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死体を蘇生したら美少女でした

迷宮の中を歩いていた。パーティは組まず、ソロでの探索だ。


普段のフリーな探索ではなく、ギルドからの依頼という形になっている。



「これは........酷い。蘇生魔法スキルでも難しいだろうな」



入ったのは、だだっ広い玄室。


俺の足元には、5人分の骨と灰が散らばっている。男だったのか女だったのかも、わからない。


S級冒険者が消息を絶つという異常事態が発生してから約4時間。


迷宮の入り口は一時封鎖。多数のA級冒険者が俺と同じく調査の為に投入されたが、あっという間に半数が消息を絶ってしまった。



「必ず蘇生寺院に連れていってやるからな。仇は取る!!」



大地を割るような、唸り声が響いた。昨日倒したサイクロプスの咆哮が、子犬の鳴き声に思えるようなすさまじい唸り声だ。



「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」



玄室の真ん中、ただ一匹だけで鎮座しているのは、金色に輝く鱗を持つ巨大なドラゴンだった。口元から漏れ出る灼熱の吐息は、エレナの得意とする炎の魔法スキルを上回っている。


モンスターの名は、グレーター・ドラゴン。特殊ボスモンスターであり、冒険者が最も恐れるモンスター。


迷宮最強の名を欲しいがままにし、金色の鱗はあらゆる攻撃を無効化する。魔法スキルも吸収して自身の生命力に変換してしまう。その討伐難易度ゆえに、倒すことができれば巨万の富と栄誉が得られるという。



「扉が消えたか。つーことは、お前を倒さないと出られないってことだな?」



背後にあった玄室の扉が消え、石壁になる。逃げ道はない。特殊ボスモンスターのいる玄室には、こういったギミックがある。雑魚モンスターが出ないかわりに、強力なボスを倒さないと出られないのだ。普段はスキルで探知して避けていたけど、調査の為に今回は敢えて入った。



(スキル連続発動。≪矢弾威力拡大LV.7≫ ≪怯ませ付与LV.10≫ ≪起爆矢装填LV.2≫ ≪竜殺し特性付与≫ ≪単独クリティカル倍化≫)


ふむ、こんなモノでいいだろうか。俺の持つ100のスキルのうち5つだけを展開したが、これで事足りる筈だ。


........徹夜して一生懸命スキルを覚えた日々が懐かしいな。



≪矢弾威力拡大LV.8≫で一本の矢で合計9回分の攻撃が可能になる。 


≪怯ませ付与≫で相手を100%怯ませ、 ≪起爆矢装填LV.2≫で2tの鉄塊ぐらいなら吹っ飛ばせる爆発魔法スキルを矢に付与する。 


≪竜殺し特性付与LV.4≫でドラゴンへの4倍特攻とブレスダメージ無効化状態も念のため張っておく。最後に発動した≪単独クリティカル倍化≫は、持っている弓の効果だ。



パーティメンバーがいない状態だと、クリティカルヒットで与えるダメージが増えるというもの。初めて使うから、どれくらい増えるか俺も知らない。


たとえ1.2倍でも、増えてくれれば御の字だ。



「こりゃまたすごいHPしてるなお前」



グレーター・ドラゴンの生命力を可視化する。途方もない程に長いHPバーが頭上に浮かんでいた。二段になったHPバーは、一本が異様なほどに長い。さっきやられたA級冒険者パーティの誰かから、魔法攻撃でも受けたのだろうか。


HPをスキルでさらに数値化してみると、80000を軽く超えていた。昨日倒したサイクロプスでもHPは20000前後。やはり特殊ボスモンスターは強力だな。



「グルルルルルルルルル......キシャァァァァァァァッ!!」



グレーター・ドラゴンが、ブレスを吐く態勢に入った。漏れ出ていた吐息は、大質量の劫火球となって放たれようとする。スキルでダメージ自体は無効化できるとはいえ、熱さは感じるから当たりたくない。


矢筒から矢を一本抜き取り、必中スキルと弱点必中スキルの指示に従う。何のことはない。必要なら立ち位置を変更し、指先に込める力を調整すれば絶対に当たる。



(軌道修正、風向き変更必要なし。狙い確定、弱点解析)



定まった。後は、放つだけ。


ヒュンッ! という風切り音と共に、放たれた矢がグレーター・ドラゴンに向かって一直線に向かっていく。瞬きをするよりも早く、ドォォォン!という轟音が響き渡った。


80000を超えていたHPバーが、ほんの一瞬で消し飛ぶ。



「嘘だろ?」



俺は、思わず呟いた。


巻きあがった噴煙がゆっくりと消えていく。グレーター・ドラゴンの姿はもうない。あるのはバラバラに砕け散ったグレーター・ドラゴンだったモノの残骸と、ドロップアイテム。いやいや、待ってくれよ嘘だろおい!?


ちょっと鱗を吹き飛ばして矢を9回分叩きこんだだけだぞ。長期戦になると思っていたのだが........?



「........えっ、本当に死んだ?」



戦闘ログを開いて確認する。一撃で倒せるなんておかしい。俺の持っている弓の攻撃ダメージは200。クリティカルは防御無視でダメージ2倍。


この時点で400。さらに9回分のダメージで3600。怯んだ相手には追加で2倍ダメージになり、7200。そこに爆発魔法スキルが加わって9400。特攻スキルで


やっと37600。どう考えたって一撃で倒せるものじゃない。



「ひゃくにじゅうまんさんぜんにひゃく!?」



なのに、戦闘ログで俺が叩き出したダメージは120万3200ダメージとなっていた。追加の32倍ダメージ、どこから来たんだよ。すごく怖いんだけど。



「まさか、弓の効果か? ≪単独クリティカル倍化≫ってもしかして」



手に握った弓を見る。A級に上がりたての頃にドロップした弓使いの専用装備。


デザインそのものは地味だし、攻撃威力そのものは低いが、握ったときの感触がいいので愛用していた。


パーティメンバーは最大で6人までというのが決まりだから、1人欠けるたびに2倍のダメージとなると仮定して........ソロ状態なら32倍になるということか! 


よかった、取られたのが金だけで。この弓まで返せって言われていたらヤバかった。



「いったん、ギルドに戻るか。........この5人を蘇生させないと」



骨までは持って帰れないので、できるだけ灰を集めて袋に入れた。灰からの蘇生となると失敗確率は大きいが、見て見ぬふりはできない。


ドロップアイテムの竜の骨や鱗も回収しておく。宝箱を開けてみると、ゴールドではなく黄金の弓が出てきた。弓の中心にはグレーター・ドラゴンを模した装飾もある。鑑定スキルで確認すると、純金で出来ているのが分かった。


デザインが成金趣味っぽくて気に入らない。



「とりあえず貰っとこうかな。換金すれば金になるだろ」





ギルドに戻ると、駐留していた冒険者たちや職員たちがざわつき出した。


そんなに俺って期待されてなかったのか。いい加減悲しくなるぞ。



「う、嘘だろ!? あの弓使いがグレーター・ドラゴンを倒したのか!?」



ん? あぁ、黄金の弓を見たから驚いているのか。正直言って俺も驚いてるよ。


グレーター・ドラゴンを倒したのに宝箱からドロップしたのがこんな悪趣味な弓だけだなんて。巨万の富が得られるんじゃないのかよ。



「やべぇよ、グレーター・ドラゴンを倒したんだ、1人で........」


「あ、あれだろ? グレーター・ドラゴンって、古代の魔王が直接生み出したっていう化け物!」



それは知らない。迷宮が古代の魔王を封じるために造られたものだとは知っているが、モンスターの裏話とか誕生経緯はよく知らない。弓で撃って殺せるとわかればそれでいいじゃないか。



「ひぃっ!? す、すいませんでしたぁ!」


「すいません、すいません! バカにしてすいません!!」



なんでそうなるんだよ。ちらっと俺が見ただけで、冒険者たちが散り散りになって逃げていく。グレーター・ドラゴンの強さは知っているけど、そこまでヤバいやつだったとは知らなかった。



「お、お帰りなさいませユウマ様」



ギルドの査定カウンターに、ドロップした素材を置く。鍛冶スキルは持っていないから、俺では素材の査定ができない



「どうも。ドロップアイテムの査定をお願いします。蘇生寺院に行ってくるんで」



「あわ、あわわわわわ!? ドラゴン種の素材!?」





「すみません、灰からの蘇生をお願いします」



蘇生寺院の扉を開いて、中に入る。蘇生師たちが忙しなく歩き回っては、回収された死体を蘇生させていた。全員が全員五体無事で蘇るわけではなく、すすり泣く声も聞こえてくる。



「灰からの蘇生ですね。そうなりますと、成功率は30%ですが、よろしいですか」



「お願いします」



袋から灰を出して、祭壇の上に載せる。俺にできるのは、祈ることだけだ。



「おっとその前に、代金をお願いします」



そうだった。蘇生寺院は前払い制。遺体と同等の量のゴールドが必要だ。


しかも、成功しようがするまいが、金を取られる。蘇生寺院の言い分では、失われた装備も戻てってくるから当然だろうとのこと。


目の前の蘇生師もがめつい顔で俺に手を差し出してくる。



「手持ちがないので、これでお願いします」



「こ、こ、これはぁ!? 伝説の弓、≪竜紋者の弓≫!? ほ、本当によろしいのですかっ!?」



蘇生師は俺に熱弁する。なんでも、この悪趣味な弓は魔王が自ら造り出したあらゆるドラゴン種を従えることができる伝説の弓だという。



「邪悪なる魔王イグニートは、かつて空を覆うドラゴンの群れを従え選ばれし勇者を迎え撃ったと伝わります」



そんな危険な弓、放置するわけにはいかない。悪用されたら大変なことになる。


俺は変換スキルを発動させて、弓を同重量の金塊に変えた。よし、これで危険が一つ去ったぞ。



「な、な、なにをするんですか貴方ぁぁぁぁぁぁぁ!?」



やかましい。伝説の弓とかなんとか関係ない。博物館やら王国に寄贈したとしても戦争の火種になりかねないんだ。こんなもの、無いほうがいい。



「いや、悪用されたら危険ですよ。 それよりも蘇生、お願いします」



「うぅぅぅ........き、貴重な古代遺物がっ........」



すすり泣きながら、蘇生師が蘇生魔法スキルを発動する。優しい光が灰を包んでいき、5人分の人の形が出来上がっていく。



「成功したのは、1人だけか.......」



しかし、残念なことに助かったのは1人だけ。4人は蘇生に失敗し、光の粒子となって消え去ってしまった。助かった命があったことを喜ぶには、失われた命が多すぎる。



「こ.......こ、は?」



「君は、確か」



蘇生した少女に、見覚えがあった。長く伸びた金色の髪は金糸のように滑らかで、小柄な体躯に合わない発育の良い体型。まだ開ききっていない両目から覗く、コバルト色の吸い込まれるような碧眼。


間違いない、俺が入れてくれと頼み、断わられた10組目のパーティを率いていた子だ。改めて装備を見ると、後衛職だということがわかる。



「あ、貴方は.......ユウマさん? もしかして、私を助けてくださったんですか......?」



「うぅぐすっ。そうですよ、名も知らぬ冒険者さん! そこの男性は、貴方を蘇らせるために貴重なものを金に換えやがったんです.......くそぅ、くそぅ」



蘇生師が皮肉を言う。少しムッと来た俺は、蘇生師に言い返す。



「貴重なものって.......命より貴重なものはないです。......すみません、貴女のパーティメンバーは、駄目でした。本当に、すみません」



そこで泣いている守銭奴の腕が悪いせいでな。これだから蘇生師は。


脳みそまで金塊でできてるんじゃないのか。



「ユ、ユウマさん......」



うるんだ瞳で、少女が俺を見る。頬も赤く染まっていく。どうしたんだろう、やっぱり怒ってるのかな。文句はお願いだから蘇生師に言ってくれ。



「私、シャルロッテと申します。ユウマさん、助けてくださって、ありがとうございます........」



少女の名は、シャルロッテと言った。年齢は17歳で、職業はレア職業の君主。後衛職の僧侶と前衛職の戦士の特徴を併せ持った職業だ。


基本的には後衛で祝福魔法を用いて援護し、必要とあらば前衛に出る。



「グレーター・ドラゴンに遭遇した時、魔法使いがパニックになって......でも、私が止めていたら、皆は........」



「そうじゃないよ、シャルロッテ」



俺は、泣き出したシャルロッテを思わず抱きしめていた。自分が悪いだなんて思わなくていい。


自分を責めても何も始まらない。そもそも、冒険者とはそういうものだ。


死と隣り合わせ、何の拍子で死んでもおかしくない。リーダーはあくまでリーダー。


冒険者の場合、自分の命に責任を持つのは自分自身だ。



「でも、でもっ........」



「今は泣いてもいい。泣き止んだらまた頑張るんだ。君は生きてるんだからさ」



シャルロッテは一瞬俺を涙でぐしゃぐしゃになった顔で見やると、俺にしがみついてきた。背中を擦り、泣き止むのを待つ。


シャルロッテが泣き止んだら、何か甘いものでも奢って元気づけようかな。



そう考えていると、蘇生寺院全体が激しく揺れだした。

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