天界開放大戦③
「おはよう、エース」
寝室の扉を開けるとガブリエルが出迎えた。
「あぁ……」
「どうかしたのか?」
ガブリエルは虚ろな顔をするエースを心配した様子で見つめる。
「あぁ……変な夢を見たんだ……」
「魂の道を見たのか?」
隣の部屋からアレンが出てきた。
「なんだそれ……?」
「魂の道っていうのはな、死んだ魂の記憶のことで、無限覇道の発動者にのみ見れるものだ」
「なるほどな……」
「まぁ、よくある症状だ」
三人は話しながら聖堂の祈り像の方へと歩いて行く。
「昨日の決起集会から各地の開放戦線メンバーたちが動き出している。奇襲まではあと二日だ」
「あぁ、必ず……メアリーを救い出す!」
エースの目は闘志に燃えていた。
「ガブリエル……ちょっといいか?」
アレンはガブリエルを別室に呼び出した。
「今回の戦いはきっと天界中を巻き込んだものになる」
「あぁ……」
アレンは真剣な眼差しでそう言う。
「そして……望まぬことであっても……多くの命が散っていくだろう」
ガブリエルは言葉を詰まらせた。
「死ぬのは……ゼウスの野郎一人でいいんだ」
「エースは……いい奴だ。弱った敵兵を目の前にした時に、命乞いをする者を前にした時に……もしあいつの手が鈍って選択をためらったとき……」
アレンはその想像できうる光景に、険しい表情を浮かべた。
「俺はもう、仲間の死ぬ姿を見たくない」
「俺ばかりがいつも生き残ってきた。ガブリエル、お前たちもだ」
「お前たちも……皆も守りたい……だから……」
「四段以上の天野流を使うことを許してくれ……!」
その言葉にガブリエルは良い表情をしなかった。
「その危険性は……お前が一番わかっているだろ……」
ガブリエルは訝しげに言った。
「十年前……魔界侵略作戦の時、お前の力が暴走して……あいつは命を落とした」
「約束したじゃないか! 周りへの危害が及ぶ可能性のある四段以上はもう使わないって!」
「分かってるさ!」
「それでも……もう誰も死なせないためにも……俺はもっと強くなきゃいけないんだ!」
ガブリエルは立ち上がり、扉を開けた。
「もう……この話は終わりだ。政府のとこのヘラクレスだって、ゼウスから四段以上は禁止されてるって話だ」
「天野流は……危険なものなんだ。かつての始祖アマテラスの伝書を読み返せ……そこに記されているものははもはや武道の域を超えている……」
ガブリエルはそう言い残して部屋を後にした。