ガリ勉陰キャメガネくんと、頭ピンク恋愛脳ちゃん
連載中の作品の箸休めに、深夜テンションで書いた作品です。
コメディ強めなので、楽しんでいただけると嬉しいです!
僕、日光学は、ガリ勉陰キャ高校生だった。
特に親しい友人もおらず、教室では、いつも一人で勉強をしている。
そんな僕が……
「つ、付き合ってくださいっ!」
クラスメイトの女子に、告白された。
告白してきたのは、同じクラスの、恋塚愛子さんだった。
しかし、これはどうしたことだろう。
はっきり言って、僕と彼女は、クラスが同じだということくらいしか、接点がない。
彼女がどんな性格なのかも知らないし、いったいなぜ、僕にあんなことを言ったのかは謎だ。
……いや。
学年でもトップの成績を誇るこの僕に、解けない謎はない。
僕は、メガネをクイっとあげると、脳をフル稼働させ、彼女が僕に声をかけてきた理由について考察した。
「なるほど、なるほど。そういうことか」
「な、なるほど……?」
僕は、導き出した答えを、彼女に伝える。
「つまりそれは、勉強に付き合って、ということか」
「へ?」
「たしか恋塚さん。僕の記憶が正しければ、君は、あまり勉強が得意ではなかったよね?」
「う、うん。前回の中間テストも、赤点ギリギリで……」
「だから、成績優秀な僕に、勉強を教えてもらいたい、ということなのだろう?」
「……え、いや、あの」
どうだ? この僕の、完璧な推理は。
恋塚さんは、ポカンとしていた。
ふふふ、完璧に心中を言い当てられ、声も出ないと言ったところか。
そう。ガリ勉陰キャの僕が、女子にモテるなんてことはあり得ない。
となると、よってきた女子には、何かしら別の目的があるということになる。
そして、僕の強みといえば、勉強。
これらから導き出される答えは、彼女は、俺に勉強に付き合って欲しい、ということだったのだ。
Q.E.D. 証明終了。
◇
私、恋塚愛子は、今日、日光くんに告白した。
誰もいない放課後の教室に、日光くんを呼び出し、自分の思いを伝えた。
私は、日光くんのことが、ずっと前から好きだったのだ。
だから今日、勇気を出して、彼に思いを伝えたと言うのに……
(どうして、こうなっちゃったの!?)
私は今、自分の席に座らされ、日光くんに勉強を教えてもらっていた。
うう……告白に成功したら、今日の放課後は、日光くんと一緒に、デートしようとか考えてたのに、なんだって、嫌いな勉強なんて、しないといけないのよぉ……。
(で、でも……)
私は、周囲を見渡した。
教室には、私と日光くんの他には、誰もいない。
放課後の教室。男女。二人きり。
ち、ちょっと待って。
これって、ひょっとして、何か”間違い”が起きてしまうシチュエーションなのでは!??
まさか日光くん、こういう展開になることを見越して、ここで二人で勉強をしようと言い出したというの!?
ということは、もしかして私、今日ここで、しちゃうの?
大人の階段、登っちゃうの!?
私は、両手でパタパタと顔を仰いだ。
「恋塚さん、どうかした?」
「う、うううん。なんでもないわ」
ど、どうしよう。
心臓がバクバクしてきたわ。
これじゃ、心臓の鼓動が、日光くんに聞こえちゃう……!
「そうだ、恋塚さん」
「ひ、ひゃいっ!!」
唐突に、日光くんに声をかけられたものだから、思わず声が裏返ってしまった。
「先に言っておくけど、僕は結構、厳しいよ?」
「き、厳しいの?」
「うん。遠慮なく、バシバシしごいていくからね」
”遠慮なく、バシバシしごいていく”……?
ま、まさか……日光くんって、ドSだったの!?
知らなかったわ……けど、そんな日光くんも、ちょっといいかも……
って、ちがうっ!
い、言わないと。
そういうことは、もっと仲を深めてからじゃないとダメだ、って!
「どうしたの? 恋塚さん。さあ、まずは問題を解いて」
「ひゃいっ!!」
だめだぁ! 言えない!
というか、心のどこかで、期待しちゃってる私もいる。
なら、いっそ、覚悟を決める?
今日ここで、あの日光くんと、大人になる覚悟を……。
ああ、だめ!
そのことを考えると、なんだか体が火照ってきて、急に頭が回らなくなってきた。
「ふふふ」
な、なに!?
日光くんが笑っているわ。
「この僕には、今、恋塚さんが考えていることが、手に取るようにわかるよ」
「――っ!!!???」
えっ?
日光くんに、私の考え、全部バレちゃってるの!?
ひょっとして私、めちゃくちゃ顔に出てた!?
だとしたら、超恥ずかしいわ。
か、確認しないと……!
「ど、どうして、わかったの?」
「ああ、実はこの問題、僕も去年、同じ間違いをしたからね」
え?
”この問題、僕も去年、同じ間違いをした”……?
ちょっと待ってよ。
それって……
日光くん、まさかの、経験済みだったのっ!!?
ど、どおりで、こんなに余裕なはずだわ!
どうしよう。
私は、初めてだから、なにも分からないのに……。
あまりにも動揺して、持っていた鉛筆も、落としてしまったわ。
とにかく、ここは今のうちに、私は未経験だってことを、伝えといた方がいいわね。
「あ、あのっ! 日光くん!!」
「うん? どうしたの? 恋塚さん」
「私、実は、初めてなので……や、やさしくしてくださいっ!」
「初めて……?」
い、言っちゃったわ。
ううう、心臓の音がうるさい……。
ちらっと、日光くんを見る。
だ、大丈夫よね??
私が処女だって知って、引かれてないわよね!??
◇
どうも、恋塚さんの様子がおかしい。
なぜだか、僕の言葉にいちいち過剰に反応してくるし、問題を進める手も、全然進んでいない。
それに、さっきの”初めて”とは、いったいどう言う意味だろう。
まさか、高校2年生にもなって、こんな中学レベルの問題を初めて見た、なんてこともないだろう。
だって、もしそうなら、どうやってこの高校に入ったんだって話だし……。
いや、待てよ?
さっき恋塚さんは、鉛筆を落としていたよな……?
そうか、そう言うことか!!
恋塚さんは、鉛筆転がしを使って、運だけでこの高校に入ったんだ。
そして、これまでのテストも、運だけで乗り切ってきた。
だから、中学レベルの問題も分からないんだ。
しかし、だとすると、恋塚さんの学力は、僕が想像していたよりも、かなり低いという事になる。
そんな彼女に、僕は、勉強を教えることができるのか……?
……いや、できるかどうかじゃない。
やるんだ。
恋塚さんは、僕を頼ってくれた。
僕は、その期待に応えてあげたい。
ようし。こうなったら、徹底的に、やってやる。
そのためにも、まずは、彼女の勉強スタイルを知る必要があるな。
「恋塚さん」
「ひ、ひゃいっ!!」
「休日は、どんなことをしているの?」
◇
休日は、何をしているのか?
どうして、そんなことを聞くのかしら。
それに、なんだか日光くんの表情が、真剣だわ。
も、もしかして、私がどこまで、そういうことの知識があるのかを確認しているのかしら?
ひょっとして私、失望されてる?
い、いけないわ。
ここでそういう知識が何もないってことを知られたら、日光くんに嫌われてしまうかもしれない!
ちゃんと、知識はあるんだぞ、ってことをアピールしないと!
「……ち、ちゃんと……」
「ちゃんと?」
「……ちゃんと、そういうビデオを見たりして、勉強はしてるわよっ!」
◇
ビデオを見て勉強、だって?
そうか。恋塚さん、近年台頭してきた『映像授業』を活用して、自主的に勉強をしているのか。
なかなか偉いじゃないか!
しかし恋塚さん、今の君に、映像授業は危ないよ。
映像授業は、たしかに便利なものだ。
家でも簡単に授業を受けられるし、一時停止や巻き戻しなどを使って、自分のペースで、より詳しく勉強をすることができる。
しかし一方で、あくまで自主的に行う必要があるため、かなりの集中力がないと、続かない。
それに、恋塚さんのレベルだと、分からないことがあった時に、その原因を探ることが、極めて難しいだろう。
そして、何より危険なのは、映像を見ているだけで、勉強をした気になってしまう危険性があることだ。
『見る』という行為は、一見ちゃんと勉強しているようで、実はほとんど身についていない。
ちゃんと、自分の手を動かして、実際に文字に書いたりしなければ、なかなか身に着けるのは難しいのだ。
そのことを、恋塚さんは、ちゃんと理解できているのだろうか?
「恋塚さん」
「ひ、ひゃいっ!!」
「それは、見ているだけか?」
「え?」
「ちゃんと、自分の手は動かしているのか?」
「……なっ!!???」
◇
な、ななななな、なにを聞いてくるの!? 日光くん!
自分で手を動かしているのか、って……。
それって、つまり、いわゆる、お……お……
って、言えるわけないじゃない!!
ま、まさか、これは、いわゆる言葉責め?
ひょっとして、もう、そういうプレイが始まっているというの?
お、おおおお、落ち着くのよ、私!
と、とにかく、聞かれたからには、何か、答えないと!
「あ、え、えっと」
「?」
「じ、自分では……あんまり、しないけど」
「それはいけないね。見てるだけじゃなく、自分からやってこそ、初めて身につくんだよ」
ひゃあああ〜! 背後から囁かれると、ゾクゾクしちゃうわっ!
と、というか、そうだったのね。
私実は、そもそも、そういうビデオすら見たことがなかったから、知らなかったわ。
あ、明日から、ちゃんと自分でも勉強しますので……
「あ、そうだ。もしよかったら、今から僕が、効果的なやり方を、教えてあげようか?」
「……え?」
ええええええええええええええ!!!!!?????
ちょ、ちょっと待って日光くん!
そ、それは、あまりにも、積極的すぎるわ!
そんなの……そんなの、ハレンチすぎるわよ!!!
「い、今からは、さ、さすがに……」
「大丈夫、簡単だから。ほら、まずは――」
「す、ストップ、ストップ! ちょっと待って!」
ごめんなさい、日光くん。
あなたとしては、こういうシチュエーションの方が興奮するのかもしれないけど、私は……私は、初めては、ちゃんと、綺麗なベッドの上でしたいタイプなの。
「あ、あの、ごめんなさい。こういうのは、まだ早いかなって……」
「こういうの?」
「だ、だから……こういうシチュエーションは、もうちょっと、先の方がいい、って、言うか……」
◇
こういう、シチュエーション?
ああ、数学の問題のことか。
僕は、あらためて教科書の問題を見てみる。
『太郎くんが分速1kmで歩いて家から20km離れた学校に向かって出発した。兄が出発してから5分後に母親が自転車に乗って分速2kmで兄を追いかけた。母は太郎くんに学校まで何mのところで追いつくか』
たしかに、これはまだちょっと、恋塚さんには早かったかもしれないな。
「ごめんごめん。たしかにこれは、応用編だ。まだちょっと、難しいよね」
「応用編……?」
◇
日光くん、教室でのプレイのこと、応用編って言っているの?
なんだか、ものすごく上級者だわ。
「じゃあ、もう少し先に進んだとこ、やってみようか」
「えっ、ええ!??」
私がまだ早いと思っているのを知って、日光くんは、さらに先に進もうとしているの?
やっぱり、日光くんはドSなんだわ!
どうしよう。私の心の準備は、まだ全然できてない!
「じゃあ、とりあえず……」
「えっ、ち、ちょっと待って! これ以上先に進んじゃうなんて、私、体が耐えられる気がしないわ!」
「え、ええ……そう?」
◇
教科書が進むと言っても、章が変わるだけだから、そこまで難しいとは思わないんだけど……。
いや。だめだよな。
簡単に相手のことをわかった気になっちゃ。
恋塚さんにとって、これは難しいんだもんな。
たしかに、これ以上先の問題をやるのは、精神的につらいかもしれない。
でも、だからって、逃げたばかりじゃいけない。
それじゃあ、いつまでたっても、勉強ができるようにはならないよ。
そのことを、ちゃんと言っておかないと。
「でもさ、恋塚さん」
「う、うん」
「今のうちから勉強しておくと、あとが楽だよ?」
「あと?」
「うん。大人になった時とかね」
「お、大人になった時……!??」
学校の勉強は、大人になってから使わないと思われがちだ。実際、常識的なこと以外は、ほとんど使わないと聞く。
しかし同時に、苦手なことにも向き合うという姿勢は、大人になってから大いに役に立つ、とも聞く。
僕はこの考え方に納得している。
だから、恋塚さん。
今は辛いかもしれないけど、今努力することができれば、きっと君の将来、役に立つはずなんだ。
「僕は、将来のことを考えて、言っているんだ」
「し、しししし、将来のこと!!???」
◇
ち、ちょっと待って!!
日光くん、将来のことまで考えてくれていたの!?
ごめんなさい。私が浅はかだったわ。
私はせいぜい、高校生の間付き合えたらいいな、くらいの認識だった。
でも日光くんは、将来の……つまり、結婚のことも視野に入れて、考えてくれていたのね!
そっか。
そうなんだ。
なら私も、日光くんの熱い思いに、応えたい!
それに、きっと日光くんの性癖を受け止められるのは、きっとこの世界で、私しかいない!
これは、運命なんだわ!
「日光くん」
「なに?」
「結婚しましょう!」
「へっ……? け、結婚!!!???」
◇
ちょっと待って。
え? 結婚? 聞き間違いじゃないよね?
「恋塚さん?」
「はい」
「今なんと?」
「私たち、結婚しましょう」
うん、聞き間違いじゃなかった。
「私ね、日光くんに教えてもらったの。もう、私の夫になってくれるのは、日光くんしかいないんだって」
なんで!?
ただ勉強を教えただけで、なんでそこまで言われるの!?
「あ、あの、恋塚さん? い、いったい、どういう心意気で……」
「あなたの厳しい教育を受け止められるのは、私しかいないと思ったのよ!」
そんなに厳しい教え方してた!?
ごめん、恋塚さんのことを思って、あえて厳しめにすると、最初に宣言はしたけども、結婚を迫られるレベルの厳しさだったの!?
……いや、結婚を迫られるレベルの厳しさってなに?
「あ、あの、お返事は……」
「う、うーん、えーっと……」
わからない。
でも、もしも恋塚さんに、こんな決断をさせた理由が、僕にあるとするならば。
僕は、その責任を背負わなければならない。
男として!
「……ふ、不束者ですが……お願い、します……」
「あ、ありがとうございます! よ、よろしくお願いします!」
僕は、差し出された恋塚さんの手を取った。
握った手は僕の手よりも熱く、ものすごく手汗をかいていた。
その後、一応すべての誤解は解けたのですが、でもやっぱり付き合うことになったそうです。
◇
最後までお読みくださり、ありがとうございます!
私事ですが、最近、深夜に漫画アプリでラブコメを読むのにハマっておりまして。
この作品も、それに影響を受けて書いたものなので、漫画っぽく視点がコロコロ変わってしまいました。
こういう書き方って、小説的にはどうなんですかね……?
その辺り、ご意見などくださると、嬉しいです!
また、面白い! と思ってくださった方も、気軽に、感想、評価などくださると、非常に嬉しいです!
何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m