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96 プレゼント(中)

悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。

ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 帰ってきたウォロ達とサンドイッチを食べながら、ランスとマリアにメイユウ宮への夕食へのお誘いがあったことを伝える。

「ふたりだけ?」

 ウォロが驚いて聞き返し、ダイゴも「確かにダンテがふたりにメイリンと仲良くして欲しいようなこと言ったけどさ」と言っている。


「どうしたらいい?」

 ランスとマリアがちょっと困った表情をしている。

「参加人数をこちらから増やせというのも言いにくいし……」

 ダイゴも困っている……。


「じゃあさ、私もメイリンと親しくなりたいと言ってるとかなら伝えやすいんじゃない?」

「ネモ、行くの?」

 ウォロが驚いている。

「さすがにマリアをそのまま行かせるのは……。

 私ひとりなら増えても料理とかもそこまで影響なさそうだし、平気じゃない?

 マッちゃんと気配探って来るよ」


 とりあえず、私も参加したいということを返事してみることになった。

 

 午後はオードリーの案内で私達は図書館と神殿へ。

 ウォロとダイゴとクラウス先生はまた警護局に行かなくてはならないとのことで……。


 安全面を考えて図書館と神殿にマイネとマイベルとカノンも一緒に連れて行くことになった。


 マイベルもカノンもとてもうれしそう。

 馬車で図書館に行き、中を見学する。

 魔法陣の本がたくさんあり、見に来たいと思って閲覧が可能か図書館の人に確認すると、今度読みに来ていいですよと言われた。

 やった!


 それから、神殿へ。

 神官に案内されて中を見学していると、親子で神殿に来ている家族がちらほら。

「今日は子どもの健康と成長を祈る日でもあるので、家族連れが多いですね」

 毎月1日は子どもの日みたいな感じらしい。


 その時、近くを走り回っていた子どもがこけて、手のひらと膝に擦り傷を作ってしまった。

 かなり痛がっている。


 私は「治療しましょうか?」と母親に声をかけた。


 母親が慌てて頷いた。

 私は子どものそばに膝をついて座り「治すからね」と声をかけて光魔法の治療を始める。

 傷は表面的なものだったのですぐに治った。


「痛くない!」

 子どもがビックリして、手のひらと膝を撫でたり見つめたりしている。


「……ありがとうございます!!」

 母親の声が神殿に響き渡るほどの大声でこちらがびっくりした?!


「あなた様のお名前は?」

「ネモフィラです」

「モーリオン第3皇子の婚約者様です」と神官が余計なことを言う。

「まあ、第3皇子様の婚約者様!!」


 また声が大きいって!

 私はあわてて立ち上がり、会釈してみんなのところに戻った。


 治療した親子が見学者に囲まれて何か話している。

 そういや聖魔法の研究というかほとんど進んでいないんだっけ?

  

 神殿の中を見学して出てくると、入り口にさっきより多い家族連れが集まっていてびっくりする。


 神官達が集まってきている人の話を聞いているようだ。

 私達を案内していた神官に何か話している。


 神官が私に言った。

「先ほどの治療の魔法の話が広がり、治療を求めて人々が集まってきているようです」

「えっ?」

 私は驚いて近くにいた子どもを見た。

 顔に大きな火傷痕がある。


 私はオードリーに言った。

「ごめん、先にマイベル達を連れてエルメス宮に戻ってて」

「……だと思った。マリアもいい?」

 なぜかマリアに聞くオードリー。

「ええ、私とエドワードとティエルノが残りましょうか。ネモ、私も手伝うわ」

「ありがとうマリア!」

 私は神官に言った。

「今日は、今、ここにいる人だけ診ます。これ以上増えていっても……申し訳ないけれど今日は無理です」

 その言葉に神官達が入り口を閉めてくれた。

「お参りに来る方もいるのですよね? どこか他の場所はないのですか?」

 そう聞くとすぐ隣に広い建物があるとのこと。


 私達は4人はそちらに移動し、オードリーやマイベル達は戻ってもらうことにする。

「ミカ、ランス! マイベル達のことよろしくね!」

 そう声をかけるとふたりは頷いた。


 広い建物というのは昔、聖女様がいた時代に使っていた治療院なのだそう。

 石造りで古そう。遺跡に近い。

 聖女? 聖魔法のことかな?

 伝統みたいなのはあったけれど途切れてしまったということかな?


 神官達が怪我人や病人を移動させるのを手伝ってくれ、マリアと治療を始める。


 私は最初に見た火傷の男の子の手を取った。

 顔の右側が大きく火傷跡になっている。

 付き添いの母親が、1年前に焚火のそばで転んでしまったと説明してくれた。

 

 すでに1年が経過しているし、これはきれいにするのは難しいかも。

 私はその子の傷にそっと触れて火傷部分には光魔法がなかなか入らないことを確認した。

 元に戻すというよりは火傷の下の皮膚の回復力を高めるように光魔法をかけた。

 火傷の下から新しい皮膚が盛り上がり古くなった火傷の皮膚がはがれていくような……。

 火傷下から現れた新しい皮膚は周囲の肌より白く浮いている。


「すぐに日焼けしないようにして下さい。まだ皮膚が新しくて弱いので、このまま保護して様子を見て下さいね」

 母親に説明すると「ありがとうございます!」と泣かれた。

「まだ皮膚が新しく弱いので、しばらくは太陽の光に当てないように保護して過ごして下さい!」

 再度、念を押す。


 次は先週、木から落ちて腕の骨を折ってしまったという女の子だった……。


 何とかあの時に入り口にいた家族の子どもは治療することができた。

 マリアも手伝ってくれたし……。


 こんなに大人数を連続して治したのは初めてで、立ち上がるとめまいがした。

「ネモ?」

 エドワードが支えてくれる。

「ありがとう。マリアは平気?」

「私は軽い怪我症状の子が多かったから大丈夫。あの人数だから疲れたけどね。

 ネモの方は火傷や怪我の痕、骨折や病気の子がいたし……、丁寧に診てたようだからかなり大変だったんじゃない?」

「うん、かなり疲れた。お腹空いたような……でも食欲ないような変な感じ……」


 頭がぼーっとする。

 まだ入り口の方に治療を求めている人がいると言われれるが、申し訳ない、もう限界です。


 案内してくれてた神官が裏の方から出られるようにしてくれる。

 神殿が用意してくれた馬車に乗り込むと私はマリアに寄りかかって寝てしまった。


 目が覚めるとベッドに寝ていた。

 なんとなく調度品の感じからエルメス宮かな?


「起きた?」

 オードリーがそばにいてやさしく言ってくれた。

「今、何時?」

 夕食会があったはず。

「今、5時だよ。夕食会は7時だからまだ大丈夫」

 ほっとする。

「何か食べる?」

 私は頷いた。


 オードリーがドアを開けた時「だから、何でネモが!」と怒っているウォロの声が一瞬聞こえた。

 オードリーがちらりとこちらを見てあわててドアからするりと出て閉めた。

 私はあわててベッドから出るとそっとドアを開けた。

 ウォロの声が聞こえる。なんか怒って言い争っているみたいな……。


 声を頼りに探すと、その部屋はすぐわかった。

 ノックしようと手をあげかけ止めた。

「最後の聖女は殺されたんだろ? なのになんで、今になって……ネモを聖女に?!」

 ウォロの声に誰かが答えた。

「聖魔法の研究が進めば聖女の伝説もなくなるだろう。それまでだ」

 この声は陛下?


「ネモの様子を見てくる」

 ウォロの声がドアに近付いてきて、いつもなら走って隠れるとこなんだけど、身体が動かなかった。

 ドアが開いて「ネモ?!」とウォロがびっくりする。


「ごめん、立ち聞きするつもりはなく、ほんの少し前に来て……」

 ウォロに抱きしめられる。

「顔色が悪い。休まないと」

「聖女って何の話?

 今日治療した場所のこと?」

 部屋から陛下が出てきて言った。

「ネモ、君を聖女の再来と噂する者が現れた。少し話がしたいのだが……」

「今はやめてくれない?!」

 ウォロが遮る。


「明日、お話聞いていいですか? これからメイユウ宮で夕食会もあるし」

 私は息を吐き出すようにゆっくりと言った。

「夕食会なんて行かなくていい」

 ウォロが怒った口調で言う。

「こちらから行きたいと言ったのに行かないわけには。大丈夫、もう少し休めば」


「……もうっ」

 ウォロは私を抱き上げると陛下に言った。

「明日、皇宮にネモを連れて行くから!」

 それだけ言うと、私を元の部屋に戻した。


「ここエルメス宮だよね?」

「そうだけど。本当にびっくりしたよ。

 マイベル達しか帰ってこなくて。

 神殿の馬車で送られてきたと思ったら、ぐったりしてるし……。

 マリアから聞いたよ。かなり無理したんだろ。

 本当に……、何度言ったらわかるんだよ」

「わかっているんだよ。でも、助けを求められると……」

「そいつらがネモを利用しているだけだとしてもか?!」

「利用?」

「ああ、善意の搾取とでもいうかな……。はい、光魔法かけるから」

 手を握られ光魔法をかけてもらうと身体の疲労感はだいぶなくなった。

 途中でオードリーが飲み物と食べ物を持って戻って来てくれた。

 

 魔法が終わるまで声をかけるのは待ってくれているよう。

「ありがとう。後は自分がするから。オードリーも休んで」

 ウォロがオードリーに感情がこもっていない声で言った。


 オードリーは悲しげな顔をした。

「オードリー、今日はありがとう。おかげで私は今、後悔しないで済んだ。本当にありがとう」

 私はあわてて声をかけた。

 泣きそうな顔をして頷いてからオードリーは出て行った。


「オードリーのせいじゃないのに」

 私が呟くとウォロが飲み物を渡してくれた。

 温めた牛乳に蜂蜜が入っている。

「おいしい……」

 私はもう一口飲んでから言った。

「陛下の話って何? 聖女が殺されたって?」


 ウォロはため息をついた。


 ミーア帝国の皇宮の神殿には古代の王国の聖女伝説があるそうだ。

 古代、聖なる力を持つ女性が現れることが度々あり、聖女として人々の治療や健康のために働いていたのだと。

 ただ、だんだんと崇められていたはずの聖女への信仰が、ありがたいものから、力がある者が助けるのは当たり前だという風潮になり、おかしくなっていったのだという。

 戦争が起きると、聖女は兵士の治療にあたり、できて当たり前、できないと虐げられるような存在にまでなった時代すらあったそうだ。


 最後の聖女と言われている伝説の聖女がいたが、その人はあの場所で聖なる力を使い果たし、疲れ切っているところをさらに治療を求められ、できないと断るとその患者の家族に殺されたのだそうだ。


 それ以来、聖魔法は禁忌になった。

 持っていると不幸になる。

 死ぬまで働かされ、最後は憎まれて殺される。

 持っていても内緒にするべきもの。


 ミーア帝国の代になり聖女の制度はなくなった。

 その後、たぶん聖女の力とされたのは聖魔法という珍しい魔法のスキルのひとつであることなどがわかったのが、ウォルフライト王国と親交を深めた先代の皇帝の時だったのだと。


 聖女という特別なものではなく、魔法使いのスキルのひとつ。

 魔法なので使い過ぎれば魔力切れを起こすし、回復するまで待たねばならない。


 先代の皇帝は少しずつ準備を整え、聖女という形ではない魔法使いによる治療院というものを考えていたという。

 ただひとりだけの聖魔法持ちが現れても最後の聖女と同じようなことになってしまうかもしれない。

 

 そうか、だからダーゼンのこともまだ時期が……と思って守っていたのかもしれないな。


 そして今の皇帝はそれをもう少し進めたというわけだ。

 聖魔法の正しい知識。魔法としての技術。そして、きちんと管理されたシステム。


 患者も聖魔法を使用する者も守らなくてはいけないルールを決めてから、と。


 ところがそんなことを知らない私が通りすがりの子どもの怪我を治してしまったものだから……。


 マッちゃんの時代にも聖女っていたのかな?

 

 あれ、マッちゃん?


 マッちゃんからの返事がない。


「ウォロ、マッちゃんが返事しない」

「少しそっとしておいてやれ。

 ネモが寝ている時、少し話をしたんだが……。

 その最後の聖女がマッちゃんの恋人だったそうだよ。

 一緒に逃げようと言ったのだが、彼女の意思であの治療院に残ったそうだ。

 あの場所に行って、ネモとマリアが一生懸命治療しているのを見て、昔のことを鮮明に思い出したと」


 マッちゃんがただひとり本当に心から愛した女性ってその聖女だったのかな。

読んで下さりありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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