ユウタロウとクマゴロウ、そしてそしてのめりぃちゃん
ただいまぁ、クマゴロウ。んー!モフモフ♡リビングの、ソファーの上に置かれていた、くまのぬいぐるみをモフモフ、再会を堪能するユウタロウ。
……、ユウタロウ殿、お帰りをお待ち申しておりました。
彼の腕の中で挨拶の口上を述べるクマゴロウ。そう……、
大事にされすぎた彼は、めりぃ同様、『アヤカシ化』されているのだ。
「クマゴロウ、ずーと電話、チカチカしてた?」
……、ユウタロウ殿、それはもうしつこく。
「メリーさんだろうなぁ、あの番号になってた」
……、拙者!気配で察知して申した!
部屋に運ばれるクマゴロウ、少年の腕の中で忌々しく思う。
……、おのれ。うろんな客等、拙者が成敗してくれよう!『ぬいぐるみの病院』とやらで、拙者はふかふか、もこもこ、千切れていた尻尾も元に戻り、新品同然の体躯はへにゃけてないのでござらぬ。
ペタペタ、廊下を歩いていると、ガチャン。
「ああ、丁度良かった、ほら子機と充電器」
「お父さん!うわぁ。ありがとう、使える?部屋に置いてていいの?」
「コンセント差しとけよ、ああ。使わないから構わない、無駄電話しない。これ。約束な」
「ありがとう!」
ウキウキしながら、ユウタロウはクマゴロウと共に、久しぶりの自室に入った。
「七転び八起きという言葉がある。待ちぼうけの時間は、決して無駄にはならない」
しょげてるめりぃの元にやって来たのは。
キィ……キィ。錆びた自転車の姿。
「ふぇ、呪いのママチャリ先輩、そうなのですか?」
「ギィィ、そうさ。僕をご覧、駅前の駐輪場から盗まれて、鄙びた別の町に放置され、そのままずぅぅぅと、忘れられ、ボロボロになっても誰も退けもせず……。憎き人間にヒトアワフカセヨウト、諦めずその時を待ち続けていると、こうなったのだ、ギィィ」
――、「ウワァァァ!じ!」
キキィィィィッ!静寂を切り裂く急ブレーキの音!
そこは、魔の空間だと運転手の間では恐れられている、某街の郊外の道。緩やかにカーブはしているが、見通し良い直線道路。
誰が建立したのかはわからない。手作り感あふれる、小さな地蔵堂がポツリと道端にある。左右一対、供え花を建てるのには牛乳瓶を再利用している。
大きな事故にはいつもならない。
「……、はぁ、はぁ、み!見た!見た……」
急ブレーキでガクンと止まるだけ。
運転手はハンドルを握ったままで、ガクガク震えている。
降りて確認しようかと思ったが、恐ろしくて出来なかった。
彼の目には残像が焼け付いている……。
目の間をジャッ!と横切る、
誰も乗っていない、
元の色などわからない、
錆だらけの、
ママチャリが。
「諦めるな!めりぃちゃん」
「ハイ!ママチャリ先輩!」
頑張ります!先輩!フォォォォ!
めりぃは意識を高め全集中。
……、ペ、ポ、ピ、ピ、ポ、ペ、パ、ピ、ピ、ピ。
「はい、もしもし」
出たー!めりぃは天にも昇る心地。
丁度めりぃを今、訪ねたばかりの『どすこいオネエ』も天にも昇る心地。
「青少年のソプラノボイスよぉぉ!あと数年経ったら踏み切りに来てねぇぇ♡ワタシを連れて帰ってぇぇ♡」
頑張るのよ!めりぃちゃん!妖しげなパープルのアイシャドウの目元に、力を入れてエールを送る、どすこいオネエ。
一方。
……!ぬお!ユウタロウ殿にうろんな客から!
ちょこん。ユウタロウの膝の上に座る、クマゴロウは異質な気配を察知した!
ピッ。通話を終えるユウタロウ。
「えっと……、ノートノート。今日の日付と、あと。自撮り棒ももらったんだったっけ、用意しとかなきゃ、あ!シュークリーム!シュークリーム!」
待っててね。学習机の上、子機の隣にクマゴロウを置くと、台所へと出ていったユウタロウ。
プルルルル、プルルルル、プルルルル
鳴り出した呼び出し音。
……、動けるか……、動けそうな気がするのだ。
プルルルル、プルルルル、プルルルル
モゾ。モゾモゾ……、モフモフとしたクマゴロウの表皮が、フコフコとふくらむ。
プルルルル、プルルルル、プルルルル
……、ふぉぉぉぉ!ぬぉおおぉ!天の神よ!仏よ!地獄の閻魔よ!六天大魔王殿ぉぉぉ!我に力をぉぉぉ!
カッ!ビッ!真ん丸なガラスの黒い目玉に光が宿った!ビビ!ビビ!ふるふる、ふるふる……。
クマゴロウは溜まった何かを全開放。
クマゴロウは動くスキルを手に入れた。
プルルルル、プルルルル、プルルルル
「フ……。確かこのボタン。ポチッとな」
彼はうろ覚えながら、ユウタロウが先に押した、『通話終了』ボタンを押した……。
ブッ、ツー、ツー、ツー、ツー……、
「ふぇ?」
そして台所では。
「あー!お母さん!ヨリちゃんのシュークリーム食べちゃった!ひどいよ!」
「え!お父さんが買ってきてたんじゃないの?ごめんごめん。でもご飯終わってから、お菓子はダメ!」
「お母さん食べたじゃん」
「大人はいいの!お母さんこのあと、明日のお弁当の用意をして、洗濯して、朝ごはんの準備して、リビングコロコロかけて……、すること山のようにあるのよ、明日の朝、下のコンビニに一緒に行こ、仕事行く前に買うからね」
お母さん、あるある劇場が展開されていた……。
ラストが近づいてきました。




