという。


 国の復興と同時に現れたこのルチアというまだ若い聖女は治癒に関してとても強い力を持っていた。


 マチネス様も彼女の力を認め、治癒の魔法について話をしたり、指導をしたりしていた。

 

 マチネス様を治療院に迎えに行った時、気がついた。

 このふたりは惹かれ合っている。


 もしこのふたりがこのままこのベリネ王国で勇者と聖女として存在してくれたら、これほど心強いことはない。


 若い世代の騎士達はこの先も明るい希望が満ちていると信じていた。


 しかし、突然にそれは打ち砕かれる。


 第1王子が暗殺されたのだ。

 誰も言えなかったが、第2王子と王が立ち直り始めた国の政権を奪おうとしたことだと誰もが思った。


 たちまち、戦争時のような『使える者は生かさず殺さず……』というような統治が始まる。


 民も我々騎士も、聖女も例外ではなかった。


 民には重税を課し、長期の兵役を申し付け、周囲の国と小競り合いをくり返し……。

 青年騎士団も理由に納得できない戦いの場に、身を投じなければならないことが増えていった。


 聖女も便利な道具の様に扱われるようになり、民よりも貴族を優先して治療するよう求められ、抵抗すると嫌がらせを受けるようになる。


 治療院が民に開かれる日時を強制的に変更され貴族の治療を行わせるのだ。

 聖女の治療を受けるために、わざわざ足を運び、その時間まで待っていた者にしてみれば、聖女への憎しみを募らせる結果になるだろう。


 そしてマチネス様も命を狙われるようになった。

 第2王子や王に対する反抗や反旗の象徴になりうるべき力の持ち主であったからだ。

 しかし、マチネス様は第1王子に雇われてこの国に来た身の上である。

 そこまでベリネ王国の状況に関わるべきではないと判断されて、国を出ることを決められた。

 

 青年騎士団の中からもマチネス様に残って戦って欲しいという意見がなかったわけではない。

 実際、マチネス様と親しい私に、説得して欲しい、何とかならないか、君がリーダーになればマチネス様も協力してくれるのではないかとお願いしたり意見してくる者も多かった。


 私はリーダーになる気もマチネス様を説得する気もなかった。

 マチネス様には自由でいて欲しい。


 マチネス様がこの国を出る時、すでに恋人になっていたルチアを連れて行こうとしたことを聞いた。


「ルチアには振られてしまったよ。

 あなたにはもっとふさわしい人がこれからも現れる、私はここに残って、私の役目を、人を救うことで生きていきます……。お元気で!

 そう言われたら……、もう、何も言えないよな……」


 マチネス様は寂し気に笑うと私に言った。


「申し訳ないエヴァンス。君に頼みがある。ルチアのことを気にかけてやって欲しい。

 このままだとまたこの国はおかしくなる。

 その時、民は王ではなく、向きあっている身近な存在である聖女や君達騎士団に強く反発してくるだろう……。

 そうなった時、ルチアも逃げることを考えてくれるかもしれない。

 その時は頼む。一緒に逃げてやってくれないか」


 私は了承した。

 ベリネ王国は私の故郷ではあるが、今のこの国に命を預けられるかというと……。


 時々、治療院へ様子を見に行っていたが、治療を求める民の態度はどんどん傲慢になっていった。

 彼らにも余裕がないからだ。それはわかっている。

 しかし、聖女が彼らを助けるために、恋人と別れてまでここに残ったことなど伝わるわけもなく。


 憎しみや貧しさや恐怖におびえる彼らから見れば、聖女は恵まれた者であり、その力は自分達に使われて当然なのだと、聖女に暴力すら振るおうとするものまで現れ始めていた。


 青年騎士団の中でとうとう蜂起の日が決まった。

 私はリーダーではなく、その中の一員としてならと参加を決めた。


 そして、その直前に聖女をこの国から逃れさせようと、平服で短剣だけを持ち、夕方、治療院を訪れた。

 

 まだ数家族が残っていたが、聖女ルチアが力の使い過ぎで治療を続けられなくなっていた。

 久しぶりに見た聖女はやつれ、疲れ切っているように見えたがそれでも救いを求める人に手を差し伸べようとしていた。


「今日はもう力が尽きました。治療できません、ごめんなさい」

 真摯に自分の状態を伝えて謝罪する聖女。


 次の順番だった女の子の父親が彼女を殴った。


「お前はうちの子を見殺しにするつもりか! さあ、治せ!」

「ごめんなさい。今は無理です。明日になれば力も少しは力も回復するので、お願い待って!」

「もう一晩、この子に苦しめというのか! ひどい聖女だ!」

 

 なぜ誰も止めようとしないのだ?


 私は聖女を取り巻く民の、家族の目を見て戦慄を覚えた。

 自分より力のある者を押さえつけて、いたぶることに興奮していたのだ。


 私はこのような民のために蜂起して王や第2王子と戦おうとしていたのか?!


「なら、私を殺せばいい。それで聖なる力を持つ者はこの国からいなくなる」

 聖女が顔をあげ、静かに言った。

 

 ダメだ。ここでそれを言ってはいけない。

 あきらめてはダメだ。


 聖女を暴力でいうことを聞かせようとしていた父親は激高し、さらに殴ったので俺は聖女に駆け寄る。


「力を持つ者が助けを求める俺達を脅すのか!」

 違うだろ?

 脅かしているのはお前達の方だ!

 しかも、それを楽しんですらいる!!

 

「やめろ、本当に死んでしまう!」

 私は父親の手をつかんで止めた。

 しかし、その周囲の男達につかまれ、引きずり倒されると殴られる。


「やめて!」

 聖女は叫び、力なく立ち上がるとこちらに来て、跪いて這い寄るように私に近づいた。

 私の顔を覗き込み、身体の怪我を見ようとしてくれて、視線が止まった。


 私は身を守ろうととっさに短剣を抜いていて、左手に握っていたのだ。


 聖女はその短剣を見つめ、微笑みかけた。

 手を伸ばし、私の左手を両手で上から握り締める。

 剣を聖女の方へ向けさせるとその剣の切っ先の上に身体を倒れこませた。


 何が起きているのか、すぐには判断できなかった。

 私は聖女の身体を抱きしめ「どうして……」と呟いた。


「ありがとう、私を守ってくれて。私の死をあげる。私が死ぬことであなたはもう誰にも殴られないわ」


 聖女が囁いた。やさしい声だった。

 ここまでこの人を追い詰めたのは……。


 聖女が苦し気に喘ぎ、血を吐き出して動かなくなった。

 

 周囲の民は呆然としている。


 そうだ聖女はいなくなった。

 お前達のせいでな!!


 私の中で怒りが渦巻き、聖女の亡骸に触れようとした者の手を払うと、土魔法を発動させ私と聖女のいる場所だけを高く盛り上げると彼らを見下ろした。

 

 治療院の出入り口を詠唱魔法ですべて封鎖し、そして火魔法を展開させた。

 彼らを焼くのではない、苦しめるために。

 反省する時間を与えるために、そのような手段を取った。


 彼らが苦しみだす。

 そして、全員が息絶え、動かなくなって、私はすべての魔法を解いた。

 出入り口を開け放つと、新しい空気が治療院の中に入って来る。


 空気を失い、息ができなくなり死ぬのはどんな気持ちだったかい?

 聖女も自由を尊厳を奪われ、じわじわ死へ向かっていったのだ。


 私はその死体の中心で聖女を抱きしめ囁いた。


「あなたのような思いをする人を私はもう作り出さないことを誓う。

 そのためなら、私は今、この手を血で汚すことを厭わない……」


 聖女の胸から短剣を抜くと、そのまま鞘に納め、握りしめた。


 これは私の罪。

 私もあなたを見殺しにしたのだ。


 聖女を治療院の地下深くに葬った。

 そしてその周囲に死を持って償ったであろう18人の遺体も……。

 土魔法ですべてを埋めてしまう。


 私は騎士団に戻ると、聖女が治療を求める家族に殺され、そのために自分がその男を殺したと話した。


「私が王と第2王子を殺す」


 その言葉通り、私は蜂起した騎士団のリーダーとなり、王と第2王子を討ち果たし、ベリネ王国を崩壊させた。


 そして、騎士団と神殿から認められ、新たな王となり国を興した。


 ミーア王国。


 周囲の国々も私に従うようになり、王国は帝国になった。

 ミーア帝国、初代皇帝エヴァンス。


 皇帝になった者だけは、聖女の死の真実が伝えられ、初代皇帝の手が血で汚れていることを知る。

 そして、聖女という存在をこの国には作り出さない、存在させないことを誓わせるのだ。

 その古い短剣に……。

読んで下さりありがとうございます。

もう少し先まで書き進めたいので、今日の午後投稿もお休みします。

これからもどうぞよろしくお願いします。

※古代の話なのに古代魔法はおかしいと思い詠唱魔法に書き換えました。

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