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アカキンは真夏に混ざる水の中

 付喪神が海水浴をしていたり、俗世と同じく太陽はあるが、ソレは西から昇り、東に沈んでいたり、光の温度は冷たくハチミツ色をしている、魔訶不思議なセカイ。


「ところでめりぃはん、おひとつ、お聞きしたいんやけどな」


 サラサラ絹糸おかっぱヘア、赤いべべ着たお澄まし顔のお菊さん先輩が、程よく凄みを放つ姿になった、めりぃに話しかける。


「はい!なんですか?先輩」


「最初にヤるお相手は、縁深い持ち主なんがお決まりさん。あんたさん、どんなおひとに棄てられたん?ソレを終わらさんと、神出鬼没でけへんで」


 ほえ?持ち主?めりぃは、コココココ、コココココ。首を360度回して考えた。


「持ち主は、えーと。いない!売れ残りだったから。決まってるんですか?ええ!どうすればいいんですか?」


「持ち主、おらへんの?欲しいって言われたことは、ないん?」


「欲しい。とは言われたけれど、大きなサイズが邪魔をして、売れ残ったんです!悔しくて悔しくて、行きたい所はあります!でも持ち主じゃない、ユウタロウは私の事なんか忘れてるし、キィィィィ!大きなサイズに、ごめんと言わせたい!」


「ふうん、ほやなぁ、そや。アカキンはんが、よぅ、お相手を謝らしてはるから、お話、聞いてみはる?丁度こっちゃに、戻ってきとったはずやさかいに」


 アカキン先輩。めりぃは、こくんと頷こうとしたら、カックン!首が直角に下りた。





 ……、カランコロン。下駄の音、街灯に、ジジジッジッ、羽虫が寄る深夜、夏祭りを堪能した彼と彼女が、駅前の駐車場へと向かっていた


「大人の特権よね、屋台の終わり迄遊べるの、子どもの時は知らなかったけど、たこ焼きやイカ焼きに、売り切りセールあったんだ」


 二本で一本分の値段に下がっていた、チョコバナナを齧りながら歩く彼女。境内で片割れはすでに食べ終わっている。


「作った分は、さばかないとな、食べるのはギリ終わりで、それまでは遊んどくのが鉄則、知り合いのたこ焼き屋でバイトしてさ、それで知ったんだ」


 ペト。パックから出る蒸気で、しどどに汗をかいているペラペラなお持ち帰り用のナイロン袋を、幾つか片手に下げ、シャリシャリとしたアイスを食べてる彼。


「ふーん。知らなかったな。大人になってからも遅くまで居たことないもん、あ!あー!ねえ!戻らなきゃ!」


 カラン!ザッ!踵を返す下駄の音。カラコロカラコロ、走り出した彼女。どうした?追いかける彼が聞く。


「アカキンちゃん!焼きそば食べる時に、邪魔なら掛けとけって言われて、あそこの木の枝にそのまま置いてきちゃった!」



 ……、パシャンとした水の広がり、地面に描かれている。




「可愛そうな事しちゃった、アカキンちゃん、アカキンちゃん」


 切れたビニール紐、破れたナイロン袋落ちてる。ニァァと、茂みの向こうで猫の声。


「ごめんね、ごめんね、アカキンちゃん。お家に連れて帰ってあげられなくて、あの時、邪魔でも腕に下げていたら良かった」


 彼女、金魚すくいのソレに『アカキン』と名前をつけた。もう居ない存在に、冥福を祈る様に手を合わせて目を閉じ謝る。


「あー、猫かぁ、ねぐらにしてるの多いもんな。猫も拾い食いじゃなく、縁日のご馳走にありつけてさ、良かったよ。どうせ持って帰っても、そいつら直ぐに死ぬじゃん、親によく叱られた」


 彼、もういいだろ、帰ろうよと急かす。


「……、すぐ死ぬ?そんなことないもん。子どもの時にすくった家のアカキンちゃん、まだ実家の水槽で泳いでるんだから。ちゃんと飼えば長生きするんだよ、金魚すくいの金魚ちゃんは、赤ちゃんなんだから。大きくなるとね、鮒みたいになって、でも可愛いの。すぐ死ぬって……、トシがいい加減だから死んだんだよ」


「え?そうなの?水槽買う前にさ、七日ぐらいで、腹向けて死んだぜ。そんなもんだろ、縁日の金魚なんだし。いい加減だからってさぁ、それはお前だろ?大体、アカキンなんて、ダッセー名前つけたのに、置き忘れる方がいい加減だし」


「トシが、あの時ここに掛けたら、って!言ったんでしょ!忘れた私も悪いけど、忘れもの無い?て聞いてよ!優しくない!」


「はあ?食うのに邪魔って言い出したのお前だろ!」


 始まる、犬も食わない痴話喧嘩。やがて彼女が、もう知らない!と常套文句で会話を終わらし、カラコロカラコロ、彼女、口で負かした彼を残して去った。




 スマホで曜日を確認する。今日で3日目。社には夏風邪をこじらせたと週末迄休みをもらっている彼。時々に彼女から連絡はあるが、当たり障りのない答えで、ぬらりくらりと、はぐらかしている。



 謝った、謝ってる。きっと七日過ぎたら大丈夫。ちゃんと調べて、ちゃんと飼わなかった事に、ごめんって。大切に考えなくてごめんなさい。と、謝っている。


 ヒトツメ、外のバケツの中。


 ごめん、アカキン様。


 フタツメ、スーパーボール 持って、金魚、置いて帰った。


 ごめん、アカキン様。


 ミッツメ、持って帰る途中、落とした。


 すみませんでした!アカキン様。


 ヨンヒキ メ、風呂場ノ 洗面器。


 謝ります、この通り!アカキン様。


 冷たい水がホシイ。


 はい!只今飲みます!飲みます!ウッウッウ。水じゃないとだめですか?アカキン様。


 金魚、酒ダメだろ、オマエが死にたい、ノナラ、飲んでもいい。


 あの夜入り込んだソレは、彼の身体の中に宿る水にすっかり溶け込み、馴染みスイスイ泳ぐ、始終語りかけている。



 縁日の夜、部屋に戻りぶつくさ文句を言いながら、ビールを煽ると、汗を流す為に、バスルームに向かった彼。脱衣場兼洗面所で裸になり、ドアを開けて閉めた。


 蛇口を捻る。


 シャァァァ……、


 適温の湯が柔らかな雨のように無防備な姿の彼に降った。


 シャァァァ……、ブッ!


「あ?断水?故障、止まった?」



 湯が止まったシャワーヘッドを見上げたその時。



 ブッ!ブブブッ!トトト、ペチペチペチペチ!トトトトト!


「グハァァ!オグゥッゥ!」


 開いたままの口に、


 入る入る入る入る!金魚すくいの金魚達!


 ゴキュン!おぇぇ!グエェェ!なんか飲み込んだ!



 ゲェゲェ、よつん這いになり吐き出そうともがく彼。

 ピチピチ、バスルームの床に跳ねるハネる朱色の金魚



「なんだ?ヒィィィ!コレって『金魚すくいの金魚』、オェェェ!ゲェゲェ、飲み込んだ!腹の中、ヘンだ!ゲェゲェ、どうしよう、あ?なんだ?声……、聴こえる……」


 ナマエハ アカキン。金魚すくいの金魚ダ!オマエが粗末ニシタ命、縁日の金魚、ダ!


 オマエ、七日七夜、オマエの中でアカキン飼え。

 オマエ、七日七夜、アカキンに、謝りツヅケロ。


 生きたかったらな。


 ぴちょん。




アカキンのお話は私の妄想ストーリーですー。

我が家は赤い金魚は、あかきんちゃん、黒い金魚はくろきんちゃん、ハムスターは、ハムという名前に、飼ってる最中に、統一されます。ちなみに可愛いお名前のお犬様も愛を込めて、おい『犬っころ』←旦那様のみそれになる。なんで?

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― 新着の感想 ―
[一言] アカキンさぁぁぁん! ごめんなさいぃぃぃ! 持ち帰り忘れたことはないんですが、金魚飼うの難しいですよね……
[一言] ひえええ、アカキンさん怖えええ!!!!
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