13話目 M20
私は宇宙人と交信している。
その宇宙人は単なる地球人であり、単なる宇宙バカだ。本当に宇宙バカ。
そんな宇宙人との元々間違いメールから始まったその交信は、本当にたまにある繋がりだった。
私が進学した大学に実はその宇宙人がいて、そのメールだけの繋がりは続いたまま、私は宇宙人と知り合いになった。
宇宙人はそのメールの相手が私だとは知らないままだった。
ところが、宇宙人はあんな下らないメールのやり取りだけで私に対する恋心を発露させてしまった。意味が分からん。
ついでに、私が結び付かないと思っていた私が落っことしてしまった色んなピースが上手いことつなげられてしまい、宇宙人に私がメールの相手だと言うことがばれてしまった。
……こともあろうに宇宙人は、恋心をそのままにすることにしたらしい。
バレてから、週に一度くらいの割合で天体の画像が送られてくるようになった。
M16にM64にM104。その画像のどれにも暗黒星雲がある。
私の返事は超新星だ。始まりがあれば終わりがある。それがこの宇宙の理だ。次来たら、ブラックホールを送るつもりだけど。
だからきっと、暗黒星雲のことを思い出したんだと思う。
「暗黒星雲に行くには、どうしたらいいんでしょうね」
外はしとしとと雨が降り続いていたけど、体育館の中は冷房が適度に効いていて快適で、雨の不快さなどすぐに忘れた。
体育館のギャラリーから下を覗き込みながら、私は隣に立つ宇宙人に問いかけた。
「ロケットの速さが光並みじゃ無理だろうな。一番近いところで四百光年くらいだろ。四百歳まで人間が生きられれば行けるかもしれないけど」
「ねえ」
「そもそも、大体速さが光並みって誰が証明するんですか」
「ねえ」
「光並みって、一秒間で三十万キロ先にたどり着いたらいいだけだろ」
「ねえ」
「そんなのめちゃくちゃ当たり前みたいに言ってますけど、誰がそれ計測するんですか」
「ねえ」
「月とか火星とかにたどり着けるんだから無理じゃないだろ。人間の技術力なめんなよ」
「ねえ」
「人間の技術力なめんなよって、そもそもロケットをその速さで飛ばすって、ロケットが耐えられると思ってるんですか」
「ねえ! もう夫婦漫才はいいから、私の質問に答えてよ!」
偽勇者の言葉に、私と宇宙人は顔を見合わせた。したくもないがアイコンタクトだ。ほら、宇宙人答えるがいい。私の意図を読んだのか、宇宙人が口を開いた。
「夫婦にはまだ早いだろ」
違う!
「そんな関係など存在しない!」
なんだ“まだ”って! 付き合ってる事実すらない!
「ケイスケ先輩もみゃーも私のことバカにしてる?」
偽勇者の冷ややかな視線に、私は体をぶるりと震わせた。本気を出した勇者はきっと無敵に違いない。……偽でもな。
「いやバカにしてるわけではない」
宇宙人がそれだけ言って口をつぐむ。
宇宙人の気持ちがよく分かる。その先は口にしたくない。
「じゃあ、何で答えてくれないんですか」
「彼女だろうな」
即答するな、そこの考えナシめ。さっきまで話をそらしてた努力はどうしたんだ!
「ね、みゃー?」
偽勇者は宇宙人の答えをスルーしたらしい。となると、私の答えが重要さを増す。
よし、と決意をして、同じ並びのちょっと離れたところにいる宇宙人の友達を見る。
宇宙人の友達の行動の真意を読み取るためにじーっとじーっと見る。じーっと見て、宇宙人の友達が何を考えているかを想像する。
「……彼女にメロメロ」
ポロっと溢れてしまった言葉に、自分でハッとする。
偽勇者を見れば、偽勇者は先ほどの剣呑な雰囲気を消し、はぁ、とため息をついた。
「そういう風にしか見えないわね」
おう、正解だったらしい!
誇らしい気持ちでどうだ! と宇宙人を見れば、 宇宙人が呆れた目で私を見ていた。
何でだ。腑に落ちん。
「当てても嬉しいのはお前だけだろ」
正解だがさっき正直に答えてた宇宙人に呆れられるのが更に腑に落ちん。
「あれ誰ですか」
「他大学出身の同期のゼミ生、でいいのか?」
宇宙人がそう言って、偽勇者を伺い見る。
「いつからですか?」
偽勇者が知りたいことは沢山あるだろう。
……突然現れた略奪者……いや略奪者と言うには違和感のある小動物に獲物をかっさらわれたのだ。存分に聞くがいい。
「知らん」
「シロー先輩から聞いてるんじゃないんですか」
「知らないうちにああなってた。わざわざ聞かなくても、付き合ってる、でいいだろ」
「だったら、付き合ってるかわからないじゃないですか」
なるほど、偽勇者的には状況証拠だけでは認められないと言うことか。
だけどね? 。
にこやかに宇宙人の友達と会話し世話を焼かれている様子の小動物に、そんなつもりがないとは思えない。ほら、世話をやかれるたびに、頬を赤くしてるし。
「志朗、可愛げがあって庇護欲掻き立てられる感じが好みなんだな」
宇宙人がぼそりと、かつ偽勇者にとどめを刺す。流石だな。
「タケノシンの好みとは真逆ですね」
相槌を打つ私に宇宙人が大きく頷く。
「美人なのは認めるけど、強くないわよ」
美人と堂々とのたまう偽勇者のその心意気が私的にはアリだが、それが宇宙人の友達の琴線にはかからなかったのかもな、と思う。
まあ、人の気持ちなど、ままならぬものだ。それが人生だ。
はぁ、と偽勇者がため息をついて、ギャラリーの下の体育館を見つめた。
私も体育館のギャラリーから下を覗き込みながら、空手大会の会場のあちこちに散らばる熱気に気を取られる。……まあ、自分がこの手のことに今まで興味を持たなかったせいで、物珍しいと言うことは間違いない。
「女装じゃないのね」
偽勇者の視線の先には、道着を着た男の娘がいた。
「あれで女装も男装もないだろう」
冷静に突っ込む宇宙人に、そう言えばそうか、と納得する。
道着で女装するには、化粧するしかない。……普段化粧などしてなさそうな男の娘が道着を着たところで男子にしか見えはすまい。
偽勇者は、ちらりと宇宙人の友達に視線を向けた後、また会場に視線を戻す。
「何で女装してるのかしら。ねえ、みゃー」
偽勇者は他のことで気を紛らわすことにしたらしいとわかる。
「知らん」
だが残念なことに、私には男の娘について偽勇者に情報提供できそうなことが全くない。
「一年も経つのに聞いてないのか」
呆れた様子の宇宙人に、そう言えば一年ほど前の暑い最中に宇宙人に同じことを聞かれたような気がするのを思い出した。
「それ言うなら先輩もでしょ。気になる人が聞いてください」
私は興味もないのだ。聞くわけがない。
「そう……聞いてないのね」
「……付き合ってたんだから、自分こそ聞いてるでしょ」
偽勇者が一番聞いてておかしくない立場なんだが。
「付き合ってないけど、聞くつもりもなかったし」
「タケノシン、お前の扱いがひどすぎる。不憫な」
宇宙人が会場の端に立つ男の娘に視線を向け手を合わせながら、届くはずもない声で唱えるように憐憫の情を吐露している。
「自分だって聞いてないじゃないですか。自分のこと棚上げして何言ってるんですか」
「俺は、少なくともお前らみたいにひどいことは言ってない」
「どっちもどっちでしょ」
私がため息をつくと、うんうん、と偽勇者が相槌をうつ。
「ケイスケ先輩、そんなこと言ってるとみゃーにますます相手にされなくなりますよ」
「言わなくても相手にしてないから」
「それもそうね」
私の返事に、偽勇者が同意する。
「タケノシン、いつかこの二人をのしてくれ」
宇宙人がまた手を合わせて男の娘を見た。
「それを願うとかおかしいですから」
もう一度ため息をつくと、私は偽勇者を見る。
「え、二人は付き合ってないの?」
突然入ってきた声に、私も偽勇者もきょとりとする。
「まだ付き合ってないんだよ」
そう答えたのは宇宙人の友達で、質問したのは小動物だった。
「“まだ”も何も付き合うことはありませんから」
全否定した私に、小動物は驚いたような表情をする。
「付き合ってるのかと思ってた」
「そう見えるよね」
うんうん、と頷く宇宙人の友達に、小動物はことりと首をかしげる。
「それで、彼女が出場してる子の彼女なの?」
小動物に“彼女”と示されているのは偽勇者で、その相手は間違えようもなく男の娘のことだろう。
「違います」
ばっさりと力強く否定する偽勇者は、それだけ言うと目を伏せた。
「そうなの。てっきりそうなのかと思ってた」
邪気なくニコリと笑う小動物には、きっと悪気はないんだろう。……たぶん。
私には女子の心の内を完全に読み取るなんて困難だ。見たままを信じれば、悪気はないはずだ。
「あ、試合が始まるみたいだよ」
宇宙人の友達の声に、皆の視線は会場に向かう。
視線を伏せていた偽勇者も男の娘に視線を向けた。だけど、その目には何も映していないように見えた。
*
体育館の外に出れば、しとしとと降っていた雨は止んでいて、会場入りした時に差していた傘を手に持って体育館前の大きな広場を宇宙人、私、偽勇者、宇宙人の友達、小動物の五人で並んで歩く。
「タケノシン、かっこよかったね」
「そうね。空手って見たことはなかったけど、結構面白かったし」
宇宙人の友達に、小動物が相槌を打つ。
「ね、会田さんもそう思うよね?」
会場入りした時とは違って、宇宙人の友達が偽勇者にも話題をふったのに驚く。会場入りする時には、小動物とすっかり二人の世界に入ってたのに。
「三回戦で負けちゃいましたけどね」
偽勇者が肩をすくめると、宇宙人の友達は苦笑した。
「いやいや、二回は勝ったんだし。ね、みゃーちゃんもそう思わなかった?」
「まあ、いつもと比べるとかっこよかったんじゃないですか」
私なりの最大級の賛辞を口にすると、宇宙人の友達が目を見開いた。
なぜだ。聞いてきたのはそっちのくせに。
「実明、何か悪いもの食べたか?」
「何でそうなるんですか」
宇宙人め、理不尽な。
クククと笑う宇宙人の友達に、宇宙人が、そうか? と首をかしげる。
男の娘がいないことと、小動物がいること以外は、まったくいつもと変わらない我々の中のやり取りだ。
試合が始まる前に何も映してないように見えた偽勇者の瞳も、いつものように光を戻している。
「皆、仲がいいのね」
小動物が宇宙人の友達に話しかける。
「そうだね。と言っても、こんな風に出かけたのは初めてだよね」
「そう……ですね」
偽勇者が言葉に詰まる。宇宙人の友達をデートに誘っても、うまく話が通らなくて何もできないままだったからだろう。まあ、不憫ではあるが、それも人生だ。
「志朗君のおかげで、私も知り合いが増えて嬉しい」
「それなら良かったよ」
ニッコリと笑う宇宙人の友達がもし偽勇者の気持ちを知っていたとしたら、こんな風に目の前でイチャイチャしたりはしなかっただろうなと思うと、偽勇者の不憫さが増す。ちょっとだけ偽勇者に親切にしたい気持ちにはなる。……気持ちだけ。
「みんなで出かけるのも楽しいけど、今度は二人で出かけましょ?」
小動物が宇宙人の友達に問いかける。ああ、イチャイチャするのは他のところでしてやってくれないかな、と心の中だけで思う。宇宙人の友達にも理解されてないのに小動物に偽勇者がライバル扱いされるのも可哀相なので口には出さないけど。
「え?」
え?
宇宙人の友達が驚いているが、聞いていた我々だって驚いている。何で彼女がデートに誘うのまでスルーするんだ宇宙人の友達よ。
「え?」
ほら、小動物がひどく驚いてるでしょうよ。そりゃ、驚くわ。
「どうして?」
その宇宙人の友達の質問の意味が分からなくて、私は呆れた気持ちで宇宙人の友達を見る。偽勇者は呆然としたままだし、宇宙人は不謹慎にも笑いを噛み殺すのに一生懸命だ。
彼女になってもこれとか、宇宙人の友達の彼女は相当苦労するに違いない。
ま、私には関係ないからいいか。
「えーっと、ねぇ、志朗君?」
小動物が衝撃から戻ってきたのか、宇宙人の友達に声を掛ける。
「何?」
「……好きなんだけど」
……あれ? この二人付き合ってたんじゃないの? ……まだ気持ちを確かめ合ってなかったってこと?
「空手好き? そっか。なら、タケノシンと行くと楽しいかもね。専門的な知識もあるだろうし。頼もうか?」
いや、違うだろ。
一旦笑いを収めていた宇宙人が盛大に吹き出した。
……どこからどうしたらそうなるのか、私にはさっぱり理解できない。さっきの二人で出かけたい発言はどこ行ったんだ!
「空手じゃなくて! ……志朗君のこと好きなの」
小動物が小さな声ではあるが、はっきりと訂正する。
「え? 白黒つけるの好きなの?」
「え?」
その返事に小動物も驚いているが、私だって驚いている。偽勇者だって目を見開いて止まっている。どう聞いても宇宙人の友達を好きだと言っていたのに! どんな空耳だ。
「俺……変なこと言った?」
……十分変なことを言っている。宇宙人に至っては、笑いすぎて片腹を押さえている。
「志朗君……私のことどう思ってる?」
「どうって……いい仲間だと思ってるよ?」
まさかの断り文句に、その場に沈黙が落ちる。
固まっていた小動物が動きを取り戻したかと思うと、宇宙人の友達を見る。
「私のこと……好き?」
予想外に食いつく小動物に、私も驚いている。さっきので終わりかと思ったけど、なかなかの根性をお持ちのようだ。
「勿論。仲間だからね。だから、ゼミでも打ち解けられるように声を掛けてたんだし」
勿論、の言葉に一瞬ホッとした表情を見せた小動物が、徐々に表情をなくしていく。
そして、小動物はそのまま無言で走って去って行ってしまった。
「……え? 何で?」
本気で理解してなさそうな宇宙人の友達に、説明できる人間がいるとは思えない。
「あの、シロー先輩。さっきの彼女にメロメロに見えてたんですけど、違ったんですか?」
偽勇者がはっきりさせたいらしいことを口にした。
「は? 何そのメロメロって」
宇宙人の友達がキョトンとする。
「いえ、そう見えました。みゃーも言ってましたし」
偽勇者は迷いなく宇宙人の友達がそう見えていたのだという証明をする。だけど、宇宙人の友達は首をかしげた。
「彼女外部から来たでしょ? だから何とか打ち解けてもらいたいな、と思ってたわけ。それだけだよ?」
「それだけですか? カレカノになりたいとかなかったんですか」
偽勇者は下手すれば自分の不利益になるというのに、ぐいぐい突っ込む。
「え? それはナイナイ! 何? 俺距離感近すぎた?」
それは通じるのか、と思ったのは私だけじゃないだろう。宇宙人がぷ、と吹き出した。
「あれ、罪作りですよ」
はぁ、と偽勇者がため息をつく。
「あれ彼女じゃなかったのか」
宇宙人が質問すると、宇宙人の友達が首をひねった。
「何でそんなことになってるわけ?」
……きっとそれ、小動物が言いたいセリフだろうよ。
「いえ、シロー先輩は、あの彼女のこと好きに決まってます!」
なぜか偽勇者が力説しだした。……自分の恋心はいいのか、偽勇者よ。
「そんなこと言われてもね。」
宇宙人の友達が苦笑する。……私だって苦笑だよ。あれでメロメロでなかったとか、説得力なさすぎなんだけど。
「志朗……自分の気持ちにも鈍いのかも」
ぽつりと呟く宇宙人の言葉に、まじか、と思う。流石宇宙人の友達だな、と感心すらしてしまった。
「あれ、振った体になってますけど、いいんですかね?」
小動物が偽勇者みたいにそれでもへこたれずここに留まり粘る様子を見せなかったところを見ると、どう見ても修復困難だ。
「気付いてないし、いいんじゃね?」
いいのか? 宇宙人他人事だと思って軽くないか?
「友達としてそれどうですか?」
「告白されても気付かないし、これだけ追求しても気付いてないんだから、俺らにやれることなんてないだろ」
まあ確かにそうかもしれない。
「両想いでも付き合えないってあるんですね」
お互いに気持ちがあるなら付き合えるんだと思っていたが、世の中ままならないらしい。
「まあ、あるだろうな。片想いだって付き合えるくらいなんだから、その逆だってあるだろ」
まあ確かにだけどね。
「それ、自分のことだってわかってる?」
うんうんと頷いていた私に掛けられた言葉に、はて? となる。
「私は誰とも付き合ってないですよ」
「週一くらいで告白してれば、そのうち間違ってOKくれるかもしれないだろ」
宇宙人の言う週一の告白に当てはまるものに思い至って、私はため息をつく。
「あれを告白と取る人間がいますか?」
「いるだろ。実際、超新星送ってくるのは誰だよ」
私がついたため息は、宇宙人に向けてのものか宇宙人の友達に向けてのものか。
*
「は?」
私の聞き返しに、偽勇者がため息をついた。
……いや、ため息つきたいのはこっちの方だよ。IN偽勇者宅。有無を言わせず連れ込まれた。
あ、雨が止んだわね、暑いわね、じゃあ行きましょうって……何だ?
「だから、もういっそ八代と付き合おうかと思って」
偽勇者は少しも嬉しくなさそうな仏頂面でそうのたまう。ええ、ええ、さっきもその言葉は聞きましたけどね?
「何で?」
偽勇者が好きなのは宇宙人の友達であって、男の娘ではなかったはずだ。少なくとも、宇宙人の友達が、自分の恋路を自分で踏みつぶした二週間前の男の娘の空手大会の時までは。
「あんなに鈍いシロー先輩が、自分の恋心自覚しちゃったの見たら、何だか、ああ無理なんだな、って思ったのよ」
「でも失恋してたよ?」
あ、つい足を踏み入れてしまった。いつもなら全力でスルーするのに!
つい先ほど、あの“恋愛感情に鈍い”の代名詞とも言える宇宙人の友達が、自分の恋心を自覚する場面に遭遇した。
よりにもよって、小動物がゼミの先輩と付き合い始めたのを知って、という宇宙人の友達にとっては遅すぎるタイミングで。
まあ、庇護したくなる小動物に好意を抱く相手が宇宙人の友達だけってわけもなく、小動物はモテていたらしい。そして、小動物は気持ちを切り替えたらしい。まあ、二週間前に誰かに恋心を告げたからって、他の誰かと付き合ったらいけないわけでもない。
小動物と付き合い始めたと告白して行ったあのゼミの先輩とやらは、間違いなく宇宙人の友達を牽制したんだろう。その告白に宇宙人の友達はショックを受けた表情をしていた。
「失恋したって諦められないことだってあるし、失恋しても、好きなままだっていいでしょう?」
「自分もな」
絶妙な切り返しだな、と自画自賛してたら偽勇者に睨まれた。
「可能性がないのは……しんどいだけよ。だって、気持ちを返してもらえないのに好きで居続けるって、何をエネルギーにしたらいいの?」
「妄想」
またもやギロッと偽勇者に睨まれる。でも真実だと思うんだよね。
「ストーカーなんてその最たるものでしょ?」
「なにその極端すぎる例! 私は純粋に人を好きになるって話をしてるでしょ!」
「本当に妄想もなにもしないもの? 好きなの、だけで相手に何も期待しないわけ?」
「しない……こともないけど……」
「だから好きで居続けられるんじゃないの」
完全に想像で話をしてるだけだけどね!
「……それが期待できないってわかったから、諦めるんじゃない」
なるほど。
「じゃ、それで」
「何であっさりなの!」
「え? もうやめます、って自分で言ってる人にこれ以上何を言えっていうのさ」
「みゃーって、女子の会話に向かない人間ね」
偽勇者が大げさにため息をつく。
「今更気付いたの」
「いや、気付いてたけど」
わざわざ言わなくていいがな、と胡乱な目で偽勇者を見たら、偽勇者が肩をすくめた。
「そんな会話したいなら、同じ学科の友達に話し相手になってもらえばいいでしょ」
「その会話がつまんないって思ってる自分がいて、嫌なの」
「知らんがな」
私には関係あるまい。
「……まだ、頑張ってみる」
「そう」
人の恋路について私に言えることなど、何もない。
宇宙人の友達を巡って偽勇者対小動物の宇宙戦争勃発か?! と思ったんだけど。
まさかの、宇宙人の友達が自分で自分の恋路をぶっ潰した結果を目の当たりにすることに。
家に帰りつくと、私はスマホを取り出して届いていたメールに気付く。
……宇宙人からM20の画像が届いてるし。
今日はブラックホール送っておこうっと。……二つくらい送っとけばいいかな。
ここは間違いなく宇宙戦争真っ最中だよ?