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黎明のアヴィオン - 第13調査大隊航海記  作者: 新井 狛
最終章 黎明のアヴィオン
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第8話 次元孔絶行戦 - Phase 4 : ヒロイックで劇的な死に方 ②

『あははははは! 七面鳥撃ちだ(ターキーシュート)!!』


 ヤタガラスがくるくると舞いながら、次々と敵を撃破していく。ユウたちのブラボー隊があらたに配置されたのは、フェイルノートの航跡から敵がこぼれ落ちてくる一角だ。再び核探知(コアスキャン)圏内での戦闘になり、数は多いものの戦闘はぐっと楽になっていた。


『七面鳥ったってあんまり数が多けりゃつつき殺されるんじゃねぇのかなぁ!?』


 舷側砲が穿った肉の合間に覗く核にミサイルを無駄なく叩き込みながら、コンラートが泣き言を言う。


「つつき殺される前に抜けられる事を祈ろう。あともうひとふんばりだよ」


 出口のラインはもう目と鼻の先にまで迫ってきていた。機体外部の高精細カメラが、水面に飛び込むようにして現れるアザトゥスの姿を捉え始める。それと同時に、怒りと高揚を色濃く滲ませたシキシマの声が回線を駆け巡った。


『これより最終離脱フェーズに入る! 全隊帰艦せよ! コアスキャンを30カウント維持の後停止。多少取りつかれても構わん、以降の迎撃は全て舷側砲に任せろ! 帰艦リミットは120カウントだ。急げ!』

『ちぇー。もう終わりか』


 ちょうど補給を終えて戻ってきたナギが、つまらなそうな声を出した。いつもシミュレータを終える時、おかわりを求める少し前と同じ調子の声にユウは小さく苦笑する。


「ダメだよ、今日は延長戦はナシ」

『わかってまーすー。しゃーない帰るぜブラボー、殿(しんがり)はミラに――』


 名残惜しそうなナギの声が、ふっと途絶える。それに疑を唱えるものは、誰もいなかった。回線にカウントダウンの自動音声だけが刻まれる。

 呼吸を必要としない身体に酸素を送り込もうと脳がバグを起こし、息を吸い込めない事に思考が混濁した。キャノピの向こう側で、フェイルノートが崩壊しながら半分に分かたれる。肚の内から内臓をこぼすように、肉塊があふれ出した。それらは尽きぬ食欲が満たされぬままに、次の食卓へと真っ直ぐに進路を取る。

 張り付いてしまったような腕を無理やり動かして、何とか機首を翻す。もう一瞬の猶予も残されてはいなかった。スラスタを吹かそうとして、ナギのヤタガラスだけが機首を群がる肉の群れに向けたままなことに気付く。

 

「ナギ!!」

「――延長戦だ。行ってくるよ。じゃあな」


 ヤタガラスのスラスタが火を吹いた。旗艦の、帰べき先と逆側への向きで。向かいくる白銀に、ナギが七面鳥と呼んだ愚鈍な肉塊たちが喜び勇んで群がった。それらを切り裂くように白光が閃く。

 ユウは黙ってスラスタを踏み込んだ。拡張視界(オーグメント)には後方カメラの映像が映し出され続けている。コンラートの慌てたような声と共に、アルテミスが追い掛けてきた。


『お、おい! 一人で行かせていいのかよ!』

「――あれを連れて戻ったら、全滅だ」

『フェイルノートだけじゃなくアイツまで囮にするってか!? それならコピーの俺が……!』

「無理だよコンラート。アレはナギじゃなきゃ――無理だ」

『…………畜生!!』

 

 進路上を塞ぐ肉塊を消し飛ばす。スラスタは目一杯。トップスピードに乗っても、仮想体(アバター)は加速度を感じない。自分でも驚くほど凪いだ感情の上に、ナギのひそやかな声が滑り込んだ。


『なぁギル、見てるんだろ。誰もがヒロイックで劇的な死に方を出来るわけじゃない、だっけ? ボクの死に様を見せてやるよ』


 この場にいる誰に向けられたものでもない、そのナギの言葉の言わんとするところがユウにはよく分からなかった。だが、ナギにあれを対処して戻って来る気がないのだけは分かった。

 帰艦口が近付く。機体の後方に追いすがってくる肉塊たちが、舷側砲で串刺しにされていく。旗艦の舳先が、水に沈み込むように次元の狭間に首を突っ込むと同時にユウのガーゴイルは帰艦口に飛び込んだ。カウントダウンが最後の時を刻む。

 ナギの動きを捉え続けている後方視界の中で、白銀が肉の渦に飲み込まれていくのが見えた。瞬間、僚機通信のイコライザが跳ねる。ひどいノイズまじりの通信越しに、ナギは綺麗に凪いだ声で、少しだけ笑って言った。


「なぁ、ユウ。次こそボクを、殺してくれよ」




次回の更新は10/24です。

それではまた、次回。

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