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99 お誘いに乗ってみる

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 皇宮から帰る時、ウォロが御者に頼んで遠回りをしてエルメス宮に帰るようにした。


「なかなかネモ、観光できてないし、ふたりで話したかったし」

 ウォロが言った。

「うん、ありがとう。あそこにも宮殿があるんだね。」

「あれはまだ誰もいないよ」

「えっいくつまであるの?」

「第7までじゃないかな? サシャ皇女がいたのは一番端っこの第7だよ」

「そうか、夫人だけじゃなくそういう使い方もあるんだね……」


「もし、ダイゴやウォロが皇帝になっちゃったら、第2夫人、第3夫人って迎えていくの?」

 私の当たり前な疑問にウォロの顔がちょっと引き攣った。

「自分はいらないよ。でも、政治的に迎えなきゃいけないケースもあるかも……」

「そうか……。嫌だな」

 素直に声に出して言ったらすっきりした。


「女性が皇太子や皇帝になったら、夫はひとり? それとも複数?」

「それはその時の皇帝になる人の考えで変わるかな。

 だから、男の皇帝でもひとりしか夫人を持たなかった人もいるよ」

「ふーん」

 

 ウォロが話を変えるようにマッちゃんに話しかけた。

「カルタロフの気配どうだった?」

『感じないな……。昨日の夕食会も感じなかったし……』

「そうか、皇宮周辺ではなく、王都の街に潜んでいるのか?」

「今度、街の方へ行ってみよう」

 私が言うと「そうだな」と返事してくれる。


「後2週間ぐらいで王国に帰るのを考えなきゃだよね……」

「まあ、メイリンがそろそろ何か仕掛けてくると思うけど」

「ダンテとメイリンはそれほど仲良くないの?」

「うーん、微妙だな。メイリンに従ってる感じもしないし……。妹だから守ろうとはするけど……という感じだな。

 あ、最後の聖女の話は皇帝になったものだけが知る真実だったみたいなので、内緒だな」

「うん、わかった。でも、ウォロ、もう知っちゃったね……」

「ああ……、まあそれは知らなかったことに……」


 でもちょっと引っかかっている。

 ルチアが死んだ時、周りに治療を持つ家族が5、6組ほどいたと思う。

 あれだけの人がいたのに、なんで歴代皇帝にしか真実が伝わっていないんだろう。


 エルメス宮に到着するとランスはまだ戻って来ていなかった。

 引き留められているのか?

 言うこときかないといけないんだと、逆らえないしね。

 大変だな。

 私にはとてもできないや。


 マリヤム宮から夕食にどうぞと様々な料理が届けられた。

 昨日もエルメス宮でお世話になっちゃってるし、マリヤム様の配慮だろう。

 

「エルメス様、毎日押しかけてすみません。今日も、ランスが帰ってくるまでいることになりそうで……。夕食準備お手伝いします」

 私はキッチンに行き、エルメス様にそう声をかけた。


「ネモ、大丈夫よ。ありがとう。

 マイベルとカノンが毎日楽しそうで私はうれしいわ。

 マイベルの体調が良ければ、マリヤム宮でも外出に連れてって下さいな。ネモと一緒だったら安心だわ」

「ありがとうございます。そうしたら、外出する時はご相談しますね!」

 テーブルにご馳走を並べたり皿を並べたりするのをメイドと一緒に手伝った。


 ランスが遅いので、みんなで食べ始める。

 カノンが機嫌悪い。

 あまり食べずにプイッと食堂から出て行ってしまった。

 私も途中で席を立って追いかけた。


 カノンがマイベルの部屋に入り、庭の方からこっそりで出ようとしていて、すんでのところで捕まえる。

「カノン! ちゃんと待っていよう!」

 カノンが私に抱きついて大泣きする。

 そのままカノンの部屋に連れて行き、カノンとたくさん話をした。学校でのランスの話を聞きたがるので、魔法対戦の話や孤児院のボランティアの話などすると喜んで聞いていたが、いつのまにか寝てしまった。

 私はそっと部屋を暗くして出た。


 食堂に戻るとお茶の時間になっていて、マイベルは自分の部屋にもう下がっていた。

 エルメス様がご馳走を少しずつ取り置いてくれた皿を私に持って来てくれた。

「カノンのこと、ありがとうございます」

「最後は笑顔で寝てくれましたけど、ちょっと目を離せませんね。気をつけましょう。

 ご飯ありがとうございます!」


 この料理、食べてみたかったんだよね~!

 タンドリーチキンみたいなのがあって、はっとする。

 これカレー作れるんじゃない?!

 マリヤム宮の厨房で今度スパイスのこと聞いてみよう!


 その時、ランスが帰ってきた。


「夕食は?」

 オードリーが聞くと「食べてきたけど……」と私の皿を覗き込む。

「なんかうまそうなもん食べてるな」

「取ってあるから持ってきてもらうわね」とオードリーがメイドにお願いする。


「メイリン怪しんでないか?」

 ダイゴが聞くと、ランスは頷いた。

「大丈夫、だと思う。だんだんに言うこときくようにしたし……」


 かなり疲れているように見える。

「ランス疲れてる。大丈夫?」

 私の言葉に「大丈夫じゃないよ」と弱々しく笑って答えるランス。

「光魔法かける?」

 ウォロが「ネモは食べてな。自分がかける」と言って、ランスに光魔法をかけ始めた。

「またお前かよ! ……ありがとな」

 ランスがお礼を言った。これはかなり弱っている!


「何があったの? 何かするように言われた?」

 私の問いかけに、苦笑いする。

「なんでわかるかな……。実は今夜、オードリーかネモを連れ出してこいと言われた」


 ダイゴが緊張した顔を見せる。

「オードリーかネモ? 理由は?」

「それはわかんねー。とにかく連れ出して、落とせと言われたから」

 その言葉に、みんな『?』となる。


「……落とせって? 誘惑しろって意味?」

 マリアが困惑気味に言った。

「いや、そのままの意味。突き落とせって」


 なんか物騒な話になってきた。


「メイユウ宮の裏の高台になってる庭があるだろ? あそこから突き落として逃げろって言われた」

「……あそこから落ちたら、死にはしないが怪我は確実にするな。そして落ちたところはメイユウ宮の裏の……皇宮の庭の細い通路だよな」

 ダイゴがウォロに確認するように言う。

「ああ、飛び込んでもメイユウ宮の敷地内までは入れそうもないな。それよりかは人に見つかる可能性が高いと思う場所だな。

 敢えて見つかりやすくしてるのか?

 そのあたりに隠れて様子を見るか……、自分とエ……、ティエルノお願いできるか?」


「何で俺を避けるんだよ」

 エドワードが憮然と言う。

「だって、一応王子だし、夜で、しかも何かあるかもだろ?」

 ウォロが言いながらマリアを見る。


「いいんじゃない? エドワードも連れてってやったら」

 マリアが言うのでみんなびっくりする。

「いいのか?」とエドワードまで言った。


「じゃあ、ウォロとエドワードがその通路付近に。僕とティエルノがメイユウ宮のそばに待機することにしよう。ミカとクラウスは高台の方にいて、ランスが無事にエルメス宮に帰るのを確認して」

 ダイゴが指示を出してくれた。


「で、どっちが落ちるの?」

 ランスが私を見て言った。

「もちろん私でしょ。オードリーより鍛えてるし、いざとなったら自分で治療できるし」

 私は皿の上の最後のお肉をフォークで突き刺しながら答えた。



「風魔法で落ちるのを遅らせたらいいと思う」

 庭を歩きながら小さい声でランスが言った。

「そうだね」

 下に逆噴射みたいにすればいいのか?

 イメージをしてみる。うん、それなら行けそうだな。

「月がきれいだな」

 ランスが空を見上げる。

 もう少しで満月という丸っこい月が昇っている。


 高台の所までくると、風が気持ちよく吹いていて涼しい。

 下を見ると……、けっこう高くない? 3メートルというところか?!

「抵抗していいから。ずるずる滑り落ちた方が危なくないかもな」

 ランスの呟きに小さく頷く。


『ネモ、大丈夫か? ダンテを見かけたとウォロが言っておるぞ』

 ダンテ? 

 これから落ちるよ。

『これから落ちるそうじゃ。ネモ、気をつけろよ』

 

 ランスが私を押す。私は落とされまいとランスの服をつかもうとして振り払われ、髪にランスの腕が当たった。

「なんか言えよ」とランスに囁かれて、普通の女の子なら悲鳴上げるとかするのか? と思い至る。


「何するの?!」

 とりあえず叫んでその場にうずくまる振りをして、崖の方へ足を伸ばす。

 うん、このまま滑って風魔法で調節すれば……。

 はっ、スカートめくれるじゃん!!

 あわてて足を曲げてスカートを押さえる。

 あ、手がふさがると風魔法が出しにくい!!

 

 私が慌てているのを見てランスが声を殺して笑っている。


 しょうがない、計画変更。お尻から滑るように落ちて最後だけ風魔法!

 私は「わっ、キャー!」と悲鳴を上げながらたっぷりした布地のドレスのスカートを巻き付けてお尻を守ってもらいながら滑り出し、途中で身体を捻って体勢を変えると、最後に手から強めの風を出して衝撃を弱めて手足からストンと落ちた。

 

 我ながら猫みたい。

 ドレスのスカートは破れたり汚れたりすごい有様だ。

 マリヤム様にめっちゃ怒られそう。


 立ち上がると背後から走ってくる足音がしてた。

「大丈夫か?! ん? ネモ?」と声をかけられる。

 振り向くとダンテだった。

「悲鳴が聞こえたんだが……」

 私の様子を見て息を飲む。

「襲われたのか?!」

 あ、服は破れてるし、ランスとやり合ったから髪の毛も乱れてるだろうし、まあ、そういう風にも思えるか……。

 えーっと、なんて言えばいいんだ。

「散歩に来たら、上から……」

 言いかけていたところで、すごい大人数の足音が聞こえて私とダンテは囲まれた。

 警護局の小隊だ。


「いいところに! ネモをマリヤム宮まで……」

 言いかけたダンテをなぜか取り押さえようとする警護隊士。

「ジェイド皇子、弟君の婚約者を襲うなどあってはならないことです!」

 警護隊長が言い出し、私とダンテは「「えっ?」」と同時に言った。


「私は襲われてなんかいなし! ダンテを放して!」

「ネモフィラ様は混乱しておられるようだ。このまま病院へお連れしろ!」

「はっ!」

 隊士ふたりにがっちり押さえ込まれて捕まってしまう。

 病院なんかに連れて行かれたら、変な噂になっちゃうじゃん!!

「話を聞けって!」

 私は警護隊長に叫んだが「おいたわしい……」とか言われて全然話を聞いてくれない。


「ネモ! 大丈夫か!」

 ウォロとエドワードが来てくれた。

「これはモーリオン皇子。今回のことは大変……」

 隊長の言葉を無視して私の所に来ると捕まえている隊士に「手を離せ」と言った。

 隊士が躊躇したが放してくれた。


「モーリオン皇子、私達は……」

「上から落ちたんだよ! ネモは上から落ちただけ!

 ダンテはその悲鳴を聞いて駆けつけてくれたんだ!

 お前らの早とちりだよ! いいから、ダンテを放せ!!」

 ウォロの言葉にダンテを捕まえていた隊士が手を離した。


「何もないから! 一緒に散歩に来たら、ネモが上から誤って落ちたんだ。それだけ!」

 ウォロが警護隊を睨みつけるように言うと隊長が上を見て高台を確認し頷く。

「わかりました……。行くぞ!」と隊を率いて立ち去った。


「はあ、こういうことだったのか……。ダンテ、大丈夫か?」

 ダンテは呆然としていたがウォロの呼びかけに「ああ」と頷いた。


「ダンテはどうしてここに?」

 私の問いかけに懐から紙を取り出す。

「メイリンに呼び出されて……。そこで悲鳴が聞こえたものだから……」


 エドワードが紙をダンテから受け取り、指先から炎を出してその明かりで読んでくれた。

「『ご相談したいことがあります。夜9時にメイユウ宮の裏でお待ちします』名前はないけど、メイリンなのか?」

「ああ、メイリンの字だ。わかる。嵌められたということか? いや、ネモが落ちたのは偶然だよな?」

 ウォロがエドワードから手紙を受け取り、しまった。

「偶然じゃない。ネモもメイリンの命令でわざと突き落とされたんだ。

 この手紙、証拠だから預かる」

「……ということはメイリンが?! ひとりでは無理だ……、母上も一緒か……」

 ダンテが驚きながら言葉を発し、最後はうなだれる。


「あの警護隊も今夜はここら辺を重点的に見回るように言われてたんだろうな……」

 エドワードが気の毒そうに言った。


「ダンテ、どうする? マリヤム宮に来るか?」

 ウォロが言うと、ダンテが驚いた表情をした。

「……どういうことだ?」

「メイユウ宮に帰りたくなければ、と思ったんだが……。

 こんな騒ぎのあと、夜遅くに皇宮の自分の部屋に行くのも嫌だろう?」

「……ああ、そうだな。……マリヤム宮に泊めてもらえるか?」

「ああ、歓迎するよ。その前にエステル宮にちょっと寄るよ」

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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