第13話 フロストアーク迎撃戦 − Phase2:アザトゥス母艦 ①
最前線の早期警戒機から送られてきたその映像に、フェニックスの管制司令室にもどよめきが走る。
「なんだ、これは……!?」
ダイモスで見た監視塔喰らいが可愛らしく見えるほどだった。オペレーターの一人がおずおずと「これはさすがに縮尺ミスなのでは……?」と尋ねてくるが、羽虫のような小ささでその周りを飛ぶ肉塊の群れが見間違いなどではないということを突きつけてくる。
シキシマは手袋をはめた手で、自らの顎を揉み込むように掴んで眉根を寄せた。シキシマの足元に座り込んでラップトップを叩いていたアサクラが、ちらりと司令室正面のモニターに目をやって投げやりに言う。
「あーらら。これノックスアークの悲劇とか言ってる場合じゃないんじゃないのぉ? いやぁ新記録新記録」
「茶化してる場合か」
「あのねぇ。僕らが眉間に皴刻んでムズカシー顔しててもしょーがないでしょうが。うーん、猶予は3時間くらいってとこかなぁ」
何の猶予か、とはシキシマは問わなかった。オペレーターに最大戦速の準備を指示して、パイロットの顔写真が並ぶサブモニターに目を走らせる。地球を発った時にそこに並んでいたメンバーの半数以上が既に別の隊員に入れ替わっていた。小惑星帯戦以降に正規パイロットに繰り上がった若いパイロットたちのバイタルデータはおおむね緊張状態を示している。彼らの緊張が、シキシマの肩に責任となって圧し掛かった。眉間の皴を揉んでほぐして、相変わらずせっせとラップトップを叩いているアサクラに問いかける。
「どう出る」
アサクラは顔も上げずに、面倒臭そうに手を振った。
「今回の作戦総指揮はあのカスティーリャ少将閣下でしょー、任せときなよ。今回は僕らお手伝いなんだからさ、ホラ変にしゃしゃんないで指示を待つ」
「この規模だぞ、そんな悠長に構えて――」
『全艦、最大戦速で前進せよ! 目標、仮称アザトゥス母艦! あの馬鹿でかいやつを主砲の射程に入れるまで前線を押し上げろ!』
シキシマの声を遮るように、カスティーリャの声がスピーカーを震わせる。アサクラがほらね、と言わんばかりに肩を竦めた。
シキシマはぐっと唇を引き結んで帽子をかぶり直す。オペレーターたちが息を詰めて艦長の指示を待っていた。レーダー上で土星圏の所属艦たちが次々と動き始めるのをぐっと睨みつけて、声を張り上げた。
「第二水素反応炉の出力を最大まで上げろ! 舷側砲台全基起動、リソースを使い切るつもりで迎撃に当たれ! これより最大戦速で突っ切るぞ! 異機種編隊、それからガーゴイルとカドリガのアルファチームを護衛に出撃させろ!」
「あーあ、こりゃ終わったらまた補給だね」
ラップトップの画面上で始まった何かのシミュレーションに目を落としながら、アサクラが退屈そうに欠伸を漏らした。その頭に拳を落として、シキシマはラップトップを覗き込む。
「分析はどうだ、何かわかったか」
「デカいねぇ。以上」
「キリヤ!」
「あーもうやめてよね、こんなに遠くちゃ大して何もわかりゃしないよ。画像解析で分かることなんてたかが知れてるっての。絞り尽くしたレモンをこれ以上絞ってる暇なんてないんですけどぉ」
ゲンコツを落とされた頭をさすりながら、アサクラはぶつぶつと文句を言った。相変わらず視線はラップトップに落としたままで、高速で流れるログを時折止めては反転して目を通すことを繰り返している。
「……何をやってるんだ?」
「んー。仕込み切れなかった手札のダメ押し確認をちょっと」
シミュレーション画面は点と線の簡易表示で、何をしているのかシキシマにはさっぱり分からなかった。無駄話をしている暇はないとすっぱり頭を切り替えて、背後に控えているツェツィーリヤを振り返る。
「ツェツィーリヤ君、補給部隊の組み換えを頼む。爆撃機の補給を厚めにしておいてくれ」
「はい、先ほど指示を出しておりますわ」
若干血の気の失せた、それでもきりりと引き締めた顔でツェツィーリヤは答えた。シキシマは僅かに表情を緩ませる。
「……ふ。流石だな。大佐殿にも見習っていただきたいものだが」
「僕がやってるのだって仕事なんですけどぉー。嫌味言ってる暇に仕事したまえよ、中佐」
階級で嫌味を投げ合ってから、幼馴染の二人はそれぞれの仕事に意識を戻す。艦の速度を示す数値が、サブモニターの端で猛然とカウントアップを始めた。




