始まりは売れ残り。
何万体と製造された、抱き人形『かわいい♡めりぃ』のブームが去った。玩具の流行り廃りは早い。今のブームは。
『きらきら♡めりぃ』
水で濡らせば色が変わる髪の毛、先代めりぃと違い、瞳の色もカスタマイズ出来る、豪華オプション付き。小物も充実。
あっという間に、店頭が入れ替わる。棚卸しの夜、返品する為にダンボールに詰め込まれた、売れ残りの『かわいい♡めりぃ』達。トラックに積まれて街を行く。
その中で、一体の『かわいい♡めりぃ』がボヤいている。彼女は小さな子どもの目に止まる高さ、低く白いネットのワゴンにある日突然、乱雑に移された時、何かがぷちんと破裂した。
それ以降、知らぬ内に少しずつ『アヤカシ』化していた、抱き人形の『めりぃ』
『ユウタロウが、お人形を欲しがるのは、だめなの?くそ!あの大きいサイズ!自由になったら意地でも、押しかけてやる!ああ!でも小さいサイズもいるのよね、いやん。困っちゃう』
半額シールがベタベタ貼られた、ひしゃげた紙箱をカタコト揺らすめりぃ。彼女は包装破れがあるので、段ボールの中にすら入れられていない。ナイロン袋の中に突っ込まれていた。
……、あの客が邪魔をしなければ今頃、あの子のお人形さんになっていたのに!それよりも、他の子と何処が違うのかしら。服も一緒、髪型も顔も一緒、この箱だって。手に取りやすい場所に居たのに、手に取るのはワタシで、持っていくのは別の子なのよ!やんなっちゃう!
カタカタ、カタコト、少しひしゃげた箱の中で動くめりぃ。ラストチャンスが逃げたことに、傷付き苛ついていた。
……、大きいサイズ、呼び名は、パパ、ママ、おじいちゃん、おばあちゃん、おかあさん、おとうさんやらがさ、うるさいのよ!あの子がお人形さんほしいって、ワタシを手にしてくれたのに。
こえ、ほちい。ひしゃげた箱を抱えたふくふくとした天使の様に愛らしい男の子。嬉しい!彼女は、白いパンヤがキュウキュウに詰まってる胸の中が、ギュッ、ギュッと音立つ気がした。動いたらダメダメと、動かずいた、お人形のめりぃ。
「半額かぁ……、でも『ユウタロウ』は男の子でしょう、お人形さんなんかダメダメ、ほら!このぬいぐるみならいいわよ、こっちになさい」
箱をもぎ取られ、代わりに半額と値札にシールを貼られた、クマのぬいぐるみを手渡されたユウタロウ。そのままレジへと消えていった、最後のチャンス。
半額シールをベタベタ貼られている箱の中の彼女が、優しい目元のパッチリお目目はそのままで、キィィィィと口をひん曲げたのは……。
幸いな事に、玩具売り場を歩く人たちは、誰も気付いていなかった。
それでも涼しい秘境から、猛暑真っ最中だった、街中の実家(高速飛ばして2時間先)に、出掛けたら熱中症になり、何か異世界とリンクしてしまい、つらつら書いためりぃちゃんです。