追放後一日で皆死んだ件について
迷宮内のとある玄室。
石畳が敷かれたその空間には、モンスターの群れがひしめいていた。
数にして20体。群れの中で最も弱いモンスターでも、Aランク級の冒険者を歯牙にもかけない強さを持つ。
「エレナ!! 攻撃魔法スキルを準備しろ!! カインは敵誘因スキルでターゲッティング!! 前線は俺が切り開く!! エリザベッタは全員に祝福魔法スキルをっ!!」
......あ、あれっ?
おかしいな。他のパーティメンバーはリーダーのカイゼルからの指示を受けたのだが、俺には何もなかった。
俺は少し戸惑ったものの、弓使いとしての役目を果たすべく弓を引き絞って矢を放つ。
放たれた矢は、モンスターの群れのボス、サイクロプスに命中する。クリティカルヒット。
弱点である単眼を抑えて、身悶える。
「グォォォォォ!?」
耳をつんざくような雄叫びを上げると、サイクロプスは後退る。
それと共に、他のモンスターたちの動きも目に見えて鈍りだす。
迷宮に現れるモンスターは、群れで一つの命を共有していると言ってもいい。群れのボスを倒しさえすれば、一瞬で崩壊する。
その代わりボス以外の雑魚モンスターは無限に湧くから、どれだけ早くボスを倒せるかが鍵となる。
「誘因スキル発動ぉ!! ≪守護者の城塞≫!
雑魚は俺に惹きつけた! やれカイゼル!」
パーティのタンク役、戦士のカインが誘因スキルを発動する。強力な誘因スキルであると同時、城壁のように堅牢な防御力を使用者に与えるスキルだ。
もともと頑丈な肉体を持つカインには鬼に金棒。これで、雑魚の群れに煩わされずにボスを狙える。
「魔力充填完了! アタシも行くわよ! 魔法スキル多重発動!! ≪魔女の晩餐≫ ≪劫火竜の息吹≫!! 灰になりなさい雑魚ども!!」
カインに惹き寄せられたモンスターの群れに向かって、灼熱の劫火が撃ちだされる。
パーティの魔法攻撃の要を担う魔法使い、エレナの魔法スキルが発動したのだ。
肌を焼くような劫火の余波が、玄室内を包む。無差別にすべてを灰にする魔法だが、俺たちに被害はない。
「祝福魔法スキル発動。≪聖光の大結界≫。ふぅ......間に合いましたね。エレナさん、威力増幅魔法スキルを使うのはやりすぎです。抑えてください」
パーティの回復・支援を一手に担うのは、僧侶のエリザベッタ。
仲間を魔法攻撃から守る障壁が展開され、エレナの放つ魔法スキルはモンスターの群れだけを焼き尽くし、俺たちには何の被害も出ない。
僧侶であるエリザベッタに直接的な攻撃能力はないが、パーティには欠かせない存在だ。
「貰ったぞ、薄汚ぇデカブツがっ!! 剣戟スキル発動!! ≪英雄の凱旋撃≫!!」
雑魚モンスターが湧きだす前に、双刃を抜き放ってカイゼルが跳んだ。
剣士として持つ最強クラスの剣戟スキルが発動する。
神話や叙事詩の英雄のごとく高速の連撃が無限に繰り出されていく。
サイクロプスの頭の上に浮かぶHPバーもどんどん削れていった。
「負けてられないな。よぅし! うぉぉぉぉぉ! くらえっ!!」
気合を入れるために叫び、俺はカイゼルを援護するために続けて矢を放った。
弓使いである俺は、残念ながら皆のような派手な攻撃スキルや魔法スキルは持っていない。
戦場で役に立つようなスキルと言えば、生命力をHPとして可視化するスキルと、自動で発動する必中スキル、加えて弱点必中スキルくらいだ。
「グォォォォォォォァァ!!」
断末魔の叫びが玄室内に響き渡る。
そうこうしているうちに、ドスン! という大きな音と共にサイクロプスが倒れた。
こと切れる寸前、何度か痙攣すると、サイクロプスの死体が消えてドロップアイテムと宝箱が現れる。
「よし、ここからは俺の仕事だな。今罠を解除する。待っててくれ」
「いいや、ユウマ。もうお前の仕事はない」
いつも通り宝箱の罠を解除しようとした俺だが、カイゼルに手を掴まれてしまった。
「何言ってるんだよカイゼル。罠の解除をしないまま開ける気か?」
「そうじゃない。はっきり言ってやるぞユウマ。お前はもうパーティに必要ないんだ。エリザベッタ、やってくれ」
後衛にいたエリザベッタが前に出ると、宝箱に向かって手をかざす。
宝箱はあっさりと開き、中から大量の金貨やアイテムが溢れ出る。
「開きましたよ。では、そういうことですからユウマ。貴方がいなくとも、これからは僧侶の職業スキルで罠を解除できます。さようなら」
助けを求めるように俺はカインとエレナを見るが、二人の表情は冷ややかだった。
普段温厚で明るいカインも無表情で、エレナに至ってはニタニタとした嫌な笑みを浮かべて俺を見ている。
「お、おいおい、皆冗談きついぞ......。エリザベッタが罠解除スキルを覚えたからって追い出すのか俺を!?」
エレナが口を開く。
「別にそれだけじゃないないわよ? アンタって一匹ずつしか仕留められないじゃない。迷宮探索の常識は、高火力での短期決戦!! アンタみたいな器用貧乏、いても困るのよ!」
エレナの言葉に、カインは力強く頷く。全面的に同意だ、と言いたげに。
「うむ、うむ! 俺のような誘因スキルを使うこともできんしな。生命力の可視化、必中スキルと弱点必中スキル。これらは確かに強力だが無くとも全く困らん。ふっ。まさに無用の長物とはお前のことだな」
「うぐっ.....」
痛いところを突かれてしまった。
.....確かに、二人の言うことは正しい。
それは認めるしかない。
迷宮探索の常識は大火力でボスが引き連れている雑魚モンスターを殲滅し、がら空きになったボスを速やかに討伐すること。
だらだらと戦っていてはジリ貧になってしまう。
だから、さっきの戦いでも誘因スキルを持つカインが、一か所に雑魚モンスターを引き寄せて、エレナが一気に魔法スキルで片づける。
そうして最後に残ったボスをカイゼルが倒す、という戦法が取られたわけだ。特にウチのパーティには強力な祝福魔法スキルを持つエリザベッタがいるから、効率よく回していける。
「よく分かったろうユウマ。弓使いなんて死に職業、駆け出しの何もできなかった頃なら頼もしかったが、今じゃただのお荷物なんだ。わかったら出ていけ」
ここで俺が何を言っても、鼻で笑われるのは明白だ。黙って受け入れるしかない。
「......これが、皆の意思だって言うなら出ていくよ。今まで世話になったな」
踵を返して、俺は玄室を後にした。ステータスを表示させて確認してみると、俺の状態は未所属状態に戻っている。
でも、俺を驚かせたのはそれではなかった。
「なっ!? お、俺の金が!?」
「装備品までは取らねぇでやるよ。金はパーティの共有財産だ。てめぇには1ゴールドだってやらねぇよ! じゃあなユウマ!!」
ステータスから所持金が綺麗さっぱり消えていたのだ。
こ、ここまでするのか!?
その日俺は、パーティを追い出された挙句、無一文になってしまった。ブーツの中に隠しておいたヘソクリで今日はしのぐしかない。
〇
次の日の朝。俺はギルド内で居心地の悪さを感じていた。他の冒険者たちがチラチラと俺を見ては、何やらヒソヒソと話している。
普段パーティメンバーといたからか、余計に浮いてしまっているらしい。
「おい、見ろよ。弓使いのユウマだぜ? とうとう追い出されたか」
「みたいだな。ったく、あんな雑魚がS級冒険者? 信じらんねぇよ」
好き勝手言ってくれるじゃないか。
俺だって気にしてるんだぞ、一応。
俺、ユウマ・カザキリは、王国内でも5人しかいないS級冒険者の一人だ。
5人の内訳と経歴は、以下の通り。
剣士カイゼル。最強の剣士にして最年少コロシアムチャンピオン。
戦士カイン。世界で最も頑強な男。カイゼルに敗れるまで無敗のチャンピオンだった。
魔法使いエレナ。最年少の魔法使いにして、多重属性スキルを持つ天才。
僧侶エリザベッタ。高位の祝福魔法スキルを操る、対アンデッドのスペシャリスト。
そして、弓使いの俺。元辺境の村の猟師。
以上。
(あらためて見るとほんと、俺ってアレだな......)
華々しい経歴を持つ皆とは違って、俺の経歴は地味だ。
食うに困って冒険者になろうと王都に出てきて、気が付けば弓使いになっていたとうだけ。
せめて皆に迷惑を掛けないようにと血の滲む思いで一生懸命スキルを覚え、一対一では最強、と自負
できるくらいには強くなったが、結局このザマだ。
「あのー.....よかったらパーティに入れてくれませんか」
「えっ? あー、えっと間に合ってます」
10組目のパーティに断られた後、俺はテーブルに突っ伏した。
どのパーティに声を掛けても断られてしまう。
弓使いは、一応レア職業だ。適性がある者は極めて少なく、現時点では世界で俺1人しかいないらしい。
(.....食いっぱぐれてんじゃ世話ないよ)
が、レア職業と言っても、死に職業では意味がない。
実際、罠の解除やその他諸々の探知スキルはアイテムで代用できてしまうし。
(もういい。こうなったら......ソロで潜ろう。スキルを駆使すればいける筈だ)
ウジウジしていても仕方がないか。
一念発起して、俺は立ち上がる。
パーティを組むのは安全性などの面でメリットが大きいが、俺の持つスキルを駆使すればソロでも日銭くらいは稼げるだろう。
というか、今すぐ金を稼がないとまずい。
飲み水を買う金だってないんだから。
迷宮に向かおうとしたまさにその時。慌てふためいた様子のギルド職員がカウンターから飛び出してくる。
「---大変です!! 剣士カイゼル率いるS級冒険者パーティの消息が途絶えました!!」
..........えっ? 今、なんて言った?
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