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黎明のアヴィオン - 第13調査大隊航海記  作者: 新井 狛
第五章 土星の環でワルツを
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第6話 採氷衛星フロストアーク ②

 艦の横腹から、銀の機体が次々と吐き出されていく。


『よぉ、大将』

「コンラート」


 ユウのガーゴイルの隣に、アルテミスが並んだ。QPたちの乗るカドリガを引き連れたコンラートは、1名が他小隊へ異動となったカドリガD(デルタ)のフライトリーダーを務めている。


「俺はぺーぺーだよ、大将はそっちだろ。フライトリーダー就任おめでとう」

『ミラさんのほうが操縦上手いのでは?』


 自嘲気味なユウとコンラートの会話を、笑みを含んだシエロの声が混ぜっ返した。コンラートが小さく唸る。


『クソッ、腕と信頼で席を勝ち取ったフライトリーダー様の言葉が重すぎる。いいかシエロ、たぶん俺は人生経験とかを買われてんの! 悲しくなるからそういうコトにしといて!』

『はい。信頼してます、コンラートさん。ねえさま、よろしくお願いします』

『はいはい、よろしくねミラ』

『さあ、仕事だぜ』


 コンラートの声にスイッチが入った。下部に見える円盤の端を飛び越え、肉と銀の機体が交錯する戦場へと飛び込む。


『ミサイルぶち込むぞ! ミラ、ロゼ、アナ、撃ち漏らしは任せた!』

『『はいっ』』


 補給線に向かって逃げる、アヴィオンよりも少し線の細い機体を追いかける肉塊の鼻先でミサイルが弾けて熱と炎を振りまいた。爆発で吹き飛ばされた肉の奥に蠢く核を、真白(ましろ)の光が串刺しにする。


撃墜(スプラーッシュ)! いーやっほぅ!!』

『いえーい』


 楽しげなコンラートの声に、冷静な少女たちの熱のない、でもどこか楽しげな声が応えた。一体は撃破したものの、追っ手は尽きてはいない。肉のはざまから追い縋るように無数の()を伸ばして迫る、後続の一体に向けて陽電子砲をチャージしながらユウが怒鳴った。

 

「バカ、はしゃいでる場合か!」

『そのための後衛(わたしたち)でしょう!』

 

 紫電の閃光が後続をまとめて吹き飛ばす。射線を逸れてそれを逃れた小さな個体を、シエロが念入りに始末して回った。白銀の機体の合間に、生命の灯火が消えた肉の欠片が散乱する。


『ありがとう、助かった!』


 ざらつく音質の近距離無線越しに、知らない声が礼を述べた。少し鼻に掛かったような声は高く、女性のようにも少年のようにも聞こえる。


『こちら防衛軍第13調査隊、加勢するぜ! まずは補給線までエスコートだ』


 調子づいた声のコンラートが応えて、アルテミスが機首を翻した。後を追う新型宙域戦闘機(スター・チルドレン)の小隊の後ろを守るようにユウたちの異機種編隊(コンポジット)も続く。


『随分と数が多かったようですが、前線の戦況は厳しいのですか?』

『ああー……それは……』


 幾分か深刻そうな声音で尋ねたシエロに、スター・チルドレンのパイロットは若干気まずそうに言い淀んだ。


『実はフロストアークの砲塔に処理させてから補給線に戻ろうとしてたところで……。いやでもホントに助かったんだ、未登録の有人機が近くにいると自動迎撃じゃ撃ってくれないからさ』


 しん、と回線の会話が止まる。ややあって、ユウが苦笑いしながらぽつりとこぼした。


「……つまりはマッチポンプだったのでは?」

『加勢するぜ! って派手に吹かしたコンラートさん、ご感想を』

『いや知らねーだろがよそんな仕様はよ!! あーそうだよ、今すげぇはっずいけど!!」

『ちょーさたいサンは悪くないですよー。援護がまわってくるって通信入ってたのに惰性でいつもどーりこっちに来たたいちょーがわるい』


 やいやいと茶化されて羞恥にまみれた声でがなるコンラートに、抑揚の薄い、これまた少し高い声がフォローを入れた。隊長と呼ばれた最初の声がくわっと噛みつく。


『うっせーマックスだまってろ!』

『補給おっつかなくて引っ張って来てたのは事実なんでー。援護たすかりますー』


 マックスと呼ばれた声は、隊長を無視して淡々と礼を述べた。間延びしたそのイントネーションに毒気を抜かれたようにコンラートが『お、おう』と呟いた。

 見慣れない補給機が視界に現れ、シエロが尋ねる。


『そちらの補給線でアヴィオンの補給はできます?』

『あー、ごめん俺らが今向かってるのはスター・チルドレン用の補給線だから』

『たいちょー、バッテリーモジュールは非互換だけど火炎放射器の燃料とミサイルの規格は同じだよー』


 答えかけた隊長の声に、のんびりとした声が被さる。隊長はう、と少し言葉に詰まってから、しおしおと告げた。


『だ、そうです……』

「あ、ありがとね……。アルテミスとカドリガは補給させてもらおっか」


 兵装が電力メインのユウはそう言ってレーダーを睨んだ。味方の補給機(イドゥン)はまだ後方だ。それんなユウの行動を見透かしたかのように、マックスがのんびりと声をかけた。


『この先にアヴィオン用の補給線もあるので、僕がごあんないしますよー。たいちょーは先にもどっててね』

『え』

『マックス。隊長はキミがいないとしおしおだからみんなでいこ』

『え、前線大丈夫かなー』

『援護いっぱいきてたよ。大丈夫だと思う』


 妙に和気あいあいとした雰囲気のスター・チルドレンたちに連れられて補給を済ませ、前線に向かう。


『ちょっとデカいのが来ててさ。取り巻きも多いんだけどもうあらかた片付いたから――』


 ちょうど光の当たらない場所にいたそれの巨大さに、調査隊の面々は近付くまで気付かなかった。コンラートが緊張を滲ませた声で言う。


『なぁ。俺、レーダーマーカーはサイズに応じて変えたほうがいいと思う』

「……同感だ」


 ダイモスで見た巨体よりは少しだけ控えめのサイズのそれに、応じるユウの声にも緊張が滲んだ。駆逐艦の砲に食い荒らされたであろうその肉塊は半ば崩壊しかけてはいるが、崩れかけた肉の合間からは中型サイズのアザトゥスが未だに吐き出され続けている。


『それじゃまた、あとでー』


 アヴィオンより細身の機体がきらりと爆炎に身を輝かせて身を翻した。その滑らかであまりにも早い機動にユウは目を剥く。稲妻のような軌跡を描いて中型に接近したスター・チルドレンたちが、次々と紫電の閃光でそれらを撃ち抜いていく。まるで小型を相手取っているかのような動きに加えて、その弾数も2発に留まらないようだった。


「これ、援護(俺たち)いる……?」

『バカなコト言ってないで。数は多いんだから手は幾つあってもいいんです。さっさと済ませましょう』


 呆然と呟いたユウを呆れた声で鼓舞してから、肉と光の飛び交う戦場に飛び込んだシエロの後を、ユウは慌てて追いかけた。

木星圏からずっと引っ張っていたスター・チルドレンがようやく登場です。

土星圏の防衛は防衛軍と企業の合同部隊で行われており、スター・チルドレンは企業側の部隊です。

防衛軍には未だにアヴィオンが配備されているので、アヴィオン用の補給線もあるのでした。


次回の更新は1/17です。

それではまた、次回。

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