オカルト少年、ユウタロウ登場。偶然とは、必然である。
ブッバッ!ブチュッ、グリグリグリ。ケチャップを、とろけたチーズが表面を覆う大振りなハンバーグに、円を描いてたっぷり目に絞り出す少年。フライドポテト、野菜サラダ、お味噌汁、ご飯、小鉢が幾つか。
お!ハンバーグか。うん!算数の成績上がってたら、好きなおかずにしてあげるって、約束だったんだ。そうか、偉いぞ。夏休みが来たな。親子の会話。何処かソワソワしながら、差し向かいに座る父親が、小鉢に箸を伸ばす。
「うん!あれ?お父さん、ビール飲まないの?仕事帰りのコレが最後!クゥぅ!はないの?」
箸でブロックに分けると、大きく頬張る息子の質問に、母親が答えた。
「今日はお休み、高山の叔父さんの具合が悪いのよ、覚えてる?おじいちゃんの弟さんで、隣町に住んでる。小さいときに、一度会ったでしょう?電話が入ったら、病院に行かなくちゃいけないから、ビールは駄目。ほらほら、お父さんも悠太郎も、ちゃんと野菜を食べて」
「ふーん、覚えてない」
「あー、ビール飲みたい!」
「だめよ、私が運転しても良いけれど、連絡が来てるのに呑んでたら、お義母さんにとやかく言われるわよ」
……、カチャカチャ、モグモグ、ご飯お代わり、ビール欲しい、駄目よ!ノンアル無いの?買ってないわよ、ジュースにしたらお父さん、甘いのはダメなんだ。お茶、空になったよ。弾む会話。進む食卓。
「あ、そうだ。もしかすると、夜中に出るかもしれない。どうする?車の中で寝てていいから、ユウクンもついてくる?」
母親が冷凍庫から、2本目のお茶のボトルを出しながら、息子に問いかけた。
「ヤダ!留守番する、どうせ朝になったら、帰ってくるんでしょ?寝とく」
「そうだけど……、独りよ?大丈夫?」
「大丈夫だよ!来年からは、中学生になるんだよ、僕行かないから」
……、サワサワ、着替えたか?サワサワ、ええ、悠太郎に言っとかないと。やっばり連れてこうかしら、玄関開けるな、でいいだろ、そうだけど……。やっぱりキッズ携帯、買っておいた方が、こんな時便利ね。
ガチャ、キィ。子ども部屋のドアが開く。カチリ。枕元のライトをつけた母親。
悠太郎、ユウクン、ほら起きて。うえ?朝?寝ぼけないでちゃんとして、ふぇ〜。え、え。ん、すん。どうしたの?
「お母さん達、今から行ってくるから、玄関、絶対に開けちゃだめよ、それと何かあったらお父さんにかけてきなさい、お母さんの携帯、ここに置いておくけど、変な事に使ったらすーぐわかるからね!怖いなんとかとか調べちゃだめよ!」
「ん、わかってる、てブァァァ。いってらっひゃ~い、寝る」
深夜。階下の部屋に気を使い足音を殺して動く両親、キィカチャン。カチャン。これでもか!と音を立てぬ様、細心の注意をはらい、出掛けていった。
……、うー。目が覚めちゃった。布団中でモゾモゾ。
トイレ行こ。あ!お母さん居ないからジュース飲んじゃえ。テレビでも言ってるし、えと、『就寝中の熱中症にお気をつけ下さい』って、それとそうだ!
チャンスがあったら、と考えていた計画。
パァァァ!とユウタロウの頭の中に、素晴らしき世界が広がる。
布団をはねのける。ヒョイとベッドから降りる。ペタペタ。数歩フローリングに音。部屋の明かりをパチリとつけた。
それから学習机に向かうと、一番下の引き出しから、マーカーで真っ黒に塗りつぶし、赤や青やとりどりのカラーマーカーで『髑髏』を描いた、お手製の『宝箱』を取り出した。
「ふーふふふ。今日こそ!チャンスなり!何だったっけ?読んだオカルト本にかっこいいヤツ、セリフにあったよな、えとぉ……、そう!」
『世の中には偶然はない、全て必然なのであーる』
「すっげぇ!だって本当!時刻が過ぎたら十三日の金曜日で、しかも、もうすぐ午前二時で、明日、ラジオ体操休んでいいって、お母さん言ってたし、だから早起きしなくてもいいし、親いないし!起きてるしー!完璧!」
取り出した元クッキーの空き箱だった、黒塗り、カラフル髑髏模様、少年曰く『最高にカッコイイ宝箱』の蓋を、そろりと開ける。
何処かで拾った五寸釘、蛙の干物、公園で拾った、ちょっと水晶みたく見える石ころ、蝙蝠の羽の様な形をした枯れた葉っぱ、セミの抜け殻、持って帰るなとおばあちゃんに、叱られた『凶』のおみくじ、血の色に見える紅いビーズ玉で作った数珠みたいなアクセサリー、セミの抜け殻、カードゲームの悪魔や幽霊、妖怪の札数枚、セミの抜け殻、噂話で聞いた事を書き記した、御札の様な長方形の紙、セミの抜け殻……。
「えっとお、この前、聞いたんだ、ちゃんと忘れない様に、書いてここにしまったんだ、あ!あったあった!ククク、ヒヒ!」
メモを取り出すと、宝箱を片付け、携帯を手にし、リビングへと向かう、オカルト好きなユウタロウ。パチリ。電気をつけた。窓に近づき、鍵がかかってるのを確認、遮光カーテンの向こうは深夜2時の色。
「携帯からだと、怒られるかも知んない」
シャッ!カーテンをきちんと閉めると、固定電話を持ち、ソファーに座った。
「えぇとぉ!本当なのかな?この番号、十三日の金曜日で、深夜2時から夜明け迄の間、『メリーさんに通じる番号』って!よぉーし!電話してみよっと!あ!その前に、トイレとジュース!と、もしもの時の、お塩!」