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100 メイユウ宮での対決(後)

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

「後はダーゼンに聞いて……」

 メイユウが顔を上げてドアを見る。

 ドアが開き、カルタロフ伯爵が入ってきた。

「!!」

 私とウォロは驚いて顔を見合わせた。

 いるじゃん?!

 なんで今まで気配がなかったんだ!!


「ダーゼン……。久しぶりだな」

 陛下が低い声で言った。


「お久しぶりです……。皇帝陛下……。いや……、ジョイ皇太子の方がしっくりくるな、私には。

 あなたには期待をした分、叶わなかった時の失望を味わわされた。

 自分に才能があるのにそれを潰された者の気持ちは、皇太子になり皇帝になったあなたにはわからないだろう……。

 母もそうだ。愛する人と引裂かれ、皇宮の小さな宮に閉じ込められ一生を終えた母の無念が……」


「先の皇帝も私も考えがあってしたことだ。サシャや君のために特例を作ることは、未来のことを考えるとできなかった」


「……それなのに、自分の息子は王国に留学させ、魔法学校に入れるのですね。王国の辺境伯爵の娘と婚約まで許し……。それこそ特例ではないのですか?!」


「ダーゼンの時には間に合わなかったが……、先帝は未来の子ども達が王国で魔法を学べるように準備を始めていたんだよ。それがやっと実を結んで、実現したのが私の代で4年前だ……」


「時代のせいにしないでくれ! 未来のために母も私も犠牲にならなくてはならなかった、必要な犠牲だったというのか!!」


「それは……、本当に申し訳ないと思っている……。

 皇帝や皇太子という立場になったからこそ……、家族のために何もしてやれない時もあることを思い知ったよ。

 だからこそ、ウォルフライト王国のカルタロフ伯爵の縁者からの連絡があった時、君をミーアから出すことは何としても叶えてやりたいと思ったし、マオユウのこともそうだ……。公爵家からは反対されたが、私は今度こそ恋人同士を添わせてやりたいと思った」


「それは、感謝しています。

 マオユウとの間の子ども達は私の大切な宝物だ……。

 このふたりを守ること……。

 ふたりとも魔法の才能があり、魔法学校へ入学させることもできた。

 このまま、このふたりはウォルフライト王国の伯爵家の者として生きていくことができる……。

 そう思った時、どうしてもミーアに、あなたに、皇帝家に……、復讐したくてたまらなくなった。

 前から、闇社会に魔道具を作り流していたということもあるが、それを利用すればウォルフライト王国とミーア帝国との間を混乱させ、敵対させることもできるのではと気がついた……」


「それが両方の国にお互いを誤解させるような効果の高い違法な魔道具の流通ですね」

 クラウス先生が言った。


「そうだ。王国にはミーアの関与を疑わせ、ミーアには王国の関与を疑わせ……。

 そんな時にメイユウから、メイリンとダンテを皇太子にするために協力して欲しいと言われた。

 ミーアの皇室の情報も入って来るし、復讐にはうってつけだと思ったね。

 王国に第3皇子が入学することや王国の令嬢との婚約を聞いて、両国が親交や信頼関係を深めているなら、そこを狙おうと思った。

 そのために魔法学校や辺境伯爵家、ミーアの大使館……様々な場所、使えそうな人物に魔道具を忍ばせて行った。

 おかげで、婚約者のネモフィラ嬢を狙っていたズールの事もつかんで手駒として使えたしね。

 なかなか長い期間、楽しめたよ……」


「メイユウ、なぜ、ダンテとメイリンをそこまで皇太子にしたいと思ったんだ?

 今までの皇太子以外の皇子や皇女の処遇も見てきたと思うが……、それほど悪くはないだろう?

 そこまで、なぜ皇太子にこだわる?」


「私に恋人がいたのはご存じ?」

「ああ、私が皇太子になった時に、あなたは太守令息と婚約していたな」

「ええ、たまたま同年代のあなたが皇太子になったことで、父に婚約者を変更させられたの。 

 それでも私達は愛し合っていたし、あなたとの成婚が決まるまでは抵抗していたわ……」

「彼もあなたも自分の意思を押し通せばよかったのに……。私はどちらでも……」

「そうでしょう、そうでしょうね!

 あなたにとって、私はその程度の認識ですよね!

 ダンテが生まれた時、あなたは何も言わなかったけれど……、銀の色を持たないこの子を見た時、私がどんなに不安になったかわかる?!

 もしかしたら……彼との間の子どもでは……とずっと不安だった。

 だから、このままこの不安を葬るためには、ダンテかメイリンが皇太子になり、誰にも何も言われない立場にならなければと思った……」


「そんな……それは本当なのか?」

 ダンテが驚きのあまり声をあげて固まる。

「私は……、皇帝陛下の子どもではない?

 それなのにずっと第1皇子を名乗り……。何という……」


 陛下が慌てて叫ぶ。

「ダンテ! お前は私の息子だ! それは証明されている!!

 メイユウ、君がそんなことを考えていたとは知らなかった……というか、気がつかなかったことを許してくれ。

 そんなに苦しんでいたなら、早く伝えればよかった。

 ダンテは私の子だよ。銀の色を持たないことで、宰相が秘密裏に調べていたんだ。

 私は結果が出てから、その検査をしたことを知らされて……。

 正真正銘、私の実子だ、ダンテ」


 ダンテはほっと息をつき、安心したような表情を浮かべたが、すぐ真剣な表情になった。

「私を皇太子候補から辞退させて下さい。

 私はふさわしくない。

 父の実子だと証明されたことはとてもうれしい。

 今までの生き方を否定されないことは本当に良かったと思う……。

 ただ、やはり、自分の能力を考えた時、私には皇太子や皇帝は無理です。

 できれば、何か地方や皇帝を支える仕事につき、家族を大切に過ごせたらと思います」

 

 メイユウ様はダンテに抱きつき、泣いた。


 メイリンがそんなふたりを見て叫ぶ。

「私はそんなの嫌よ! 私は皇女よ! 皇太子候補から絶対に降りないわ!

 このメイユウとこのカルタロフのせいなのよ!

 私は被害者だわ!!」


 メイリンが私を見た。

「あんたがウォロと婚約してから、何もかもうまくいかなくなったわ! この疫病神!!」

 掴み掛らんばかりの勢いで詰め寄られ、驚くが、同じ速さで身体を引いて逃げる。


 カルタロフとメイリンが取り押さえられる。

 暴れるメイリンと、落ち着き払って笑い出すカルタロフ……。


「私の復讐がここで終わるとでも?」


 その時、メイユウ宮の使用人が慌てて知らせに来た。

「エルメス宮が火事です!!」


 みんな、カルタロフを見つめた。

「ふふふ、さて、どうするかな?

 幼い皇女がふたりいるはずだが……」


 エルメス宮にはカノン、マイベル、マイネ、エルメス、ティエルノ、ミカ、オードリー……。

「水魔法使いがいない!!」

 私は叫んで走り出す。

 後ろからランスがついてくる、

 メイリンが「ランス、私を助けなさい!!」と怒っている声が聞こえた。

 

 メイユウ宮を出ると、エルメス宮から煙が上がっているのが見えた。

 ウォロとダンテが馬で回って来て、私達を拾ってくれた。


「エドワードとマリアも馬車で追いかけてくる!!」

 ウォロが教えてくれる。


 エルメス宮の前で馬から降りてエルメス宮に駆け寄ると、裏手の方から燃えているようだ。

 まだ玄関の方は煙っている感じ。

 

「逃げてきた者は?」

 ウォロが声をかける。

 エルメス宮の使用人がふたり、メイドがひとり駆け寄ってきた。

「まだ中に皆様が!!」

「煙で逃げられないのか?!」


 まだ奥にいるなら風……じゃだめだ! 中で火が燃えていたら燃え上がる!!

 私は水を含ませた弱い風を玄関から送り込むことにした。

 ランスが上から雨の様に水を降り注がせる。


 エドワードが到着したが、悔しそうに見ている。

「エドワード! 池の水を風魔法で!」

 私が叫ぶと、池を見て頷き、竜巻で池の水を巻き上げ、ランスの様に上から撒き始める。

 

 ランスが水を撒くのをエドワードに任せ、自分はアイスファイアを自分の身体にまとうよう作り出して、煙が少なくなってきた玄関から中へ入っていく。


「ネモ!」

 ウォロに言われて、私もアイスファイアをウォロと自分の身体にまとわせる。

「ネモは残れ!」

「嫌だ! 中から水魔法をした方が早い!!」


 私達は玄関から中に入り、水を含ませた風魔法で煙を払って進む。

 ランスはマイベル達の部屋を目指している様子。

 私とウォロはキッチンへ向かった。

 煙から逃れるように、しゃがんでいるオードリー、エルメス様、マイネ、メイドふたりを発見。

 私はこの5人を連れて、風魔法で煙を払い玄関の方へ誘導する。

 

 出たところでもう一度、戻りマイベルの部屋を目指す。


 ウォロがマイベルを抱き、ティエルノがカノンを抱いて、使用人ひとりと一緒に出てきた。

 そのまま、後方から風魔法で玄関までの通路の視界と空気を確保する。

「ミカとランスは?」

「奥の火元に向かった!」

 ティエルノが教えてくれたので、そちらに向かう。

 ミカとランスに合流。

 ミカはアイスファイアをまとわせてもらっていて、ランスの水魔法に風魔法で協力している。

 私も水魔法で加勢する。

 ランスが「ごめん、取りに行きたいものが!」と言ってその場を離れる。

 

 あ、自分の部屋か!

 カノンの飾り紐!

 私が外しておいた方がいいって言ったからだ……。

 ひとりで大丈夫かな?!

 でも、ここを離れられないし……。

 

 ウォロが来てくれたので、ランスの方を見に行ってもらう。

「ミカ頼んだぞ!」

 ウォロがそう言ってランスを追った。

 私が大量の水を出し、それをミカが吹き付けるという分業で消火に当たる。

 これ、外が火元だ。 


 外から水掛けたい。

 私達は横の窓を風魔法で破って出ると、火元に向かう。


 油のにおいが強くなる。

 ここに火をつけたんだ。

 

 直接水と風を火元にぶち込むと、すぐに火は消えた……が、ランスの部屋2階だよね。

 建物の中にそれほど火が回ってなければいいのだが……。

 私達は、外を通って玄関の方へ回ろうとして、落ちているものを見つけた。

 盗まれた、ダイゴの飾り紐。

 

 ここまで、ダイゴやウォロの足を引っ張ろうというか……、もう無駄だとわかっているのに執拗にやり続けるカルタロフにぞっとする。


 玄関の方に回って、煙を吸い込んだらしいマイベルやカノンの様子をマリアと見て、光魔法で治療する。ランスとウォロがなかなか出て来なくて、何度も玄関の方を気にする。


 2階の屋根からの煙がなかなか途切れない。

 玄関上の庇が崩れてきている。

 思っていたより2階や屋根の方に火が回っていたのかも……。


 マッちゃん、ウォロとランスは?

『大丈夫じゃ。今、1階に降りて玄関に!』

 庇が落ちてきている! 気をつけて!

『庇が崩れてきているそうじゃ! 出る時に気をつけるように!』


 ウォロとランスが玄関に姿を現したと思ったら、玄関上の庇と屋根がメリメリと凹む音がした。


「上! 崩れる!」

 私は叫んだ。

 上に向けてウォロがストーンバレットを、ランスが強い風を吹き上げさせた。


 落ちてきた屋根や庇が粉砕されて、風で舞う。

 その下をふたりは悠々と歩いてきた……。

読んで下さりありがとうございます。

今日の午後投稿はお休みです。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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