悪魔のなりかた
エースの腹に雷が直撃した。
男は急接近してエースに斬撃をくらわす。身体の二倍ほどの高さまで血しぶきが立つ。
「舐めたことを!」
意識が飛んだ。白目をむいて背中から倒れる。男もエースが倒れたのを見て勝利を確信して不気味な笑みを浮かべた。その瞬間に、エースが飛び上がって男の頬にパンチを食らわす。
「はぁ……痛てぇ……」
今にも意識が途切れそうだ。視界が歪み、足が痺れてふらつく。
「人間ごときが……」
男は剣先に電気をまとわせて、エースの方へ向ける。
「エース……! よけて!」
よける間もなく、エースの腹に雷が直撃した。血反吐をはいて前に倒れそうになるが、足を前に出して踏ん張る。
「メアリー……逃げろ……」
擦れていて、いまにも途切れそうな声でそう言う。消えかける意識の中、ある違和感に気づく。
「腹の傷がふさがってる……?」
目線を落とした時、先ほどつけられた傷が綺麗に消えていた。男もそのことに気づいて、慌てた様子を見せる。
「なっ……傷が……まさかメアリー!力を譲渡したのか!」
力とは、先ほど男が言っていたものと同じものを指すのだろうか。
男は続けて、雷を放った。右腕に衝撃が走ったと思えば、血しぶきを上げる右腕の付け根が視界に移る。しかし、その傷はすぐにふさがり、腕が再生した。
「これは一体……」
タ タ カ エ ア ラ ガ エ
再び、頭の中に文字列が浮かんだ。それを見てすぐに、エースは何かにとりつかれたかのような目をしたかと思えば、思い切り地面をけって男に急接近して男の顔面に一撃入れた。
負けじと男が何度も斬撃を食らわすが、超速的な再生の上では無意味なものだった。何度も、絶え間なくパンチを食らわす。ひるんだ男は翼を広げて、空に逃げる。
「くそ……! 人間が覚えておけよ! 必ずメアリーもろとも殺してやる!」
男はそう言い残して、ポケットから幾何学模様の石を取り出して、それを強く握る。すると石が発光しだして男の目の前に空間の裂け目のようなものが生まれた。
「ルイスの血は、俺が滅ぼす」
そう言い、男はその裂け目の中へと消えていった。
「勝ったのか……」
「もう大丈夫だと思う……」
崩れ落ちて涙を流すメアリーにそう言う。
「大丈夫だ……話してくれ、色々とな……」
メアリーは事の発端を話し出した。あの男の名前は【ウリエル】と言い、メアリーの持つ【能力】を奪うために命を狙われてるという。
また、ウリエルが捨て台詞のように言った【ルイスの血】とは、メアリーの一族のことを指し、力が譲渡できたことからエースもその一族の一人であるという。
「あなたも……きっと殺される。私たちは忌み嫌われる一族だから……」
メアリーは涙をこらえながらそう話す。なぜ、この少女が涙を流さなければいけないのだろうか。一体どれほどの巨悪が彼女を苦しめているのだろうか。
「俺は死なない。君を必ず守る」
そんな言葉が、自然とこぼれた。どれほどの巨悪がそこにいようとも、メアリーを守りたいと思った。
何かに背中を押されたんじゃない。自分で自分の背中を押したんだ。メアリーを全てをかけてでも守ることが使命であり、生きる理由だと。
「……ありがとう」
メアリーは笑顔を見せた。
(こんな顔で笑うのか……)
美しい笑顔に息を呑む。雲を通って、太陽の光がメアリーを照らす。神々しく、まるで女神のようだ。
メアリーが住まう世界の名を【天界】と言い、そこには【ルイスの血】を差別する勢力と、民族差別のない世界を作ろうとする【解放戦線】と呼ばれる勢力がいるという。
「解放戦線の仲間たちの元に行こう」
メアリーは静かに頷いて返した。
「天界には、さっきの石みたいなので行くのか?」
「うん」
メアリーは先ほどウリエルが使ったような幾何学模様の石を取り出す。
メアリーが石を強く握ると、空間に亀裂が生まれる。二人で同時に亀裂に手を触れた。光に包まれて、徐々に視界が白くなっていく。閃光のようにひときわ強い光に、目を強く閉じた。
目を開けると、そこはすでに荒廃した街などでなく、美しくて自然豊かな【天使の国】であった。
「ここが……天界」
「メアリー、仲間の元へ行こう」
メアリーは小さく頷いて返した。