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黎明のアヴィオン - 第13調査大隊航海記  作者: 新井 狛
第二章 複製の天使と悪竜の落し子
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第12話 ノクティス迷宮探査戦 - Phase 4:苗床 ①

 切り札(陽電子砲)を自分の手で台無し(無駄撃ち)にして絶望に叩き込まれたユウは、そのあとに起きた奇跡のような光景を呆然自失とした様子で見ていた。

 どうしようもないと思っていた絶望は、守るべき相手と見ていた少年の手によってあっけなく覆されていく。敵を避け続けている相棒(シエロ)が、攻撃を再三求めている声は、耳の上を滑って脳まで届いてこなかった。


異機種編隊コンポジットE(エコー)、こちら管制室(フリプライ)。応答してください――』


 巨大な蛸が肉屑へと変わると同時にインカムに通信が雪崩れ込むのを聞いて、ようやく頭が動き出す。


「……っ、こちら異機種編隊コンポジットE(エコー)-01、ユウです! 捜索隊A(アルファ)を発見、至急応援を願います!」


 慌ててそれに応じれば、シエロの冷ややかな声が耳と心を突き刺した。


「……正気を取り戻したようデ何よりです」


 繰り返しケイと調()()を繰り返したシエロは、随分と声の扱いが上手くなったようだ。冷ややかなその声には呆れと仄かな軽蔑が、チョコレートムースのように丁寧にミックスされていた。


 * * *  


『——なるほど』


 一通りの状況報告を受けたシキシマは、苦いものを含ませた声で呟いた。通信障害、QPの損害に新たな特殊個体と、反物質砲ペニテンシアの運用。それだけの問題を積み上げておいて、肝心の捜索対象は未だ発見できていない。さぞ頭が痛いに違いなかった。


『その蛸状個体を撃破直後に通信が回復したところを見るに、通信障害の原因はそいつだったと思っていいだろう』


 崖上の穴から広場に降りてきたヤタガラスの中で、ナギがくすくすと笑う。


『ライナスの予想、大当たりじゃん? やるうー』

『ひとっつも嬉しくねぇんだよなあ……』


 シキシマ以上に苦いものを含ませた声で応じながら、ライナスも慎重な動作でイージスを谷底へ降ろした。その向こうでは、回収機(ワルキューレ)がヘイムダルを抱え込んで上空へと向かっているのが見える。アルゴノートは現在、谷の上にいるようだった。


『現在、アルゴノートと火星基地間の通信も途絶えている。砂嵐の影響かと思っていたが、蛸状個体同様に通信障害の原因となっている個体がいる可能性も高い。交戦を前提に慎重に捜索を続けてくれ。現場指揮は引き続きユウに——』

「替えてくださイ」


 異機種編隊(コンポジット)のフライトリーダーであるユウを再び現場指揮に据えようとしたシキシマの声を、ぴしゃりとシエロが遮った。ユウは何も言えずに、くしゃくしゃに歪めた表情でシエロの箱から目を逸らす。


「彼には経験値が足りナすぎます。地上戦の経験のある方にお願いしたイ」

『……君は経験があるのでは?』

「私に指揮を預ける気でスか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 イントネーションが滑らかになったシエロの音声に僅かに含まれた棘に気付いて、シキシマは黙り込んだ。短い沈黙が満ちる。わずかな逡巡の後、シキシマが短く『——分かった』と答えるのを聞いて、ユウの肩がびくりと震えた。


『火星での地上戦に限って言うなら、一番経験値が高いのはクピド、ハイドラ両名になるわけだが――いやダメだ。ケイ、お前が現場指揮を執れ』

『うぇ!? 僕ですかぁ?』


 唐突に降ってわいた任命アサインに、ケイが悲鳴じみた声を上げる。


『この先の構造から考えて、今回は後方から俯瞰して指揮を執るのが望ましいだろう。アンカーの狙撃砲は射程も長いしな。劣化ヴェネクス弾は何発撃ってもいいぞ。今回の費用負担は全額第二研究所が持つことになっている』


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