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4話目 M8

 私は宇宙人と交信している。

 その宇宙人は単なる地球人であり、単なる宇宙バカだ。本当に、間違いなく、迷うことなく、宇宙バカだと断言できる。

 元々間違いメールから始まったその交信は、半年ごとの本当にたまにある繋がりだった。それが、何の因果か、大学に入り宇宙人と遭遇することになってしまった。完全に巻き込まれた形で。

 でも、その宇宙人とはまだお互いにきちんと名乗ったこともないので、宇宙人には私がその交信の相手だとはばれてはいない。宇宙人とは勉強の話しかしたことはないので、ばれる要素もない。ばらす必要も感じないので、きっとずっとそのままだと思う。それに、もう直接関わることはないと思っていた。勉強会という宇宙人と関わる時間を持たなくなったんだから、それは当然だと思う。

 だけど、私と宇宙人の交信はそれまでと何も変わることなく行われるだろう。


 なのにどうして、私の隣には、当たり前のように宇宙人がいるのか。

 ああ、あれか。あまりの暑さで幻覚でも見えるようになったか、私。


「勉強会は遠慮したはずですが」

「一年の時のノート掘り起こしてきた。これで文句ないだろ」


 思った以上にまともな返事があるから幻覚ではなさそうだ。いや、それ、この間、宇宙人がテスト範囲ではないもっと深く掘り下げた話ばかりを私にするから、個人的には面白いけどテストには全く役に立ってないよ、って塩を塗り込んだの恨んでますね?


「そもそも文句もありませんし、何ならそのノートコピーさせてくれるだけで大丈夫ですよ」

「これが解読できるのか?」


 ドーン、と効果音が付きそうな雰囲気で宇宙人が開いたノートには、宇宙語が並んでいた。


「これ、何ですか」

「どうだ、悪筆だろう」

「それ、威張るところじゃありません」


 頭のいい人は悪筆だという話をまことしやかに聞いたことはあるし、私もどちらかと言えば悪筆にカウントされるけど、この宇宙人の字ほどひどくはない。まだ私の字は解読可能だ。ギリ。


「みゃーちゃん、諦めて圭介に教えられてあげて」


 男の娘の向こう側にいる宇宙人の友達が、申し訳なさそうに私に声を掛けてくる。


「いや、別にいいですよ、って言ってるんですけど」

「みゃーちゃんに授業と関係ないことばっかり熱弁してたのをよほど気に病んでるらしくて。これ専門の最後のテストでしょ? 花持たせてあげてよ」

「……おかしくないですか?」


 その理論のおかしさをあげつらえば、いくつでも挙げられるようなおかしさだ。

 まず第一に私はこの勉強会を必要としていない。そして第二に宇宙人が私に勉強を教えたいのは、私がこの間塩を塗り込んだことに対しての対抗心に違いない。その勉強を教えてやろうという姿勢は後輩への親切心からでは決してなく、むしろ押し付けだ。第三に、宇宙人がそんなことごときで気に病むわけがない。今見ても、ノートの悪筆にどや顔してて、気に病んでる様子が微塵もない。第四に、花をもたせてあげてあげてって、何だ。完全に私のための勉強会じゃない。


「おかしくない」


 宇宙人よ断言する。おかしいから。 


「シロー先輩、ケイスケ先輩のねじ、もう一度巻き直してあげてください」


 私は立ち上がってトレイを持つ。

 そう、私が普通にご飯を食べているところに、宇宙人とその仲間たちが襲撃してきたのだ。私が簡単に逃げられないように、私の脇をはさむようにして。でもわざと液体物を残したまま立ち上がった私に、男の娘も宇宙人も自分がかぶるかもしれない被害を思ってだろう手を出せないでいる。


「いやいやそんなこと言わずに」


 そう言って、私の持ったトレイをひょいっと取り上げたのは宇宙人の友達だ。あ、と言う間もなく、両側から下方向への荷重が掛けられる。何だこの連携プレー。なんて卑怯な。


「私には必要ないんですが」

「まあまあまあまあ」


 宇宙人の友達が私のトレイを代わりにカウンターに持って行ってしまう。私はため息をついて、宇宙人とその仲間たちの説得に屈することにする。


「分かりました」


 全く納得はできないけど、次のコマは既に先週テストで授業が終わってるので時間は空いている。そこまで言うなら、宇宙人の渾身の“教え”とやらを聞いてやろうじゃないか。

 私は男の娘が開いたテキストとノートを覗き込みながら、宇宙人の一言目を待つ。


「慣性力はだな……」


 その一言目に、私と男の娘は顔を見合わす。


「ケイスケ先輩、それ、習ってません」

「は?」


 男の娘の言葉に、宇宙人が目を見開く。私はあっけにとられている宇宙人の手元にあるノートをするりと抜き取ると、ノートの一番前に書いてある文字を見て、ノートの中の文字と確認しながら一生懸命解読する。


「先輩、これは物理学演習2のノートですよ。この数字は、1じゃなくて、2です。私たちが今取ってる授業は物理学演習1です」 


 悪筆って、自分でも解読不能なんだな、と思いながら私は立ちあがる。


「お疲れさまでした!」


 意気揚々と出口に向かう私に、宇宙人の友達が驚いた表情で駆け寄ってくる。


「え、みゃーちゃん、二人をどうやって説得したの?」


 どうやら私を勉強会に引きずり込みたかったのは宇宙人だけじゃなくて男の娘もだったらしい。まだ諦めてなかったのか。


「説得も何も、持ってきたノート、あれ今やってる授業じゃなくて、多分後期に取る授業だと思うんですよね。だから、テスト対策なんて無理です。じゃ、お疲れさまでした!」

「圭介馬鹿じゃん」


 宇宙人の友達が苦笑しながら今度こそ大人しく私を見送ってくれる。

 いやはや、宇宙人が悪筆で助かった。あれで自分のテスト対策ってどうしてたんだろうな、と思ったけど、きっと宇宙人はノートなんて書きつけぐらいのもので、授業を自分の頭の中に収めることができるタイプだったんだろうな、と思う。どちらかと言えば、そのコツの方がよっぽど知りたい。頭の構造が違うと言われてしまえばそれまでだけど。


 *


 夏の南の空のM8干潟星雲を見ながら、そう言えば今月はまだ宇宙人にメールを送ってないな、と思う。とりあえず赤い濃淡のある光には癒される。だけど、夏休み中で宇宙人の反応が直接見られるわけでもないから、メール送ってもな、と思わないでもない。ただ、八つ当たりしたいことは、ばっちりある。

 冷房が程よく効いて快適だから思いつくのは疑問くらいだ。


 何でこの二人でプラネタリウム。星空が展開するまでは不満たらたらだったけど、いざ星空が展開してみれば、その不満は少々収まった。ま、タダだしね。

 しかし「友情を深めてこい」って何だ。どういうことだ、宇宙人の友達よ。我々はテスト期間を乗り切り、もう夏休みに入った。なのになぜ、私の隣には男の娘がいるんだ。


 勿論、絶賛女装中。パフスリーブに筋肉質な腕は合いません。男の娘のパフスリーブは初めて見た。……なぜこのセレクト。

 プラネタリウムの入り口で待ち合わせて、陽炎のように見えた男の娘に、これは罰ゲーム的な何かなんだろうか、と思ってしまった私に罪はないだろう。

 キャンパス内で男の娘と連れ立って歩くのには抵抗もなくなっていたけど、あれは狭いコミュニティーの中のことで、どこか許されている空気もあるから、学内ではどう思われてもいいと諦めにも似た気持ちでいられても、それが一般社会に接する場所でも同じように抵抗がないかと言われれば、そんなわけもない。ここが東京ならいざ知らず、地方の一都市だ。

 それに何せ、男の娘と大学以外で個人的に会うことなんて初めての経験だ。


 「友情を深めてこい」という指令に対して現地集合現地解散を選択した私に罪はないと思う。プラネタリウムがおしゃべりしながら見るものでないのも勿論理解したうえでの選択だ。男の娘からは少々抵抗を受けたが、それなら行かないと押し切った。

 プラネタリウムの無料券の出所は宇宙人の友達だし、そもそも無料券を使わなかったとしても誰も痛くもない。公立の科学館併設のプラネタリウムなど、お金を出したとしても精々数百円ぐらいの価値しかないものだし。


「女装、似合ってない?」


 ぼそりと男の娘に話しかけられて、ぎょっとする。話しかけられないと油断してたせいだ。


「似合ってると思ってる?」


 むしろ聞きたい。


「いや」


 なら聞くな。私は無視を決め込む。


「どうすれば似合うと思う?」


 それを化粧もしない私に聞くのは間違っているような気がとてもする。無視しようと思っていたが、希望とあらば答えてやろう。


「パフスリーブはその腕に不似合いだ。むしろ隠せ。カーディガンとかボレロとか」

「暑い」

「なら女装をいっそやめろ」

「嫌だ」

「なら、好きにやってくれ」


 以上。


「……もっと溶け込みたいんだよ」

「意味が分からん。なら男装しておけ」


 遠目には女子には見える。遠目にはな。


「……それは……」

「私は星が見たい。邪魔するな」

「視界は遮ってないから邪魔にはならない」

「それは屁理屈と言うやつだ」

「ね、どうしたらいい?」


 くじけぬ奴だな。


「筋肉落とせば」

「それは困る」

「なぜに」


 女装男子には筋肉など無用の長物だろうよ。


「……師匠に怒られる」


 まだ稽古やってるんかい! 前にクラスメイトのしたのは許される行為なのか?!


「……師匠は女装には寛容なの?」


 素朴な疑問だ。


「いや、稽古の時は男装して行ってる」


 何だそれ。


「そこは押し通そうよ」

「勇気がない」

「……毎日学校に女装で来てるがな」


 しかも男の娘は地元らしいからきっと実家からだ。……私が知ってるのは、そう宇宙人の友達に教えられたからだ。


「駅で着替えてる」

「……もう知らん」


 男の娘の心理状態が複雑すぎて、私には手に負えそうにもない。


「変わりたいんだよ」


 その呟きの声に、ドキリとする。私の心の内を吐露されたような気分になったからかもしれない。変わらないようにいて、その実変化を求めている。

 私だって、今のままの自分でいられるとは思ってない。苦手な人間を避けて一人の殻に閉じこもって、そんなんで社会生活が送れるわけもない。バイト先は一人職場みたいなもので、誰かとの関係に悩むこともない。まだ学生だから許されている部分でもある。


「極端すぎるわ」


 それでも深入りしたくなくて、軽い感じでおざなりに言ってみる。


「みゃー、どうしたらいい?」

「……知るか」


 本当は考えたくない、それだけだ。私は耳を手で塞いで星空を見上げる。

 星だけを見ていていい生活ができればいいのに。




「結構面白かったね」


 あの暗い中で吐露した本音などなかったかのように、男の娘は明るい声を出す。ああ、こうやって本音を隠しているんだと、どこかで思いながら、そこをつつく気持ちにはならない。見てもいなかった男の娘の姿が見えてきたことに、少し戸惑うくらいだ。


「私は最初しか集中して見れてないけど?」


 誰かさんは私が耳をふさいでも尚、ぼそぼそと話しかけてくるから、内容がきちんと聞き取れなくても気になって集中できなかった。


「後半はみゃーは一言もしゃべってなかったよ?」

「しゃべってなかっただけで、誰かさんはずーっと話しかけてきてましたけど? あれは気が散る」

「だってみゃーが答えてくれないから」

「答える義務はない」

「ひーどーいー!」

「人が集中してるのを邪魔する方がひどい」


 はぁ、とため息をつくと、私は男の娘に向けて手を挙げた。


「じゃ」


 現地集合現地解散の約束だからね。


「みゃー、ちょっと待って!」

「嫌だ」

「すぐ、すぐに戻って来るから! それまで待って!」


 男の娘はそう言い置いて、科学館の奥に消えて行った。……何をしようと言うんだろう。

 仕方ないからソファーに座って、私はプラネタリウムで見た夏の空を思い出す。……ほぼ前半しか思い出せないけど。

 宇宙人に今日の八つ当たりをしようかと思って、メールを立ち上げる。だけど、M8の画像を添付したものの、いい言葉が思い浮かばなくて、うーんと唸る。唸りながら、男の娘との関りも宇宙人や宇宙人の友達との関りも、変なものだな、と思い返す。


 そもそも男の娘や宇宙人や宇宙人の友達と勉強会という形で会ってはいたけど、実はその三人に連絡先を教えたことはない。ここで会うのを決めたのは、最後の専門があった日で、テスト後に無料券を渡された。……宇宙人の友達を交えて。

 男の娘と宇宙人たちは連絡先を交換していたようだけど、私は断固拒否していた。そもそも勉強会への参加も積極的だったわけではないからだ。イタ電が来そうで嫌です、と断固拒否したら、宇宙人の友達が今時イタ電って、と苦笑していたけど。あの三人から電話がかかってくるのならイタ電に違いない。私には直接的な用事はない!


 それに、もし宇宙人に連絡先を教えなくても、男の娘経由なり宇宙人の友達経由なりで宇宙人に私の情報が流出すると、あっという間に私が“みはる”だと断定されそうで嫌だった。

 私が第三者的な立場で観察していたのができなくなるだろうし、宇宙人はあんな感じのメールを返してくれなくなるだろうと思っているからだ。あれは、私と宇宙人が全く知らない誰か同士という前提だから成り立っているやり取りだ。


 大変申し訳ないが、私の方は宇宙人を発見してしまったわけだけど、捕獲するつもりもなければ、今まで通りの立ち位置を崩したくないと思っている。だから知らない体でメールを送り続けているわけだ。

 ま、後ろから宇宙人と宇宙人の友達の掛け合いを四か月ほど観察してたけど、あれが一番楽しかったかもしれない。自分に全く害はないから。今となっては前みたいな八つ当たりメールくらいしか送れない。後ろにそっと陣取るなんて、もうきっとできない。あっという間に宇宙人の友達に仲間にされてしまうだろうから……。

 さて、何を送ろうかな。


「おい」


 M8でしょ。干潟星雲はきれいなんだよねぇ。直前にあまりきれいと言えないもの見てたから心が洗われるようだった。うん、決まった。『たまにはきれいなものが見たい』だ。


「おい。声かけてるのに無視すんな」

「へ?」


 顔をあげれば、不機嫌そうな男の娘が立っていて……男装していた。


「……何だよ」


 私が無言でぱちくりと瞬きをしたのすら男の娘は気に入らなかったらしい。ますます不機嫌になった。


「お疲れさまでした!」


 とりあえず嫌な予感だけはあって、私はスマホを鞄にぶち込みソファーから転がるように立ち上がると出口に急ぐ。……つもりだったけど、あえなく男の娘によって腕をつかまれ易々と捕獲された。日々鍛えている人間と、まったく鍛えたこともない人間の力差なんてこんなものだ。


「離してくれないかな?」


 余所行きの笑顔を大盤振る舞いしてみた!


「したら逃げるだろ。嫌だ」


 ダメか。


「何でどうして男装なんてするのさ。いつも通りの女装でいいじゃない!」

「女装だと一緒に歩きたくないんだろ。……仕方ない」

「仕方なくない! そもそも現地解散の予定だったでしょ!」

「予定は未定だ」

「屁理屈はいらなーい。私は帰ります!」

「俺の話を聞いてからな」

「……自分の呼び方まで違う……」


 私が男の娘が戻ってきたのに気が付かなかったのは、その声の高さが女装していた時と全く違っていたからだ。普通に男子の声だった。だから私は最初声を掛けられたのが自分に向けられたものだとは思っていなかったのだ。


「重い相談は乗り切れません。私は私のことで精一杯です!」


 先に言っとくけどね! 私に期待しちゃいけません!


「……いいよ。相談とかじゃない。……俺の話を黙って聞いてくれればいいから」

「それも嫌だよ」

「お茶代は出す」

「それでも嫌だよ」

「多分、このあたりじゃダントツのケーキ屋だぞ。県外からも買いに来るらしいし」

「店の名前を教えてくれれば自分で行く」

「何でみゃー、そんなに男前なんだよ」

「知らん。じゃ、次は大学の授業で」


 男前の呼び名に正しくあろうと手を挙げて去ろうとしたけど、男の娘につかまれたままの腕が私の足を進めてくれなかった。もうこれは逃げきれそうにもない。


「分かった。分かったから」


 私が同意の返事をしたことに、男の娘がホッとする。そしてようやく手を離してくれた。


「一時間だけね」


 私は痛みもしないつかまれていた腕をこれ見よがしにさすって見せる。とたんに男の娘は自分がやったことに罪悪感を覚えたらしい。


「……ひでー」


 とは言うものの、時間指定に文句は言わなかった。


「あと、話すのは星の話にして」


 確かに男の娘の話を聞くだけでいいって話だったけど、話の内容を指定しちゃだめだとは言われた気はしなかったけど?


「ひでー」


 私が腕をさすって見せると、とたんに男の娘は口をつぐんだ。


「だったら一時間超えても私は気付かずにい続けるかもしれないし」

「……どんだけ好きなんだよ」

「だからこの大学に入ったんでしょ。タケノシンは違うの?」

「……消去法だよ」

「消去法であの学科に入れるって……ある意味すごいけどね」

「そうか? 医学部なんて向いてなさそうだし、数学だけ解き続けるのも嫌だし、って選択肢消していったらそれくらいしか残らなかったし」


 なるほど、男の娘は医学部を選択肢に出せるほど高校の成績がすこぶる良かったらしい。それならばこの学科に入れるのは納得だし、興味がなく受ける授業ほど無意味なものもなく、興味があまりない専門の授業に苦労するのかもしれない。


「そ、でも話の内容は星の話一択で」

「俺、ハレー彗星の話くらいしか知らないけど」


 ……星に興味がないから、男の娘はプラネタリウムの最中に話しかけてくるなんてことができたのか。……なんてもったいない。


「よし、まず星を好きになるための本を買いに行こう」

「……どんだけだよ」

「あ、それも一時間に含むから」

「ひでー」

「全く。親切心の塊だよ」

「どこがだよ。それ親切の押し売りって言うんだよ」

「星の世界に引き込もうとするのが親切と認定されるとは思わなかったね」


 一方的に押し付ける行為が親切心の塊のわけがない。完全に迷惑行為のつもりだった。私はルンルンと行きなれた本屋に向かって歩き出す。


「みゃー、全力でひでー」 

「私を話し相手に選んだ時点で失敗でしょ」


 私がにやりと笑って見せると、男の娘が諦めのため息をついた。




 家に帰って、ようやくホッと息をつく。

 なんだかんだと男の娘をけむに巻き、男の娘による男の娘の個人情報流出は最小限で済んだ。本当に話す相手のセレクトを間違ってる。よっぽど宇宙人の友達とかの方が話し相手に最適な気がするけどね。

 スマホを鞄から取り出せば、メールの着信があった。珍しく二回続けて宇宙人からの返信だ。


『いつでも夜空を見上げろ』


 なるほど、確かに。今度男の娘にも教えてやろう。夜空を見上げてると「こんなちっぽけなことで悩むなんてばかばかしい」と思うかもしれないし、男の娘の役に立つかもしれない。

 宇宙からのメッセージは大体悪くない。

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