84 皇女の息子
悪役令嬢や聖女が登場している話をたくさん読んで楽しくなり、自分でも書いてみたくなって挑戦しています。
ゆっくり書き進めていますのでお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
現皇帝の姉にあたる、その時の第1皇女サシャ様がカルタロフ伯爵の母親だった。
ということは、ウォロと従兄弟になるのか?
ミーア帝国に外交官補佐として来ていた当時のカルタロフ伯爵と恋に落ち、結婚せずに息子を産んでいた。
しかも、皇女の妊娠がわかった時点でカルタロフ伯爵は王国に戻されていた。
なんで結婚させてもらえなかったんだろう?
伯爵はまだ若く独身だったそうだし。
まあ、婚約、結婚の順番とかはすっ飛ばしちゃってるけど……。
これはミーア帝国の皇太子決めが関係していると思うとウォロが説明してくれた。
皇子皇女である兄弟姉妹が全員皇太子になる可能性があるのだそうだ。
発表のタイミングは皇帝陛下が決めるそうだが、それまで未来の皇帝としての資質があるかどうか見極められているのだという。
もうサシャ様は選ばれることはないだろうが、まだ正式な皇太子が決まっていない段階で可能性がある者を他国に降嫁や身分を剥奪ということになれば、その後にトラブルになることも予想される。
本人はその気はなくても周囲に担がれ利用されることもあるだろう。
王宮の中のひとつの宮を与えられ、実質軟禁状態というような感じだったのだろうということだ。
サシャ様は息子ダーゼン(現カルタロフ伯爵ね)とひっそりと暮らしていたよう。
父である皇帝に息子の教育をお願いし、家庭教師を派遣してもらっていた記録があるそう。
また、息子の魔法の才能に気がついて、魔法を学ばせてもらえるように、できたら父方の王国の魔法学校へ行かせてもらえないかと相談していた記録もあった。
ただ、前皇帝はあまり魔法の研究に熱心ではなかったそうで……、その願いはすべて退けられてしまったようだ。
そんな中、次の皇太子に第4皇子だったジョイ(アクアマリン・ジョイ・ミーア。ウォロの父)が選ばれた。
その時、すでにダーゼンは10歳。
皇太子は魔法の研究に熱心であったので、サシャ様とダーゼンは期待していたみたい。
でも、すぐにはふたりの願いはかなわず……。
サシャ様が病気で亡くなったのがダーゼン15歳の時。
その同じ年に現皇帝が即位している。
もうダーゼン的にはウォルフライト王国の魔法学校への入学もできない年齢になってしまっていたし、母も亡くし、もう希望が持てない状況だったんだろう……。
現皇帝から魔法使いや魔道具職人を家庭教師としてつけてもらえる機会があったのだが、何故か断っている。
すでにその時、闇職人達と関係があり、独学を始めていたのだろうと推察できた。
18歳の時に前カルタロフ伯爵が亡くなり、その忘れ形見としてダーゼンを引き取り、育て、王国の伯爵位を継がせたいと祖父母からの願い出があったそうで……。
ウォルフライト王国に来ることになったが、魔法属性の検査はそこから拒否をしているみたい。
たぶんミーアの闇職人のつながりで検査を受けていて、自分の魔法属性や聖魔法まで持っていることは把握していたのだろう。
ミーア帝国の未来の皇帝のために軟禁状態に置かれ、母と自分のささやかな願いすらも聞いてくれず、類まれな魔法の力も認めてくれず、潰そうとした……。
ミーア帝国に恨みがあるというのはそういうことなのだろう。
ウォルフライト王国にも何かしら思うところがあるのかもしれない。
ウォルフライト王国に行ってからはミーア帝国出身ということは周囲に隠しているようだし。
結局、独学で身につけた知識と技術をミーア帝国への復讐に使っているのだろうか?!
息子と娘は自分の様にならないように魔法学校へ入れた。
レイモンドとアルテイシアはミーア帝国のことを嫌っているかのような話をしながら、興味はあるみたいなんだよね。
家族にだけは、自分がミーア帝国の皇室の血を引いていることを話していたのかもしれない。
アルテイシアはミーア帝国に親近感があるようなミーア呼びしているし、ウォロにも興味を持っているみたいだし。
従兄弟の子だとなんになるんだ?
親戚になるが結婚もできるんだそう……。
うーん……。
ああ、ちゃんとサシャ様を結婚させてあげて王国に来ちゃってれば、こんなこじれなかったのに……。
ん?
ということは、ウォロも皇太子になる可能性があるということ?!
第3皇子だし、全然関係ないと思っていたのに!!
「ウォロ……。皇太子にウォロが選ばれる可能性もあるの?」
「まあ、今のところ6分の1だけどね。自分としてはダイゴがいいんだけど」
んー、ダイゴはダイゴでウォロがいいとか思ってそうだな……。
とりあえず、このことを学校のみんなにどうやって説明するか話し合うために、大使館のウォロの部屋に来た。
「先生方にはこのまま伝えるにしても……。みんなにはどうしようか?」
「別にこのまま伝えても大丈夫じゃない?」
「えっ、ミーアにも王国にとってもあまりいい話じゃない気がするんだけど……」
「もうそういうことも十分理解できる年頃だと思うけど。
ネモ、同年代のことちょっと幼く見すぎじゃないか?」
「……そうかなあ。セレナとかライトとかミカとか。守りたくなる。かわいいじゃん」
「ライトとミカにそれ言ったらダメだ。あっちはネモを守りたいと思ってるからな」
「そうだね。うん、気をつける」
「気をつけるといえば、ランス、何かしてきてない?」
「ランス?
あー、ランスは剣術の代表じゃないからボランティアの方けっこうやってくれて、オードリーやライトも一緒にその話をしたりするくらいかな?
絵本一緒に読みたいから、幼児部に一緒に入ろうと言われてるくらい……。オードリーも一緒だよ!」
「ふーん。まあ、気をつけてよ。ネモ、そういうの鈍いから……」
「鈍い……、まあ言い返せないけどね」
私がえへへと笑うと抱きしめられて座っていたベッドに転がった。
「ここでなら甘えてくれてもいいのに、甘えてくれないし……」
「そういう気持ちの時じゃないと……」
少し強引にキスされた。
「じゃあ、今、そういう気持ちになって……、いや、させるから」
またキスされる。
なんだかぼーっとする。気持ちいい……。
「ネモ、かわいい……」
ウォロがキスしながら、ぎゅっと抱きしめてくる。
すごく気持ちいいのにせつなくなる。
私も腕をウォロの背中に回しぎゅっと抱きついた。
ちょっと驚いたようにウォロの動きが止まって「ネモ、名前呼んで」と囁かれた。
「ウォロ、好き……」
またぎゅっと抱きしめてくれて、思わず大きく息をついてしまう。
「ネモ、苦しい?」
「ううん、大丈夫。気持ちいい……」
自分で自分の言ったことに恥ずかしくなり急に現実に引き戻された。
あ、もうやめないとだめだ。
私は腕の力を抜いて抱きつくのをやめた。
「ウォロ、もうやめよ……」
「離したくない……」
「ごめん、今日はここまで……」
目をしっかり開けてウォロと見つめ合った。ウォロが残念そうな顔をしているが仕方がない。
「うん、わかった。今日はここまで……」
ウォロが抱き起して座らせてくれた。
私はウォロに「言うこと聞いてくれて、ありがとう」と言った。
「そうだよ。言うこと聞かせる権利持ってるのは自分なのに、なんで……」
ウォロがぶつぶつ言っている。
「だから、ごめんて!」
「……まあ、いいか。気持ち良かったんだな?!」
「うっ、まあ、はい。……気持ちいいと思いました」
私が真っ赤になってそう返事するとウォロはうれしそうだった。
◇ ◇ ◇
学校に帰ってから、カトレア先生とギーマ先生とクラウス先生には連絡して、3人集まってもらったところで報告した。
カルタロフ伯爵とミーア帝国との関係に驚いていた。
「なるほどね。自分の魔法の才能を認めなかったミーア帝国に魔法で復讐してたってことね。
恋人であった父と引裂かれた母親のことも思っているのかもね……。
でもね、ネモ、あなたにしたことを許すことはないからね。あれは犯罪だから」
「はい……。それとこれとは別ってことですね」
「みんなにはどう報告しようかと……」
「そうね……。アルテイシアに対して変な先入観がない方がいいと思うけれど……」
そうか……。もう少しウォロと相談しよう。
次の日の放課後、体力作りで2-1寮の前に集まっていると(選抜メンバー+ダリルと私)、ランスが来た。
「俺も走ろうかな」
「5年の選抜メンバーじゃないでしょ?」
「ネモもそうでしょ?」
「そうだけど、また試合組まされるかもだし……。選手の試合の相手くらいはできるし」
「ボランティアの話をしたかったんだけど」
「オードリーとライトとセレナが寮にいるから、どうぞ話してきて!」
「俺はネモと話したいんだけど」
「じゃあ、走ってきたら寮に行くから。先に話しててよ」
ミカがそばに来て「ネモとそんなに一緒にいたいなら、ランスも走ればいい」と言った。
「あっそ! ミカもそういうこと言うんだ。じゃあ、走ってやろうじゃん!」
「ついて来られるならな」
ミカの言葉に仲良しのふたりなのになんかバチバチしてますけど……。
ティエルノがそばに来て言った。
「ミカって面白いよな。なんか周りにあまり興味さなさそうで、でもよく見てんのな。
今だって、ネモが困ってるの見て、自分の方にランスの興味や視線を持って行ったもんな。すげえよ」
そうなんだ。ミカ、すごいんだね。
私は昨日、ウォロにミカがかわいいと言って注意されたことを思い出した。
うん、その通りだ。
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