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黎明のアヴィオン - 第13調査大隊航海記  作者: 新井 狛
第五章 土星の環でワルツを
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第3話 配置転換 ①

「外出申請? ああ、悪いが諦めてくれ。3日後には出立だし、やることは山積みだ」


 外出申請を提出した翌日、シキシマに呼び出されていそいそと艦長室に顔を出したユウとシエロに、忙しい様子の艦長は無慈悲に告げた。


「ではご要件は……てっきり外出のついでに用事を頼まれるものとばかり」

「悪い、少し待ってくれ」


 シキシマは眉間に皺を寄せてモニタを睨みつけながら、軽く掌で制して話を遮る。執務机の前に立った二人は、所在なさげに顔を見合わせた。


「……すまない、待たせたな」


 ややあって顔を上げた艦長の声に、拡張視界(オーグメント)内で密かにチェスに興じていた二人はパッとアプリケーションを落として居住まいを正す。シキシマは執務机の前に立つユウとシエロの姿を交互に見たあと、こう切り出した。


「ユウ、お前とシエロのバディを解消することにした」

「え……」

「安心しろ、ユウ。シエロを何処かへやるといった類の話ではない。HSUへの監視目的でのお前の搭乗はおしまいという話だ」


 動揺した様子のユウに対して、シエロは落ち着いた様子で尋ねた。


「信頼していただいた、ということで良いのですか」

「そうだ。今までの扱いに対する非礼を詫びたい」

「当然の対処でしょう。むしろ(ハナ)から信頼されている方が怖いですよ」


 義体の表情システムが完璧な微笑みを出力する。シキシマは少し肩の力が抜けた様子で眉を下げた。


「そう言ってくれると有り難い。アステロイドベルト戦でも、先日のカリプソーへの潜入作戦でも、君は仲間を救うために奔走してくれた。こちらは常に疑いを拭いきれずにいて、恐らく君はそれを知っていたにも関わらず。君の行動は我々の信頼に値する。これからも尽力してくれると有り難い」

「当然です。私は()()()()()()()()()のですから」


 ユウはそっと相棒(シエロ)の横顔を盗み見る。ここから離れた格納庫の中にある黒い箱に沈められた脳に、電波を介して繋がっているシエロの表情は穏やかだった。()()()()というその言葉には、相変わらず一切の疑念を感じさせない。


「君たちの二人乗り(タンデム)は解消だが、フライトバディとして引き続き共に飛んでもらう。異機種編隊(コンポジット)の第一編隊は君たちが務めることになる。フライトリーダーはシエロだ」

「拝命します」


 シエロはやや芝居がかった仕草で頭を下げた。フライトリーダーを降ろされたユウは、少しほっとしたような表情を作りながら、はたと首を傾げた。


「俺とシエロが第一編隊なら、コンラートはどうなるんです?」

「エンジェルズの隊に欠員が出ている。カドリガD(デルタ)――まぁつまりはミラだな、コンラートは彼女のフライトバディに入ってもらう」


 シエロは眉をひそめた。


「Type-QPシリーズと人間の混成部隊はおすすめできませんが……」

「だからだよ。コンラートならミラが犠牲になることを許さないし、ミラも今ならそれをきちんと理解しているはずだ。……まあつまりは他に組ませるアテがない」


 ユウは黙って俯く。アステロイド戦では何人ものパイロットが犠牲になった。ダイモスとアステロイドベルトでの戦いを経て、地球を出立した時に各機に割り当てられていた正規のパイロットはおおよそ半分程度に減り、現在は控えの若く実戦経験の浅いパイロット達がその穴を埋めている。戦女神(イシュタル)の分身たる天使の(エンジェルズ・)欠片(フラグメント)たちが端数になったからと遊ばせておく余裕はないのだろう。


 ユウは一度深呼吸して、気持ちを切り替える。考えたいことはたくさんあるが、今考えるべきは別のことだった。


「俺は何に乗るんですか?」

「木星基地から移管された攻撃機(ガーゴイル)を一機、お前に回す。HSUはガーゴイルの改造機だ。乗り換えもスムーズだろう」


 ユウは頷く。シミュレータではいつも操作感の似ているガーゴイルを使っていたので有り難かった。


「お前のガーゴイルだが、テッさんから今日中に調整が終わると聞いている。シミュレータ訓練からは一旦外れて残りの3日間は実機の調整に回れ。戦闘班長(レナード)には私から伝えておく」


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