めりぃちゃん!二度目の電話をする
金茶の髪が少しばかり焼け溶け、ボロボロになっためりぃ。『タクシーのお客さん』先輩が、えーん、えーんと泣いている彼女に、そんな泣き声では駄目だ!と喝を入れた。
「めりぃちゃん、泣き声がだめです。ひゅひゅひゅひゅひゅ………、息を細かく吸い込み、か細く啜り泣く様な声が良い」
「ふえ、えっえっ……、タクシーのお客さん先輩。先輩はどこで泣いてるのですか?」
――、真か嘘か。S話時代に某場所にある電話ボックスの前を、深夜に通り過ぎてはいけない。回り道をした方がいい。そんな噂がタクシー運転手の間で流れていた。
「あー!しまった!左折しちまった……、チッ、次右折するか……」
帰り道、空車。明日の馬番を何にしようかと考えながら、ハンドルを握っていた彼。うっかり昼間の感覚で、ある交差点を左折をしてしまった。
「社に戻るのはこの道なんだよな、このまま真っ直ぐ行けば近いんだよ。昼間はそうしているんだから。わざわざ電話ボックスを避ける為に道一本、回るのはめんどくさい」
キッ。交差点で停まる。ウィンカーを出そうとすると。
「雨かよ……、」
ヴィンッ、クッ、シャッ、シャッ、ヴィン、クッ……、ワイパーを動かす彼、雨脚は一気に激しくなる。
「あー!サッと、通り過ぎたらいいか」
パッ!青信号。そのまま直進をしたタクシー。しばらく進むと市民公園前、例の電話ボックスが、ぽつねんと建っている場所へとさしがかる。
グンッ。アクセルを踏み込む運転手。
ジャッ!ジャッ!シュバッ、シュバッ!忙しく動くワイパー、外は豪雨になっていた。
……、もうすぐ?あ……、見えた。電話ボックス。このまま通り過ぎれば。
この時間、突然の豪雨、大丈夫だろうとスピードを上げ、市民公園前をジャッ!水飛沫を派手に立て、通り過ぎた運転手。
「ふぅ、電話ボックス……、ん?」
ミラーで遠ざかる電話ボックスを確認をした彼。止まぬ雨、ワイパーの音、そして。
ひゅひゅひゅひゅひゅ………。
シュッバ、シュッバ、シュッバ。ワイパーの音に紛れて聴こえる、啜り泣く様な声……。
「ヒッ!空車だよな、あ?いつの間に」
カタンと倒され、乗車になっているタクシー。
ひゅひゅひゅひゅひゅ………、ひゅひゅひゅひゅひゅ………。
どうしよう、なんかお客様がいる。いつ乗せたんだ?いつ!
運転手は生唾を飲み込むと、カチカチ歯の音を立てながら、お客様、どちらまでと、声を掛けた。
「電話口で、いきなり泣いてもいいんですか?」
相手が怖がっていない事を、思い出しためりぃちゃん。
「いいと思うけどね、泣きながら名を名乗るのも、これまた新しい手口」
タクシーのお客さん先輩は恐怖を与えるのには、日々の創意工夫よ、めりぃちゃんと、落ち込む彼女を励ました。
「創意工夫!いいかもしんない。頑張ります!タクシーのお客さん先輩!」
そろそろ良い時間だし、コンタクトを取ります!めりぃは、二度目の念波を彼に送ったのだが。
プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、ガチャ。
「……、ひゅひゅひゅひゅひゅ、えっ、えっ、わたしメリーさん……」
「……、ジー。只今留守にしております、御用のある方はメッセージをお願いいたします」
はう?どういうこと?
めりぃは目が点になる。繰り返す音声。
ユウタロウはどうしたのか。一時間前に話は戻る。彼はスイミングスクールから帰ると、母親の携帯電話に連絡をしていた。
「……、はいもしもし?どうしたの?何かあった?プールだったんでしょ」
「ごめんなさい、でもね、コウタがおうちキャンプするから来ないかって、誘われて迎えに来てくれるの、行ってもいい?」
そう、ターゲットは留守だった。
「……、ジー。只今留守にしております、御用のある方はメッセージをお願いいたします」
繰り返す無機質な音声。めりぃは敗北感でいっぱいになり……。
ガチャン。何も残すことなく、念波を閉じた。




