無限覇道
一同の声は揃ったが、驚いた理由は違うようだ。
いきなり会ったばかりのアレンに戦いを挑まれたことにエースは驚いたが、ガブリエルたちは別のあることに驚いていた。
「アレン……お前、世界最強なんて言われてるんだぞ……流石になぁ、エース」
「そう……よね、エースやめといたほうがいいんじゃ……」
どうやらアレンは物凄く強いらしい。確かによく見ればとても筋肉質な腕に、鋭い目つきをしている。
ガブリエルとミカエルは流石に戦わないよなという表情でエースのほうを見るが、どうやらエースは乗り気のようだ。
「やろう!!」
自信満々な様子のエースにアレンもノリノリになってきている。
ガブリエルたちの心配をよそに、エースとアレンは外の森の中の開けた場所に向かう。そこにはガブリエルたちも同行していく。
「よし……この辺でやろう」
アレンが立ち止まりエースのほうを向く。
「先に言っとく。俺は天野流の使い手だ」
「天野流?」
「無限覇道と呼ばれる選ばれた者にしか使えない能力を使った武道の一つだ」
エースの疑問にガブリエルが答えた。
「じゃあ始めるか……こい!!」
アレンの目つきが変わった。声を出した瞬間に全てが変わったように見えた。エースは拳を振り上げて、思いきり殴りかかる。
拳がぶつかる瞬間にアレンが消えた。飛んでいた。翼を使ったのではなく、脚力だけで宙を舞っている。
「天野流初段っっ! 天照神拳!!」
技名を叫ぶと同時に、アレンの右腕が黒い霧のようなものを纏う。目にも見えない速度で拳がエースの腹に直撃した。
「がっ……!」
衝撃で吹き飛ばされる。しかし、エースはすぐに立ち上がってアレンの方へ走り出す。
「天野流二段 天野不知火!!」
先ほどの天照神拳の三連撃技が放たれる。腹に二発と、顔面に一発食らう。吹き飛ばされそうになるが、力一杯で踏ん張ってその反動で殴りかかった。
「いい動きだ! エース!」
目を大きく見開いたアレンは先ほどと同じ技、【天野流初段 天照神拳】を放とうとする。二人の拳が正面から衝突した。骨の砕ける音とともにエースが吹き飛ばされる。
「無限のエネルギー質量に……押し出されてる」
観戦するガブリエルたちは目の前で繰り広げられる戦いに唖然とする。
「くっそおおおお!!」
立ち上がったエースが叫んだ。その時、微かにエースの背後に黒い霧が現れた。エースの目が大きく開き、衝撃波のようなものがアレンに炸裂する。
「やはり……!」
「エース! 君には無限覇道の才能がある!」
その言葉に一同が驚愕する。エースもまた、選ばれた者の一人だという。
「エース・レッカ、俺が見えるか」
その言葉と同時に、視界が真っ暗になった。聞いたことのない男の声だった。
「誰だ! ここはどこだ!」
エースの叫び声は、何にもぶつかることなくどこまでも響いていった。
「お前は今、無限覇道に目覚めた。道の支配者として、近い未来の道の覇王として……」
どこからか、男の声が聞こえてくる。
「なんだそれ!? どこからしゃべってるんだ! お前!」
辺りを見回しても何もいない。真っ暗な中で、足元には浅瀬の海を歩くような感覚がある。何かを探そうと走り回っていると、巨大な何かにぶつかった。見上げるとそれは巨大な石碑のようなもので半分近くまで形が形成されていて、上半分の部分が重力に逆らって下に転がっている巨石から作られていっている。
「なんだよ……これ……」
大きな音と共に衝撃が走った。石碑が完全に完成したのだ。完成した上部分には文字が刻まれていた。
「アレン……?アナ……スタシア……?エース……レッカ……?俺の名前……」
石碑の上部分には三つの名前が縦に刻まれている。その下には十個ほどの他の名前が刻まれている。エースの名前は一番最上部に、【道の支配者】という文字とともに刻まれている。
あまりの異常な世界にエースは尻餅をついて後ずさりする。
「どうなってんだ……これ」
徐々に意識が曖昧になって、視界が歪んでいく。
「――エース」
「エース!!」