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黎明のアヴィオン - 第13調査大隊航海記  作者: 新井 狛
第三章 アステロイドベルト
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第15話 アステロイドベルト遭遇戦 ph5 不死鳥は二度死ぬ ①

 管制司令室の一画に存在する、パイロットの顔がずらりと並んだモニタは、明暗入り混じるまだら模様と貸していた。


「ヘルヴォルC(チャーリー)-03バイタルサイン消失!」

「カドリガE(エコー)-02バイタルサイン消失!」

回収機(ワルキューレ)、手が回ってません!」

「……っ、イージスを行かせろ!」

「イージスも……全機救助活動中で……っ!」


 甲高い電子音と怒号が混ざり合う。涙を零しながら状況をを報告する若い女性オペレータの頭を、「オペレータが今泣くんじゃねぇ!」とベテランオペレータが引っ叩いた。


異機種編隊(コンポジット)、左翼の応援に回れ! 最後のカドリガ小隊も出撃させろ、……ええいフェイルノートはどうなっている!?」

「フェイルノート、未だ主砲機能せず! 不具合箇所は特定したとのことで、現在整備班が対応中!」


 シキシマが握る指令用マイクが、みしりと音を立てる。それと同時にまた一つ電子音が鳴り響き、管制指令室に動揺の色が強いどよめきが広がった。


「が……ガーゴイルB(ブラボー)-01、バイタルサイン消失! 機体信号も消失しています! 敵旗艦の主砲に巻き込まれた模様!」


 ギルバートの顔写真から彩度が消える。シキシマは目を見開いた。


「なんだと!? ギルバートだぞ、主砲に巻き込まれて死ぬような男か!? 僚機は!」

「ガーゴイルB(ブラボー)-02はバイタル、機体信号共に健在です! ガーゴイルB(ブラボー)-02、応答してください! ヘイデン、ヘイデン・ロックウェル上等兵、応答を!」

『こちら……ガーゴイル、B(ブラボー)-02……。KIAです、ギルバートさんが……!』


 涙に濡れるその声に、管制指令室に悲嘆の呻きが広がっていく。ギルバートは第13調査大隊に3人いるエースパイロットの一人だ。その一角が墜ちた。

 隣に人の気配が立つ。黒髪の幼馴染は、いつもと変わらず軽薄な笑みを浮かべたまま、シキシマの肩に手を置いた。

 シキシマは息を吸い、腹の中に重く凝ったものを吐き出すつもりでゆっくりと息を吐く。マイクのボタンを握った。


「……ヘイデン、一度戻れ」

(アイ)……コピー……』

「——オペレータ各位。このことはなるべく前線には伝えるな。いいな」


 * * *


 被害は甚大だった。断続的に鳴る撃墜アラームは、もはや鹵獲機(キャプチャー)なのか味方機なのかも判然としない。


『応援要請です。左翼側に移動します!』

了解(コピー)! 補給に寄らせてくれ」


 フライトコンソールのインジケータの残電力を見て、ユウは重い息を吐く。操縦と攻撃を両方操作すると残電力管理が疎かになりがちで、陽電子砲を2発撃てずに補給を受ける羽目になることも多かった。

 ちらりと尾翼の欠けたアルテミスを見る。敵味方共に次々と撃墜される中、異機種編隊(コンポジット)の仲間たちはまだ一人も欠けることなく戦闘を続けていた。クピドの技量と、ハイドラの()()()の弾数に随分と助けられている。

 

 補給を受けて応援に向かう。そこかしこにアヴィオンとアザトゥスの残骸が漂っていた。普段なら即座に回収されるはずだが、戦死者を運ぶ者(ワルキューレ)の姿はない。

 ひしゃげたキャノピーに張り付いて、その中に潜り込もうとするかのように蠢いている肉塊をなんとかしてやりたかったが、どうすることも出来ずにただ目を背けて通り過ぎた。「……クソ」とコンラートが血が滲むような声を零す。


 中型以上の敵はほとんどいなかったが、鹵獲機(キャプチャー)の取り巻きの小型がとにかく多かった。味方機を追って群れを成す小型に陽電子砲を叩き込む。ハーメルンが撒き餌を散らし、無数の目がぎょろりと動いた。標的を変えた群れから生体針が次々と撃ち出されるのを、カドリガが扇状レーザーで薙ぎ払う。勢いづいて飛び込んで来た肉塊の鼻先で、ミサイルが弾けた。


「コンラート、逆側!」

『クソ、きりがねぇぜこいつらはよぉ!』


 アルテミスの後方から一塊になった肉塊が迫る。ユウはトリガを引いた。2発目の陽電子砲がそれらをまとめて吹き飛ばす。その向こうから、ぴたりとアルテミスの背に狙いをつけた鹵獲機(キャプチャー)の薄青く輝く砲門が姿を現した。

 

「マズ――——!!」


 撃ち落とすには射角が足りない。力一杯操縦桿を引いたがとても間に合わなかった。紫電の閃光が迸る。

 ふわりと少女の声が耳をかすめた。


『——間に合いましたね』

『……クピド?』


 消し飛んだのは鹵獲機(キャプチャー)だった。向こうでハーメルンと共に戦っているはずのカドリガの姿に、コンラートが訝る声を上げる。

 通信機の向こうで、少女はくすりと笑った。


管制室(フリプライ)、こちらカドリガ(デルタ)-01、フライトリーダーのBat13-13です。異機種編隊(コンポジット)と合流しました。指示を』

『ミラ!?』

『はい、コンラートさん。貴方の奇跡(ミラ)がきました。——一度では、奇跡を名乗る資格なんてありませんから』


 通信機越しに、微笑む少女の顔が見えるようだった。食肉が育つ培養槽の前で、自我を取り戻した、と言ったクピドの言葉を思い出す。微笑ましさと安堵が混ざり合って、ユウはへにゃりと表情を崩した。そこへシキシマの声が流れ込む。


異機種編隊(コンポジット)とカドリガD(デルタ)は合流したな。各位に通達。作戦変更だ、これより打って出るぞ!』

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