96 プレゼント(後)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
「ネモ大丈夫?」
マリアが心配してくれる。
メイユウ宮に向かう馬車の中。
マリアとランスと私とウォロが乗っている。
結局、私の体調が心配でウォロがついてきたのだ。
「うん、大丈夫、ウォロが光魔法かけてくれたからだいぶ良くなったよ」
「私もクラウス先生にかけてもらったわ。
光魔法使い過ぎで、光魔法かけてもらうなんてね。なかなかない経験よね」
メイユウ宮に到着するとメイリンとダンテが迎えてくれた。
ダンテがウォロを見てメイリンに目配せした。
「ほら、やっぱりウォロも来ただろう。婚約者をひとりでよこすような奴じゃないって」
「お兄様の言ったとおりね。用意しておいて良かったわ」
ウォロの分も用意できてたみたいだね。
メイユウ様、初めてお会いした。
ダンテは母親似なんだな。茶色の髪に緑の瞳。
挨拶はしてくれたけど、夕食会は遠慮するといって引っ込んでしまった。
夕食会はメイリンが話題を振ることが多く魔法についての話が主だった。
食後、自由に立ち歩いて歓談できるような形式になり、私はひとりでいるダンテの所に行った。
実はメイリンよりダンテと話をしてみたかったのだ。
「ダンテ様、お話いいですか?」
「なんだいネモ? 私の話はつまらないかもしれないよ」
「そんなことないと思います。私、王国でミーアの剣術習っているんですよ」
「ほう! それは面白い」
私は魔法学校の剣術の先生が生徒の体格や体力などに合わせていろいろな剣や刀の剣術を指導していることを話した。
私は二刀流(短めの剣での)、一緒に来ているミカは刀をやっていることを話した。
「おもしろそうだな! 今度手合わせしてみたい!」
「ウォロとティエルノとエドワードは長剣ですけど、強いですよ。学年対抗の剣術大会で2年生なのに優勝しましたから! あ、そのチームにミカも入ってます!」
「ほう、そんな楽しそうな大会が! 騎士団でもやってみたら盛り上がりそうだな!」
「ダンテ様も」と言いかけると、制止された。
「ダンテでいい。ダンテと呼んでくれ」
「でも、ウォロはダンテ兄さんと呼ぶし……」
「おいウォロ! 私のことはダンテと呼んでいいからな!」
向こうで話していたウォロに向かって大声で言った。
ウォロがびっくりしてこちらを見て、ダンテに頷いた。
「これで問題ない」
ダンテはにっこり私に微笑んだ。
帰りの馬車でウォロはちょっと怒っていた。
「ネモ、メイリンと仲良くなる作戦じゃなかったのか? ダンテとばかり話していて……」
「ごめん、なんか、メイリンと話すよりダンテと話すほうが気が楽で……」
つい逃げちゃいました。
「男の嫉妬は見苦しいぞ!」
ランスが言った。
「嫉妬ってわけじゃ……。兄だし……」
ウォロがごにょごにょ言っている。
エルメス宮に寄りランスを下ろそうとしたら、ランスがウォロの服を掴んだ。
「ごめん、相談。降りてくれない?」
私達も一緒に降り、エルメス宮に入った。
オードリー達もまだいて、マイベルやカノンと飾り紐を作ったりしていたらしい。
クラウス先生、ウォロ、ダイゴ、ランス、マリア、エドワード、私が集まりランスの相談を聞いた。
「これもらった」
ランスが細長い箱を取り出す。
クラウス先生が箱を開けて驚く。
「メイリンにか?」
「ああ、プレゼントだそうだ。メイリンのとペアで作らせてあるんだと。どう考えてもおかしいよな」
クラウス先生がテーブルの真ん中に見えるように箱を置いた。
ミーア帝国風のデザインのブレスレットだった。
「あんな慎重に魔道具を回収しているのに?!」
ダイゴが驚いている。
私はそのデザインに見覚えがあった。
「これ、前にウォロが学校に持ち帰ってきたのとよく似てる。
惚れ薬みたいな効果とか言ってなかったっけ?」
クラウス先生も頷いた。
「そうだな、あれにデザインは似てる。かなり前に作られたものかもしれないな。
今夜調べさせてくれ。明日、また報告する」
部屋を出てマイベルの部屋に向かった。
カノンがランスに飛びつき「はいっ!」と飾り紐を渡す。
「できたのか! カノン、頑張ったな! とても上手だ。本当にありがとう」
ランスがうれしそうに受け取り、丁寧にお礼を言った。
カノンはニコニコしている。
マイベルもエドワードに声をかけたそうな素振り……。
私はエドワードに「マイベルと話してくれば?」と小さな声で言った。
オードリーはダイゴに新しく作ったものを渡している。
「あーあ、みんなさっさと完成させちゃったのね。私だけまだ作りかけだわ!」
マリアが残念そうに言った。
「ごめん、私が治療に巻きこんだから……」
「いいのよ。気にしないで。今日は疲れたから早くマリヤム宮に戻りましょう」
マリヤム宮に戻りベッドに倒れこむように眠った。
私は夢の中でマッちゃんに会った。
たぶんマッちゃんだと思う。
長く白い髪に赤い瞳。肌の色が白い。ウォロの様に背が高く……、もう一回り大きい感じ。
魔法使いというより剣士っぽい格好で若い。魔法剣士って頃かな?
マッちゃんが「ルチア……」と私を呼んだ。
ん、ルチア?
私はネモだぞ?
とたんにマッちゃんが消えて、今日いたあの聖女の治療院の場所にいた。
患者とその家族が「助けろ!」「苦しい、早く治せ!」「お願い、この子を助けて!」と怒鳴ったり泣いたりしている。
私はその雰囲気が怖くて涙が出た。
でも、それでも目の前の人を助けたいと思った。
近くにいる人から治療をしていく。
治療が終わって感謝してくれる人もごくたまにいた。
だいたいが「待たせすぎなんだ」「遅い!」「お前が遅いせいで余計に苦しんだじゃないか!」と罵倒された。
力が尽き、這いつくばるようにして寝床に潜り込む。
毎日、私は何をしているんだろう。
『善意の搾取』ウォロの言葉が頭に浮かんだ。
マッちゃんの記憶?
それにしてはルチアのこの疲労感と感情の生々しさ。
なんだ? これは?
私が手を見ると、もう治療の場にいた。
今日はもう途中で力が尽きてしまった。
私が力なく「今日はもう力が尽きました。治療できません、ごめんなさい」と謝ると次の順番だった女の子の父親に殴られた。
「お前はうちの子を見殺しにするつもりか! さあ、治せ!」
「ごめんなさい。今は無理です。明日になれば力も少しは力も回復するので、お願い待って!」
「もう一晩、この子に苦しめというのか! ひどい聖女だ!」
……私は毎日苦しんでいるのに。
どうして私はこんなことをしてるんだろう……。
私はとうとう……、とうとう言ってしまった。
「なら、私を殺せばいい。それで聖なる力を持つ者はこの国からいなくなる」
父親は激高し「力を持つ者が助けを求める俺達を脅すのか!」とさらに殴ってきた。
「やめろ、本当に死んでしまう!」
青年がひとり、間に入ってきて、父親を止めてくれた。
今度はその青年が他の人に囲まれ殴られた。
「やめて!」
私はその倒れた青年を守りたくて、よろよろと近づいた。
銀髪で銀色の瞳をした青年だった。
殴られたことから青年は身を守ろうととっさに短剣を抜いたようで左手に握り半身を起こしている。
私は青年に微笑みかけ、その左手を両手で掴み剣をこちらに向けさせるとその剣の上に身体を倒れこませた。
胸の中が熱い! と思ったら全身が寒くなる。
「どうして……」と青年は私を抱きしめながら震えた。
「ありがとう、私を守ってくれて。私の死をあげる。私が死ぬことであなたはもう誰にも殴られないわ」
私は囁いた。血が咽喉を駆けあがってくる。
苦しくなって血を吐き出した。
息が吸い込めない。
助けて! 助けて! ウォロ!
「ネモ!! 息をしろ!!」
息ができた。
ウォロがいた。
銀色の瞳のウォロが。
「……最後の聖女ってルチアっていうの?
ルチアは殺されたんじゃない、自殺だわ……。
とんでもない贈り物を……。彼がミーア帝国皇帝の祖先?」
読んで下さりありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




