めりぃちゃん、もしもしワタシメリーさん
お留守番をしている女の子がいた。
夏の陽は長い。
「うん。お母さん、わかった。おそくなるの?大丈夫、うん、戸棚のパン食べていいの?洗濯物?と入れるの?ご飯のスイッチ、わかった……」
電話を終えると、炊飯器のスイッチを入れた。
「お母さん、残業かぁ……、お腹すいたな」
カサカサ、食器棚の中にあったメロンパンを取り出し、袋から出すと、はむ。モグモグ……、ほおばる彼女。
ポロポロと溢れるパンくず。食べながら洗濯物を取り込む為にベランダに出ると、隣の家から晩御飯の支度の匂い。
……、つまんないな。あれ?あそこの植木鉢の後ろに、あ!あんなとこにあった!
「うわっ!きったない!ここで遊んで、出しっぱなしだったんだ、え~と……、」
ごそりと取り出したのは、汚れた小さなお人形。
「いらない」
キョロキョロあたりを見渡して、その小さなお人形をベランダから下に捨てた女の子。
「ふーう。これでよし、お母さんに見つかったら、怒られる、新しいの買ってもらえないもん」
プルルル、プルルル、プルルル♪
「電話だ!お母さんかな?」
慌てて部屋に戻る女の子。
プルルル、プルルル、プルルル♪
受話器を取る……。
「よし!イメージトレーニングはバッチリ!では!出陣!します!コロシニイクヨ先輩!」
めりぃちゃんは、妄想世界から帰還すると、ピン!と虚空に伸びた髪の毛の一筋に、念波を送りはじめた。
――、「やっぱりこれだよな」
祐太朗は、真新しいノートの表紙を、自由研究の為にせっせと黒いマーカーで塗りつぶした後、銀色や赤のペイントマーカーで、数年後の彼が見たら、恥ずかしさのあまり卒倒しそうな世界を創り出していた。
タイトル
『都市伝説★メリーさんの観察日記』
「よーし!あ!洗濯物、畳んどこ。僕はお父さんとは違うのだ!お小遣い稼ぎしなくちゃ、ついでに夏休みのお手伝いを、ひとつするのも達成!」
ベランダに出るとムアッと暑い夕方。遠くから聞こえる車の走行音を聞くと、ちょっぴり寂しくなった、小学六年生の彼。
「アイス食べよ!うん!今日はご飯前に食べても怒られないんだから!」
せっせと畳んでとりあえず、ソファーの上に置いた祐太朗。チョコソフトを冷凍庫から取り出した。
「あ!スプーンで食べよ!お母さんがいたら、変な食べ方しないって、怒られるから」
パッケージの上から、アイスクリーム部分と、コーンの部分とポキリ。別々にした祐太朗。逆さになったクリーム部分をスプーンでほじくり食べる。コーンは取り出し齧る。最近彼の中でのマイブーム。
……、メリーさん、今日電話かけてくるかな。こっちからかけたら来ないじゃんか、あ!この事、ノートに書いておこう。明日なんて家電にかけてきても、出れないなぁ、お母さんとお父さんに怒られるもん。
ペロペロとこだわりの方法で、アイスクリームを堪能すると、メリーさんに電話をかけた話を書きこむ。
途中、リビングにあるデスクトップのメールが入ったので、開くと母親が『お風呂、ちゃんと入るのよ』とのメッセージ、慌ててお湯はりのスイッチを押す。
そろそろ電気つけようかな。薄暗くなった頃。
ピロロロ、ピロロロ、ピロロロ♪
「ふお!電話だ!どうしようかな……、」
出るか出まいか。
ユウタロウの第六感が出ろ!と閃く。
チャッ!
「もしもし」
「ワタシメリーさん、今、駅にいるの」
ドギマギしている、めりぃ。
「うん!」
ガチャン!即座に切るユウタロウ。
ピロ……、鳴るかならないか、チャッ!
「(ふえ!何でこんなに早い!)ワタシメリーさん、今郵便局の前にいるの」
来たー!郵便局ってすぐ近くじゃん!あ!家に来るんだよね。ガチャン!親機を置くと子機を片手に、ドアフォンのモニターの前に陣取る彼。
ピロ!チャッ!
「(ハァハァ、コロシニイクヨ先輩!なんか話と違います)ワタシメリーさん、今マンションの下にいるの」
ガチャン。
「ンフフ〜♪えっと……、ちゃんと書かないとね。あ!姿って見たらダメなんだっけ?それとも振り返って見るとダメなんだっけ?まあいいや、モニターでみとこ」
ピロ!チャッ!
「ゼイゼイ。ワタシメリーさん……、今……!はぅ!ヒャァァァ!ふぐぅ……、か!帰るぅぅぅ」
ツー、ツー、ツー、
「ふお!帰っちゃったの?なんか『チリッ』て燃えた?火花みたいなの見えた……。そういやお母さんが、お葬式だから玄関の前にお塩撒いておいてって、頼まれたから、パラパラまいたんだった、そうか、メリーさんはお塩が嫌いっと!」
ノートノート、ユウタロウは今起こった出来事を、将来の彼が見たら羞恥のあまり卒倒しそうなノートに、しっかり書き記した。
「えっと、ンフフ♪この時間だったら、僕が電話に出れる!ラッキー♪あ!写真ないや、いいや、絵を描いとこっと」
ウキウキ気分で、夏休みの自由研究を進める。
「ふぇぇぇん!コロシニイクヨ先輩!チリって!髪の毛が焦げたぁぁ」
浄めの塩の力を僅かに浴びた、めりぃ。寸前のところで気が付き、慌ててその場を離れたのだった。




