90 転がる狙い(前)
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
すでにカルタロフ伯爵が手配され追われるようになったことから、ランスの被害は闇魔法の攻撃を受けたことだけ報告し、その日のうちに映像は中和して消すことになった。
カトレア先生に消してもらって、ウォロが助手をしたそう。
カトレア先生だけで消せたそうで、ウォロは見ないで済んで良かった。
まあ、頭の中の映像は消せても記憶は消えないから……。
ランスはどうぞ記憶を葬り去ってください。
誰も聞くなよ!!
エドワードのお風呂の時と違って、何人かランスが私の代わりに精神的な攻撃(でもさ、私には攻撃でもランスには攻撃になるのか?)を受けたことは知っているので、ランスに聞かないでよ! と祈るばかり。
孤児院のシスターにカルタロフ伯爵が魔道具を渡したのが1年ほど前ということで、その頃多く立ち寄っていた場所として……。
ジュンとミクラの家、ミーア帝国大使館……を調べてもらったところ、大使館の方にヒット!
大使館のメイドのひとりが身につけていたのがブレスレットの魔道具だった。
シスターのとほぼ同じ。
学校以外にも種蒔きというか、いつか必要になるかもと当てのない準備をしていたということだ……。
カルタロフ伯爵の『その前にもう一度ミーア帝国の皇子にきっちり警告をしておかないとね』という言葉通り、学校や私達の周囲に蒔かれていた種は、ミーア帝国を狙うものだったのだ。
ただ、もう伯爵は逃亡の身。
魔道具も見つかり撤去されたので、何か仕掛けてくることもできない。
計画が杜撰だよね。何をしたかったんだろう?
こちらに直接手を出さなければもうしばらくは自由に動き回れていたのに。
レイモンドとアルテイシアの方からばれるのも時間の問題と思ったのか……。
学校でレイモンドとアルテイシアは警備局と学校から話を聞かれたが、父が魔道具を作っていたことはとうとう言わなかった。
アルテイシアはともかく、レイモンドは知っていると思うけどなー。
カルタロフ伯爵家はそのまま王家預かりとなった。
ふたりは学校を辞めさせられることなく、外部にはほとんど知られずにこの話は終わらせられた。
レイモンドが学校を卒業したら伯爵の家名を継ぐという方向で話が進んでいるそう。
聖魔法持ちなのは私やランスの証言で判明したけれど、謎の魔道具職人がカルタロフという証拠はまだない。
ミーア帝国に恨みがあるとはいえ、なんでウォロと私を狙ったんだろう?
たまたま手の届くところ、ウォルフライト王国にいるミーア帝国皇子だからか?
学校にミーア帝国からの留学制度が始まり、それに皇子も来たから、自分の時は叶えてもらえなかった気持ちが抑えきれなくなり直接的な行動に出たとか?
でも、もう息子と娘もいるんだし、守るべきものがあるのに。
それだけではないものが……。
そういえば、レイモンドとアルテイシアの母親ってどんな人?
もう亡くなっているからかほとんど情報がなかった。まあ、王国に来てから結婚したんだろうから、でも名前は書いてあった気がする。
もう一度読み直してみると、直接的に記述はないが情報を時系列に整理してみると、名前はマオユウ、レイモンドが5歳、アルテイシアが3歳の時に亡くなっているらしい。
マオユウ、様か……。
ミーアっぽい名前だな。
「ウォロ、マオユウ様って言われて、何か気がついたり、思い当たることある?」
「マオユウ? 何か聞いたことのある気が……。それが?」
「レイモンドとアルテイシアの母親の名前なの。資料には名前だけで、家名とかなくて。
王国の令嬢なら家名まで載るよね?
ミーアではそこまで調べられなかったとか? ミーアっぽい名前じゃない?」
オードリーにも聞いてみよう。
わからないがダイゴに手紙を出すので、そのことも書いて聞いておいてくれるという。
7月に入って剣術大会があった。
今回は先生が魔法と剣を使った技を見せてくれるそう。だから、私に試合の声はかからなかった。
ちょっとバタバタしていたし、練習も休んだりということがあったので良かったかも……。
だから、今回は近くで見られず、観客席から応援する。
1年 VS 2年
ウォロが補欠。エドワード、ティエルノ、ミカが全勝!
2年 VS 3年
エドワードとウォロが入れかわり、ウォロとティエルノが勝ち、ミカが優勢勝ちで全勝!
ここまででエドワードとウォロが1戦ずつ。ティエルノとミカが2戦したことになる。
今回は体力を温存する作戦なんだよね。
4年 VS 5年
予想通り5年が全勝。
最後の決勝が2年 VS 5年 となった。
決勝戦の前に先生方のデモンストレーションというか、真剣を使って魔法攻撃を見せてもらった。
私達の剣術の先生が炎の魔法を長剣に纏わせ、相対した先生(4属性魔法で教えてもらったことのあるユリアン先生)が風魔法を長剣に纏わせた。
炎を防御壁を風魔法の剣で斬って、そのまま風魔法の力でその隙間を押し広げたり、物理的に切りつけることで魔法通しをぶつけあって消滅させるのと同じ効果を狙ったり。
また剣を振ると魔法が発動して、剣の攻撃範囲に炎や風の渦が展開したり……。
けっこういろんなことができるな。
ちゃんとできれば防御壁もあんなに斬れるんだ。
ズール戦(ライト相手だったけど)でぶっつけでやったのは、本当に無謀だったな……。
全然なっていなかったんだ。そりゃ、ウォロにあんだけ怒られたわけだ。
今更ながら自分の無謀さに笑うしかない。
決勝戦 2年はエドワード、ティエルノ、ウォロの順番。
5年はアポロ、ユーリ(5-3寮で刀)、アンドレアス。
エドワードとアポロ、どちらも長剣。
今回、エドワードは試合数を抑えて体力を温存している。
お互いこれが2戦目だけど、アポロの方が4年相手に時間いっぱい戦って優勢勝ちだったので、エドワードの方が試合時間も短く(1年に即圧勝したから)、アポロより長い時間休めている。
この作戦がうまくいって、アポロと引き分けることができた。
こちらのメンバーでティエルノが唯一3戦目となる。ミカは2戦したけど、決勝には出ないからね。
ティエルノと対戦するユーリは刀使い。
ミカと同じなのだ。
ティエルノは変則的な剣術に対応できるようにミカとけっこう練習したんだよね。
だから、刀の剣術についてもけっこう詳しくなっていて。
しかも、ミカの方が剣捌きは速い。
相手の攻撃を防ぎ、落ち着いてこちらからの攻撃を打ち込み、優勢勝ちとなった。
なんと去年と逆パターン!
2年の方が有利だ!
ウォロが引き分けでも優勝!
優勢勝ちを取られたら、決定戦をもう1戦! という感じ。
でもアンドレアスは強いからなあ。
去年は2年の方が勝たないと優勝できない状況(優勢勝ちじゃダメ)で、ウォロがめちゃくちゃ頑張ってアンドレアスを場外に押し出して勝ったんだよね。
『ネモ、ウォロが勝ったら何してくれる? と言っておるぞ』
えっ?
そんなご褒美とか考えずに頑張ってよ。
『頑張れって』
間髪入れずに『言うこときくのは? と言っておる』
あー、もったいなくて使えない権利の2個目取りに来たか……。
うーん、何言われるかわかんないのが怖いんだよね、それ。
何でもというわけにはいかないので、勝ったら相談ということで……。
『なんでもというのは無理だけど、勝ったら相談に応じるそうじゃ』
ウォロが首を傾げてから、こっちを見て頷いた。
納得したのか?
ランスが「よっ!」と言いながら私達のところにきて、私と目が合うと真っ赤になる……。
あー、あれは(と言っても私は見ていない)作られた映像だし、もう忘れようとしてるんだから、そっちも早く忘れて!
記憶を葬り去れ~!!
オードリーが私とランスの間に入ってきた。
「ウォロに余計な心配かける作戦?!」
「あ、確かに、俺がネモのそばにいたら、ウォロ、気が気じゃないかもな!」
「わかってるなら早く離れて!!」
「わかったよ。ライトの隣に行くから」
私と一番反対側にいたライトの向こう側に行ってくれた。
ウォロがこちらを見て笑ったのがわかった。
私は大きく手を振った。
アンドレアス、本当に強いんだよな。
ふたりとも同じく2戦目。アンドレアスの方が少し休む時間が短かったぐらいしか差がない。
最後の試合が始まった。
アンドレアスは最終学年の試合だし、去年ウォロに負けてるし、雪辱を狙ってるだろう。
ウォロはアンドレアスの強さを認めているからこそ、挑戦者の気持ちで、去年のことは考えずに挑んで欲しい。
お互いに譲らず、真っ向勝負の打ち合いで1歩も下がらない。
エドワードもティエルノもミカも、大声を上げて応援をしているのが見える。
頑張って、ウォロ!!
時間後半になり、ふたりともかなりきつそう。
こうなるとウォロより木剣の振り方が大きいアンドレアスの方が不利かも。
ウォロは振りがコンパクトで速いんだよね。
アンドレアスの攻撃を受けつつ、身体を捻りいなす姿が見られた。
自分の体力を残しつつ、相手に使わせようとしているみたい。
ラスト30秒!
ウォロが攻撃に転じた。
アンドレアスが初めて後退した。
そのまま攻撃の手を緩めず、押していく。
時間終了!
優勢勝ちだ!!
やったー!! ウォロ、優勝だよ!!
選手の4人で大喜びして、何とミカをウォロが肩車した。
おいおい、元気だな……。
そのまま表彰式になり、私達はたくさん拍手した。
こちらに戻ってきた選手達を「おめでとう!!」と迎える。
ミカが一番に「やったよ!」と抱きついてきて、ウォロが後ろで『あ?!』という顔をしていた。
私が「頑張ったね!」とよしよしする。
ミカはすぐ「ありがとう」と離れた。
すぐにウォロが抱きついてきた。
「すごくカッコ良かったよ」
私は持っていたタオルで汗を拭いてあげようとしたら両手を掴まれて「すぐ相談したい」と囁かれた。
「……祝勝会もあるでしょ?」
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




