再開!めりぃちゃん!
「子機?電話の?何に使うの」
晩御飯時、テーブルに並ぶのはユウタロウが好きな、カツカレー温玉のせ、トウモロコシとトマトのざく切り、さいの目キュウリ、カリカリベーコンを混ぜたサラダ、小鉢がいくつか並んでいる。
「うん、明日ね、8時だったらバイトから帰ってるから、ヨリちゃんに電話したいんだ。」
「ここでしたら良いじゃない」
「ええー!ゆっくり話せないもん!」
スプーンにすくったカレーを頬張りながら、母親に話すユウタロウ。
「アッハッハ。ヨリちゃんになんか言われたか?」
父親が小鉢を引き寄せながら、助け舟を出した。
「うん、ゆっくり話そうぜ、だって」
「もう!まぁ、ヨリちゃんならいいわよ。ちゃんとお礼言いなさいよ。あ!でも子機って、寝室でホコリかぶってるわよ、後で持ってくるわね」
和風ドレッシングをサラダボウルに回し入れ、その場でザックザク混ぜ合わせ完成させる母親。
「壊れてない?それ。お父さんもお母さんも携帯かパソコンばっかりだもん!ねえ、中学生になったら携帯欲しい!」
「そうだなぁ……、そろそろ考えようか」
プシュ!缶ビールのエアが抜けた音。
――、シクシクシク、シクシクシク、シクシクシク……
宿執の泣き声が響いている。
「いいよぉ!めりぃちゃん、ばっちり!怖さが増してるって」
先輩の励ましの声。
「ほんとに?コロシニイクヨ先輩……」
「血の涙も流せる様になったし!留守電にその声入れたら、イケるって!」
「なっても電話をかけても、呼び出し音ばかり……」
シクシクシク、シクシクシク、シクシクシク………!!
何かを察知しためりぃ!四方八方に広がりおどろに舞う、金茶の髪が反応を示した。
「ふお!先輩!微かだけど……、ピピピ!ときます!こんな時間に?早くありませんか?」
「玄関前迄辿り着いたからだと思う!めりぃちゃん!電話をかけろ!チャンスを無駄にしちゃいけない!」
頑張ります!先輩!フォォォォ!
めりぃは意識を高め全集中。
……、ペ、ポ、ピ、ピ、ポ、ペ、パ、ピ、ピ、ピ。
チカチカ、チカチカ、チカチカ。
ディスプレイが着信を知らせた。リビングでテレビを見ていたユウタロウが気がついた。
「あれ?お母さん、電話呼び出し音オフになってるよ」
「あ!忘れてた。知らない番号からしつこくかかるし、うるさいから消音にしてたのよ」
「留守電も切れてる」
「ワン切り音でメッセージ満タンになると、消去するのが面倒くさいから切ってたの、ああ、出なくていいよ、それより早くお風呂に入っちゃいなさい」
チカチカ、チカチカ、チカチカ
……、うん。少し後ろ髪をひかれながら、ユウタロウは母親の言いつけに従った。
もしかしての予感。だけどまだ、手元に子機は無い。
それに今来られても用事もないのに、玄関ドアを開けるなと出来ない。
チカチカ、チカチカ、チカチカ
光るディスプレイ。
……、賞味期限、明日迄だから。明日ね、メリーさん。
チカチカ、チカチカ、チカ……。
光がしょんぼりと消えた。




