めりぃちゃん!逢魔が時にデビューだ!
都市伝説。新聞にも載り、一世を風舞したのは、
口裂け女。夜の帳が下りる頃、彼女は姿を顕すという。
「お家に帰らない子ども、ん、んー。10代そこそこ、思春期入りたて位な少年が好みね、うふぉっ♡私の理想。背後に近づいてから……。めりぃちゃん、深夜もいいけど、日暮れ直後もなかなかにオツよ」
「逢魔ヶ時ですか?」
『あべのせいめい』を名乗る相手の声が、少年だと言うことで、めりぃに指導する為、やってきた口裂け女先輩。
「そう、あの世とこの世が繋がるのは、何も彼岸や盆ばかりではない、ほんの僅かだけれど日に一回、必ず、繋がる時間帯があるの、ソレが『逢魔ヶ時』」
フフフ、フフフフ、フフフフフ。あの頃は良かったの。口裂け女先輩が目だけで笑い、マスクの向こう側から笑い声を立てた。
――、あーあ。帽子取りに戻ったら、その分、遅くなっちゃった。でも買ってもらったばっかりだし、うん、そう言おう。
S和時代。遅くまで塾に通う小学生は、まだ少なかった時。
暗くなるまでに家に帰ろう、が先生との約束のひとつ。
少年は空き地で缶けりに夢中になり、近くの工場の終業サイレンを聞き逃した。
「あ!暗くなるぞ!早く帰らないと叱られる!」
慌てる仲間たち。また明日な!うん、帰ろ。てんでんばらばらにその場を離れた。少年も一度帰路についたのだが、半分ばかり来た時、野球帽が無いのに気がついた。
「あ!土管の中だ!う、戻ろ!」
数分後。
無事に帽子は持ち主の元に。
茜色と群青色が混じり合う空。
何処か不安を感じる混ざりいろ。
「早く帰ろ」
近道をしようと、路地に入る。
タッタ、タッタと走る少年。
コツコツ、コツコツ、コツコツ、
早い音。不意に産まれる、背後から近づく。
なに?怖!
スピードを上げる少年、
ダダダダダダッ、ハアハア、ハアハア
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ!
電信柱、ジ、ジッと街灯が音立てる、パッ、チッ、パッ、チッ、ついたり消えたり。
怖い!怖い!こわい!おかあさん!
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ!
「ヒッ!ウェ!」
ガシッ!華奢な肩に真っ赤に塗られた、マニキュアの指先。少年の鼻に届いた香水の香りには、魚の腸のような匂いが微かに混じっている。
フフフ。
耳元で声。
見ちゃいけない。そう思うのに、キキキキ……と少年の目玉が動いてしまった。ちらりと見えたのは白いマスクの女。
少年は逆らえない何かに惹かれる様に、振り向く。
女の目が、ニコリと笑み歪む。ゆっくりとマスクを外す。
「ワタシ、キレイ?」
――、「あー!昔は良かったの!今はクゥ!マスクって年中している人も多いし!花粉症季節だと、どこもここもマスクマスクマスク……、しょぼん、なんか負けた感するの……」
昔話をし終えると、叫んでがっくりと肩を落とす、口裂け女先輩。
「いいこと、めりぃちゃん!常にアンテナを張り巡らし、流行を取り入れるよの!でないとすぐに、私達なんて廃れて消える運命よ!」
「ふぇ!は!はい!頑張ります!と、とりあえず、電話の相手をなんとかしてみます!」
よし!今日こそは私からあっちに……、少しばかりビビリながらも、デビューを前に、気合いを入れるめりぃ。
――、「今日もお留守番するって?今日はお葬式の後に、叔父さんの家で初七日すますから、遅くなるのよ。明日は土曜だし、あっちで泊まってもいいんだから、ついてきなさい」
朝、家に戻った母親。それに嫌だ!と答えたユウタロウ。
「大丈夫だよ。一年生じゃないもん、昨日もちゃんとしてたでしょ、お留守番しとく!夕方にお洗濯取り込んどく、何かあったら、お隣のおばさんちに行くから、大丈夫」
「うーん。でも心配、ご飯はどうするの!」
「お母さんと一緒に下のコンビニで、お昼も晩もお菓子もジュースも買っとく、遊びに行かない!家で宿題しとく!夜見たいテレビあるもん」
朝ごはんに出された、ピザトーストでベッタリよごれた口を、テッシュで拭きながら、洗濯物を干し終えた母親に、提案をする。
「お洗濯取り込んどくは素敵ね。お父さんとは違う!良い子に育ったわね。そうねぇ、6年生だもんね、よし!お隣さんには頼んでおくから、家は空けないでね、パソコンにメール入れるからちゃんと見て、それとセールスの電話にはでないでね」
「うん!大丈夫。ちゃんとしとくね」
彼の計画は着々と進んでいる。
コンビニ店舗で、たっぷり目の食料並びに飲み物を手を入れた彼。玄関ドアに入る前、母親から頼まれた仕事をこなす。
「えーと、パラパラ。これでよし」
部屋に入るとしっかりと鍵をかけた。
「さっ!ドリルすませて、漢字の書き取りして、ちょっと寝よ!」
自由研究、どうやろっかな。考えながら、キッチンに向かうと、エコバッグから、パスタにお弁当、菓子パン、おにぎり、サラダにジュースを取り出し冷蔵庫に入れた。
「ここで過ごそうかな?洗濯物、取り込むのもここだし、部屋から持ってこよ、あ、デジカメってあったかな?最近使ってるの、見たことないや……」
あれこれ思いを巡らしつつ、ユウタロウは部屋に荷物を取りに向かった。