表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/384

97 私はネモ

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。



「大丈夫か?」

 ウォロがそばにいてくれる。

「ウォロはなんで来てくれたの?」

「マッちゃんがネモが危ないというので……」

「マッちゃん、ありがとう……」

 私はウォロにもたれかかった。

 ウォロが抱きしめてくれる。

 とたんに夢の中で震えていた青年を思い出す。


 あれは夢なのか? 

 なんで私があんな夢を見るのか?


『すまん。ルチア、助けられなくて』

 マッちゃんの声が響いた。

「私はネモだよ。ルチアじゃ……」

『前世のひとつがルチアだな』

 は? 

 恵実えみの前ってこと?

『もっと前だな。不思議と人を助けたいという本質だけは変わらずに引き継がれているようだな……』

「じゃあ、ルチアが死を贈った青年がミーア帝国皇帝の祖先?」

『ああそうだ』

「そういうことか……」

「ネモ?」

 ウォロがわけがわからないという表情をしている。


「んーと、最後の聖女はルチアっていう名前で、マッちゃんの恋人だったんだよね。

 で、私の前世のひとつなんだってさ」

「というと、ネモは以前にもこの世界で生を受けたことがあるんだ?!」

「みたいだね。

 で、ルチアは治療を断られた家族に殺されたんじゃなくて……。

 その家族から殴られてた私を助けてくれた青年がいたの。でも、そのせいで彼も周囲から殴られて……。

 もうルチアは精神的にも肉体的にもいっぱいいっぱいで……、死を願ってすらいて……。

 その青年が周囲に害されないように、剣を握る彼の手を取って……」

 胸を突き刺す仕草をしてみせる。


「その青年が銀髪で銀の瞳だった。

 守ろうとしてくれた青年にこう言ってた。

『私の死をあげる。私が死ぬことであなたはもう誰にも殴られないわ』

 なんて……呪い。彼に本当にひどいことを……」


「そうか、それで、この国はそれ以来、聖魔法のというか、聖女の存在を封印したんだ」

「ミーアの最初の皇帝ってどんな人?」

「銀髪で銀目の騎士だと言われている。名前はエヴァンス。

 聖女が殺されたことを知り、それをきっかけにクーデターを起こしてその時の王を倒した。

 ミーアを建国し、初代皇帝になり、聖女ルチアを最後の聖女とすることを決めた」

「……もしかしたら私を助けて連れ出そうとしてくれていたのかも。

 ありがとう。エヴァンス。そしてごめん」

「自分はウォロだよ」

「ウォロの血の中のエヴァンスに言っている……」

「ネモ、しっかりしろ! マッちゃん、これ大丈夫なのか?」


『前世の記憶が強烈に蘇りすぎて混乱しとるな。寝れば治るだろ』

「そういうものなのか?」

 ウォロが私を抱きしめたまま横になる。

「ウォロ、大好き」

 ウォロに自分から抱きついたと思ったら、また眠りに引きこまれた。


 次の日、目が覚めたらウォロに抱きしめられて寝ててびっくりする。

 そのままじっと考えていたら、なんだか頭の中でいろいろなことがクリアになってきた。

 

 うん、前世は前世。今の私はネモ。

 ウォロが婚約者で恋人で、わたしはウォロが大好き、愛してる。

 うん、そういうこった。

 私はウォロの胸に顔をすりすりした。

 ウォロが起きて目を開けた。

「ネモ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。私はネモだから」


 起きて剣の練習に行く、走っていると神殿の方が何だか騒がしい。

 ま、それはもう神殿と陛下に任せよう。


 素振りをしていると、ダンテがやって来た。

 練習を見に来てくれたんだ!

 さっそくミカの刀とエドワードの長剣の打ち込みを見てもらう。

 いろいろアドバイスしてくれている。


「ネモの二刀流も見たいものだな」

「二刀流の木剣、持って来てなくて……」

「騎士団にあるよ。今度おいで」

「はい、行きたいです!」

「みんなも自分の剣を持って来いよ!」

 

 風のように去って行った……。


 朝食後、エルメス宮に行き、マイベルの様子を診る。うん、大丈夫。


 それからクラウス先生とランス、ウォロとダイゴとマリアとエドワードと私でまた集まった。

 ブレスレットは惚れさせる系の魔道具でペアで使うものらしい。つまり片割れというか本家というか惚れさせる方をメイリンが身につけているはず。

 やはり謎の魔道具職人の手によるもの。

 うーん、どうするかですね。


「これ壊せるんだよな?」

 ランスがクラウス先生に確認する。

「ああ、魔石をショートさせれば、ただのブレスレットに戻る」

「じゃあ、壊してよ。俺、身につけるから。

 おとり作戦というか……、んでこれ身につけるとどんな感じでメイリンのこと好きになるの?」


 私とマリアは反対したんだけど、結局ランスはおとり作戦をやることになった。

 クラウス先生によると、相手のことが一番大切になり、何を置いてもメイリンのことを優先するようにすればいいんじゃないか? ということだ。

「ウォロみたいにすればいいんだな」

 ランスが言った。

 は? 

 私とウォロは顔を見合わせた。


 今日は警護局には行かないので、クラウス先生がダイゴに図書館に行ってみたいと話している。

 私はクラウス先生に話しかけた。

「クラウス先生、ひとつ忠告が……。

 帝国は聖魔法の認識がほとんどない国なので、怪我している人がいてもダイゴに確認してから聖魔法使うようにして下さい。私、気がつかず、昨日、子どもの怪我を安易に治してしまって、その後、神殿で治療を求められて……。マリアも巻き込んでごめんなさい。問題になっているみたいなので……、気をつけて」

「あー、聞いたよ。聖女の再来とか言われてるんだって」

「それでウォロとこれから陛下のところに行ってきます」


 マイネがノックして封筒を持って入ってきた。

「ランスに」

 ランスが開けてざっと読む。

「昼食を食べに来いってさ」

「ひとりで?」とエドワード。

「うん」

 ランスが頷いて続けた。

「行かなきゃだな」


 クラウス先生とウォロで魔道具を一度ショートさせ、分解して魔石の部分の力が完全に抜けているのを確認する。

 再度組み立てる。

 クラウス先生が確認してくれる。

「うん、こちらの効力はなくなった」

 

 私はメイリンのブレスレットとカノンの飾り紐を身につけたランスを見て心配になって言った。

「カノンの飾り紐、メイリンと会う時は外した方がいい。もし……、捨てろと言われたら大変でしょ?」

 ランスは頷いて、「エルメス宮に置いておく」と言った。


 ダイゴとオードリーとクラウスは図書館に。

 ウォロと私は皇宮に。

 後のみんなはエルメス宮で過ごすことになった。

「入学試験対策で初歩の魔法の練習したりしてもいいかもね!」

 私はエドワードにそう声をかけた。

「そういえばマイベルの属性何?」

 エドワードに聞かれたウォロが「確か、火と……なんだろう。自分とは違ったから、土以外だ」と答えた。

「まあ、本人に聞いてみるよ。それからネモ……。

 言いにくいんだけど……。あんまりマイベルのこと、いろいろ言わないでくれる。

 あのさ、前のセレナの時みたいな、変な感じだよ」

 

 思い当たることがあるので私は一瞬顔が熱くなり、そしてスーッと背筋が寒くなった感じがした。


「ごめん……。マイベルが頑張ってるの、気がついて欲しくて……。

 そうだね。ふたりに申し訳ないことをしてしまうところだった。

 言ってくれてありがとう。気をつける」


 そうだ、エドワードはそういう人だった。


「うん、マイベルのことはいい子だと思うけれど、まだ好きになるかとかは正直わからない。

 もしマイベルが魔法学校に入学できて、もっとお互いに知ることができたら、何か変わるかもしれないけれど……。今は友達の妹としか見られない。だから……」

「うん、わかった。言いにくいこと言ってくれてありがとう」

 エドワードはほっとした表情でマイベルの部屋に向かって歩いて行った。


「エドワード、本当にいい奴だよな。

 確かにマイベルは自分から話しかけたりするの苦手で見ていると手助けしたくなるのわかる。

 でも、それが本当のマイベルだから、見守るしかないよな」

 ウォロがエドワードの姿を見送りながら言った。


「うん、セレナの時と同じような事してしまうところだった。あの時反省したはずなのに……」

「セレナの時とは違うだろ? あの時のエドワードは……。ま、今回もちゃんとわかって良かったんじゃない」


 私とウォロで皇宮へ行った。

 馬車が神殿前を通り過ぎる時、たくさんの人の治療して欲しいと呼びかける声が聞こえて怖くなった。

 ウォロが私の様子に気がついて耳を塞ぐように頭をやさしく抱えてくれた。


 皇宮内に馬車が入り、ほっとした。

 馬車から降りると文官らしき人が待っていてくれたがウォロは「場所はわかるから」と私の手を引いてさっさと歩き出す。

 あわてて文官が追いかけてくる。

「モーリオン皇子、お待ちください。実はその前に聖女様に見て頂きたいものがございます」

 ウォロは「ネモは聖女ではない!」と怒りを含んだ低い声で言った。

 文官は顔色が悪くなったが、必死に食い下がる。

「皇子、お願いします!」

 ウォロはため息をついて立ち止まり言った。

「何を見せようというのだ?」

「こちらに」

 文官が先に立って歩き出した。

 剣の練習場のような場所の脇の長い回廊を過ぎて……。

 ウォロが立ち止まる。

「もしかして騎士団の医院か? ネモに治療させようとしている?」

「少し前のことですが王都の端の街で魔獣の被害が出まして、騎士ふたりと襲われた親子が怪我をして保護されています。治療をお願いしたいのです」

「このことは陛下は?」

「ネモ様の判断に任すと……」

 ウォロがため息をつく。

「ネモが断らないことがわかっていて……」

 私はウォロを見て言った。

「聖魔法持ちがふたりもいるんだもの。診てあげよう」

「……そうだな。わかった」


 回廊先の建物に入る。

 2階の病室に入った。

 ベッドに寝ている男性がふたり。

 ダンテがいた。

「ネモ、ウォロ、すまん。私が陛下に頼んだんだ」

 ウォロが頷いた。

「親子は?」

 私が聞くと「隣の部屋にいる」と言われる。

 私が行こうとするとウォロが止めて「それぞれの怪我の状態を教えてくれ」と言った。

 そうか、それを聞いてから順番を決めないと。


「騎士がふたり怪我している。

 ひとりは右手を噛まれた。もうひとりは右太ももと背中に切り裂かれるようなひどいひっかき傷を負っている。ふたりとも傷は洗浄したが、毒のような症状も出ている。

 親子は子どもが噛み傷が3カ所ほど。母親が背中をかなり切り裂かれている。この親子も傷を洗浄したが毒のような症状がある」

 ダンテが教えてくれる。毒の症状? 毒なのか、バイ菌の感染なのか?


「急いだほうが良さそう。まず傷が多そうな親子を診よう。治し方を相談したら、次にウォロ、騎士を診てくれる?」

「わかった。先に親子を診せてくれ」


 隣の部屋に入ると、子どもと母親がぐったりしている。

 医師が「傷洗浄はしましたが……」と言ってくる。


 私は母親の方に近寄った。

 母親の方が深手だと判断した。

 ウォロが子どもの方に向かってくれる。

 傷を見せてもらうと傷の端が少し黒ずんでいる。これが毒なのか?


 毒? どうやって取り除けば?

「ネモ、この毒は光魔法で中和できると思う」

 ウォロの言葉に傷全体に光魔法をかける。黒ずみが薄くなる。

「毒、薄くなった! このまま続ける!」

 そう報告しつつ、少し力を上げる。

 黒い部分がなくなり傷がふさがり始める。

「ネモ、完全でなくてもいいぞ。まだ次の人がいるから」

 私は頷き、医師に声をかける。

「傷はふさぎました。傷がまた開かないように治療をお願いします」


 医師と看護師が傷に薬を塗り布を張り付けて包帯を巻いてくれる。

 母親の手を取り、身体に光魔法を流す。

 うん、毒はない。体力もまだある。


 私は子どもの方に向かう。

 ウォロが子どもの手を握り体力を上げてくれながら「全体的にかけてくれるか? 毒がなかなか消えない」と言った。


 私は子どもの全身に光魔法をかける。

 噛み傷の黒ずみが薄くなる。

 もう少し! さらに力を上げた。


「よし、後は傷をふさぐから。騎士の毒を中和しておいて!」

 ウォロに言われ、最初の病室に戻る。


「毒を中和します」

 ふたりを見るとどちらも同じぐらいの傷の黒ずみだ。

「ベッドをくっつけてもらえますか?!」

 ダンテに言ってベッドをくっつけて並べてもらう。

 私はふたりの枕元に立ちふたりに片方ずつ手をかざして光魔法をいっぺんにかけた。

 噛み傷の方が先に毒が消えた。

 そこへウォロが来てくれて、噛み傷を治し始める。

 私はひっかき傷の騎士に光魔法をかけ続けた。

 毒が消えたように見える。

 背中の傷を治そうとして違和感に気がつく。

 あわてて手を握り光魔法を全身に流す。

 あれ、背中の傷?


 医師を呼ぶ。

「まだ、魔獣の爪の一部が残っています。ここ、取れますか?」

 診てもらい異物を取り出してもらう。

 もう一度光魔法をかけてから、背中の傷をふさいでいく。

 太腿の方はウォロが取り掛かってくれた。


 どちらも完治まではさせず、後は医師に任せることにした。


「大丈夫かネモ?」

 ウォロが心配そうに私を見る。

「うん、大丈夫。ウォロも傷を治すのたくさんやってくれてありがとう」

「傷修復はネモで慣れてるから」

 そーですか。


「でも、ネモの光魔法はさすがだな。

 自分だったら、ひとつひとつの傷に光魔法をかけるしかできない」

「魔獣って毒持ちなの?」

「うん毒っていうか、闇魔法の毒に近い、かな」

「闇魔法って毒なの?」

「うん、薬のような作用があるのも知ってるだろ?」

「あ、寝るのとか! 確か、カトレア先生の薬で防いだり効果を薄めたりできたよね」

「うん、種類によっては薬の様に使うこともできる。

 人を襲う強い魔獣は闇魔法を持っていることが多い。

 ミーアでは聖魔法の考え方がないから、毒と表現するけどね」

「じゃあ、今までは薬で治療してたの?」

「そんな感じだね」

「私も薬作れるのかな?」

 薬があれば、私がミーアにいなくても毒だけは治療できるんじゃない?!


「ありがとう、ネモ、ウォロ」

 ダンテがお礼を言って、頭を深々と下げた。

読んで下さりありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ