表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANIMA  作者: けんはる
3/12

天界

 海と呼ぶよりも、()と呼ぶほうが相応しいようなものが雄大なその地上を囲んでいる。

 空を飛ぶのは、人界に住まう動植物とは見た目が異なる。見たことのない色の花や、3mはあろう鳥の大群が空を駆ける。

 二人は、解放戦線の拠点として使われているという聖堂を目指すことになった。道中、メアリーは空を飛ぶ鳥の群れを見ていた。

 天界固有の鳥類である【アバタール鳥】の群れだ。空を飛べることが自由を指すのならば、その背中に翼を宿すメアリーも自由といえるだろう。ただ、足枷のように頭にこびりつくウリエルの顔。それが呪いのようにまとわりついてくる。

 

(私は自由じゃない……縛られ続けている。この血に、世界に……)


 その時、金切り声が響いた。アバタール鳥の群れにゆうに10mはあるであろう巨大な()が突っ込んでいた。アバタール鳥は一斉に逃げ出すが、その内の何匹かが捕食されてしまう。

 

「なんだありゃ……でけぇ鳥が……食われてる……」


「あ……」


 愕然とするエースの横でメアリーは悟った。この世界では強者がすべてなんだ。弱い者は踏みつけられて、食われることしかできない。

 メアリーは考えることをやめた。これ以上、この世界の理への理解を深めようとも意味はないのだと悟った。

 歩くこと10分程度、二人は聖堂の前についた。外見は多少汚らしいが、それは人が住んでいることを周りに知られないようにするためだとメアリーは言う。

 木製の扉を開けると、聖堂の奥に()()()()()()()が置かれていて、後ろのステンドグラスから光が差し込んでいる。外見とは打って変わって綺麗に整頓された内装に、少し生活感のある雰囲気に何故だか懐かしさを感じる。


「お帰り、メアリー」


 聖堂内を見回していると、男がメアリーに声をかけた。


「ガブリエル! ただいま!」


 返事をするメアリーを横目に、エースはガブリエルと目が合う。


「そちらは知り合いか?」


「うん……エース・レッカよ」


 メアリーの紹介にエースは軽く会釈する。


「そうか、よろしくエース。俺はガブリエル・アークだ」


 ガブリエルは気がよさそうに接してくれた。


(何だか安心したな……解放戦線なんていうからゴリゴリの戦闘部隊かと思ってた……)


「エースはどこから来たんだ?」


 ガブリエルのその質問に人界から来た、とエースが答えると「人界から?!」と女性の声が上からした。驚いて上を見上げると二階の通路部分から顔をのぞかせている金髪の女性がいた。


「ミカエル!」


 メアリーが彼女を見て嬉しそうに手を振る。


「あはは……ごめんなさい盗み聞きをするつもりじゃなかったの」


 ミカエルは左手で小さく手を振り返しながらそう言う。


 エースは客室に通され、そこでミカエルも交えた四人で席についた。


「それで改めて人界から来たってのは……」


「あぁ、ほんとだよ。そんなに珍しいもんなのか?」


 ガブリエルの質問にエースは不思議そうな顔をする。ガブリエル曰く、珍しいどころの話ではなくガブリエルが知る範囲では歴史上初めてだという。


「ただ、ここはいわゆる死者の国。王都の近くにある召喚門からは毎日大量の人界人の魂が天界人として送られてきています」


 ミカエルがそう付け足す。


「てことは、みんな元人界人なのか?」


「俺はそうだが……」


「私は天界で生まれた聖天界人です」


 ガブリエルは、約300年前程に天界に召喚されたらしい。ガブリエルのような元人界人を【天界人】と呼び、ミカエルのような天界に生まれた子供のことを【聖天界人】というらしい。

 その会話の間、メアリーはずっと黙っていた。何かを思い出すような素振りを見せながら……。


「それで、エースはどうして天界に来たんだ?」


 その質問にエースは言葉を詰まらせた。先ほど起きたことをどう説明すればいいのかわからなかった。少なくとも、あの男【ウリエル】がガブリエルたちの敵であることは間違いないが……。


「……私から説明するよ」


 思考を巡らせていると、メアリーが口を開いた。

 ウリエルに追いかけられて、人界まで逃げたこと。そこでエースと出会い、力が継承されたこと。エースがウリエルと戦ったこと。


「……そうか、無事でよかった」


「それにしても力が継承されたって……」


 二人は安堵すると同時に、力の継承について食いついた。


「多分……ルイスの血のつながりによる継承だと思う。手を握ったときに、変な感じがした」


 メアリーはそう話す。確かにあの時の感覚は今まで一度も味わったことのないものだった。それはメアリーも同じだったようだ。


「人界にもまだ、ルイスの純血が残っていたとはな……安心しろエース、俺たちはお前の味方だ」


 ガブリエルは力強くそう言ってくれた。エースはこれからどうしたいのかと聞かれ、みんなと一緒に戦いたいと言った。


「分かった。他の仲間たちにも話しておく。聖堂の中で会ったりしたら挨拶でもしといてくれ」


「ありがとう」


 四人は立ち上がり、扉を開けて部屋から出る。するとそこに男が立っていた。


「アレン……どうしたんだ」


「あぁ、ガブリエルたちが部屋に入っていくのを見てね……君」


 アレンはエースに近づく。ジロジロとエースを見て、何かを考え込む。


「名前は?」


「エース・レッカだ」


「戦闘経験はあるのか?」


「いや……ほぼない……かな?」


 アレンは笑みを浮かべて腰に両手を当てる。


「よし! 外で戦おう!」


『え?!』


 一同は声を揃えて驚く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ