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黎明のアヴィオン - 第13調査大隊航海記  作者: 新井 狛
最終章 黎明のアヴィオン
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第8話 次元孔絶行戦 - Phase 4 : ヒロイックで劇的な死に方 ①

 狂ったように鳴り続ける警告音(アラート)に重なって、甲高い電子音が管制指令室に響き渡った。サブパネルに並んだ顔写真の、表情の乏しい少女の明度が落ちる。立て続けに電子音が鳴り響いた。二つ、三つとパネルの輝度が消えていく。


「デルタ・ツーからフォーまで、バイタルサイン消失!」


 警告音(アラート)に負けじと張り上げられたオペレーターの声は、震えるように濁っていた。デルタは、左舷の対処に当たらせていたエンジェルズたちの隊である。

 戦女神(イシュタル)の分身たる少女達が、まとめて三人死んだ。その事実は、この勢いを保ったままの進撃は無謀に過ぎるという現実を、何よりも雄弁に語った。


「——ッ、減速用意! 全隊、旗艦との相対速度を保て! 逆推進機構(リバーススラスタ)稼働カウントダウ——」


 険しい表情のシキシマが減速の指示を出しかけた時、立体投影図を食い入るように見つめていたアサクラがハッとしたよう叫ぶ。


「待ってノブ、駆逐艦の様子がおかしい!」

「ブラボー、エコー、駆逐艦(フェイルノート)左舷を離れてこちらに向かっています。駆逐艦(フェイルノート)損傷拡大、通信途絶!」

「奴ら何をしてるんだ!? レナードに繋げ!」

「は、はいっ!」


 シキシマは険しい表情のまま、立体投影図に視線を落とした。駆逐艦(フェイルノート)左舷にて敵を押し留めていたブラボーとエコーが離れたせいで、舷側砲で対処しきれなかったであろう個体が何体も張り付いているのが見える。

 思わずぎり、と奥歯を噛みした時、異様なほどまでに平静なレナードからの通信が入った。


『こちらエコー・ワン』

「レナード! 何故持ち場を離れた!」

『エッジレイの提案に乗ったからですよ、艦長。フェイルノートが道を拓きます。我々は"出口"へ』

「私はそんな事許可していないぞ!」

『ええ、そうでしょうよ。だからエッジレイの奴は勝手におっ始めたんです。もう状況は不可逆的に動いてんだ。俺等に出来んのは連中の犠牲を無駄にしねぇ事だけだろうがよ』


 * * * 


「あーあ。格好つけるから」


 通信が途絶えたフェイルノート艦橋で、共に戦況モニタを見上げていた副官はそう言って頭の後ろで手を組んだ。離れていくエースパイロット達の二小隊を視線で追いながら、わざとらしい盛大な溜息を吐き出す。

 エッジレイは悪戯っぽく微笑んで、自分よりやや細身の副官のほうへ振り返った。


「何を言う。一世一代の格好の付け所だろうが」


 くすくすとオペレーターたちからも笑いがこぼれる。なんだお前たち揃いも揃って、と鼻に皺を寄せてから、エッジレイは帽子を取って肩を竦めた。


「やれやれ、これから死のうってのに。どいつもこいつも気楽な顔しやがって」


 警告音(アラート)が艦橋を満たし、エッジレイの横顔を明滅する赤色灯の光がまだらの赤に染め上げる。


「どの口が仰るんです、艦長?」


 同じくまだらの赤に染まった副官の視線の先を辿って自分の口元に触れる。思ったより緩んでいる気がした。


「艦長、もともと"卵"の時に死ぬ気だったでしょ。寿命、延びてよかったっスね」


 副官の目の奥に自分と同じ感情が凝っているのを見て取って、エッジレイは笑みを深くする。


「——ああ」


 長く、短い戦争だった。戦略モニタに示された"出口"のラインを見上げる。それは蹂躙され続けてきた人類が、ようやく辿り着いた敵の喉笛だ。何としても届かせなければならない。そのひとかみの牙足り得るのならば、折れたとて本望だった。

 エッジレイは帽子を深く被り直すと、一度目を閉じて、それから開いた。ぐっと拡張した瞳孔の中で、最期の生命の焔が燃えさかる。


「メインスラスタ全開! 我々は囮だ、派手に踊

るぞ! 主砲、副砲、すべての砲門が焼き付くまで撃ち尽くせ!!」


 * * * 


 駆逐艦(フェイルノート)旗艦(フェニックス)との相対速度固定を解いた。メインスラスタの青い輝きが強くなる。すべての砲門から放たれる圧縮レーザーの光が、より一層の激しさを増した。

 フェイルノートの舳先が徐々に前へと突出していく。肩を並べて弾幕を張ることで必死に維持されていた均衡は、それまでの努力を嘲笑(わら)うようにあっけなく崩壊した。

 誘うようにその身を晒したフェイルノートに、無数のアザトゥスが群がる。絶え間なく吐き出され続ける主砲と舷側砲がそれを消し飛ばせば、崩壊した肉塊が艦の周りに漂い、それがまた肉の化け物を呼ぶ撒き餌となった。


「……こんなの、あんまりじゃ……」


 広範囲走査(クロスリンク)を展開しているツェツィーリヤは、レーダーが拾い上げるその光景を、あまさずその緑の双眸に叩き込まされていた。鮮明な映像ではなく点と線で編まれた情報じみたそれは、無機質に冷たく胸を締め上げる。

 目を背けてしまいたかったが、艦隊の目を背負っている今それは許されない。悍ましい肉たちが駆逐艦(フェイルノート)に群がる数に反比例するように、旗艦(フェニックス)に向かってくる数は減っていた。駆逐艦の防衛に当たっていた二小隊が戻ってきた事も手伝って、艦の横腹に取り付いた肉も剥がされつつある。


『泣き事言ってる場合か! 手ェ動かせ!』

「っ、分かってますわよ!」


 ユリウスに怒鳴られて、ツェツィーリヤは検出した敵影に照準補助をつける作業を再開した。せめてフェイルノートの主砲が少しでも多く、敵を巻き込めるように計算して配置していく。

 祈りにも似たそれを、紫電の閃光が貫いて道を切り開く。ヘルメットのバイザーにオーバレイされているインタフェース群の向こうに透けて見えるフェイルノートの姿は、その勇壮な姿を徐々に失いつつあった。だが鈍色の金属の質感の大半を(うごめ)く肉の(いろ)に取って代わられつつも、スラスタの青い輝きは衰えない。まるで導きの火のようだった。

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