偽物勇者の…
一人の青年は身体中に傷を負いながらも歩む事をやめなかった。
彼は勇者と呼ばれる存在だった。
世界を救う聖剣を剣を掲げ、盾を持ち、仲間と共に強大な魔の王から世界を救う英雄として、謳われる者となる筈だった…。
だが、彼は謳われる事なく、偽物のレッテルを貼られるだけでなく、人々から否定され謳われる事なかった。
それでも彼は勇者として、務めを果たし続けた。
例えそれが、仲間がいなくなろうと、大怪我を負っても尚、泥まみれになりながらとひたすらに勇者として、戦った。
彼は口癖で毎日の様に言った
「例え、俺が偽物でも誰かが勇者を必要とするなら俺はまだ勇者じゃあなければならいない…いつか、本物の勇者にこの剣を渡せるまで、俺が勇者だ」
偽物でも勇者として務めを果たす為、剣を片手に強大な魔の群れを一人で立ち向かい続ける姿は正に勇者だった。
しかし、それを姿を見た者はいない故に彼は謳われる事は無く、聖剣を盗んだ偽物勇者と呼ばれ続けた。
偽物の彼の運命は報われない。
報われない彼に追い討ちの様に本物の勇者が現れる。
「なんで、お前が勇者なんだ…!」
彼の前に現れたのはかつての仲間の中で一番弱かった一人だった。
偽物でもいいと思っていた彼は嫉妬で頭が一杯になった。
才能も強さも彼が上だったが弱かった勇者には、彼を超える優しさを持っていた。
だが、優しさだけでは世界は救えないと思っていた彼と正反対の存在が本物で自身が偽物だった事に彼は理解出来なかった。
甘さを見せれば死ぬという環境で強くなることしか出来ない環境で育った彼にとって、誰よりも優しく、弱かった青年が勇者であった事を知ってしまった彼は許せなかった。
『何故、こんな奴が勇者なんだ』と…彼は心中で思った。
彼は睨みながら勇者を睨み、妬みながら勇者を罵倒した。
罵倒を浴びさせられながらも勇者は「聖剣を渡して欲しい」と言った。
彼はその言葉を聞いて、この世を呪いたくなった。
『何で、こんな奴が弱者が勇者で俺が勇者じゃあ無かった』
彼は聖剣を抜き放ち、勇者に襲い掛かった。
だが、結果は大敗北…彼は勇者が持っていた剣で腹を刺されてしまう。
彼は狂った様に笑いながら己の運命を悟った。
自身は目の前に立っている勇者の踏台となる存在だった事を理解してしまったのだ。
その運命に彼は絶望した。
動揺する勇者を目にしながら彼は最後まで妬みながら言い残す。
「勇者…俺は…お…えを…恨…む」
それが彼の最後の言葉だった。