三途の川の渡し船
僕はいじめが原因で自殺した。
その後、何度も何度も同じ場所で自殺を繰り返していた。
そう、僕は自分が死んだことに気がついていなかった。
ある日のこと、何回目の自殺かももう分からなかったが、気がつくと僕は閻魔大王の前に立っていた。
「お前にはこれから、三途の川の渡し船の船頭をやってもらう。船着き場には、お前の知っている人々が渡し船に乗せて欲しいと言って来る。もしも聞きたいことあれば、聞くが良い。お前が問えば、彼らの本心を聞くことが出来るだろう。そして乗せるか乗せないかはお前の自由だ。」
「もしも僕が船に乗せなければどうなるのでようか。」
すると閻魔大王は、「川を歩いて渡ることになり、苦しみを得ることだろう。」と言った。
次の瞬間、僕は船着き場で渡し船に乗っていた。
最初に現れたのは校長先生だった。
「船頭は君か。私を渡し船に乗せてくれないか。」
校長先生は僕にそう言った。
僕は校長先生に、僕がいじめられていたことを知っていたのか聞いてみた。
「君がいじめられていたことは、君が自殺してはじめって知ったよ。気がつかなくて本当に済まなかったね。」
すると僕の心の中に校長先生の声が聞こえてきた。
(お前の担任が来たと時に気がついたさ、だからあいつがいじめの報告をする前に言ってやったよ。『君のクラスでいじめが起こったら、君のキャリヤも終わりだから、そういうことの無いようにしっかり頼むよ。』ってな。あいつ、ビビって報告するのやめたよ。あと半年で定年なのに、俺のキャリアに傷が付くじゃ無いか。迷惑なんだよ。)
生徒達の前ではとても優しい校長先生が、こんなことを思っていたなんてと、僕は愕然とした。
僕は校長先生に、渡し船に乗せることは出来ませんと言った。
次に現れたのは担任の教師だった。
「船頭は君なのね、どうか私を渡し船に乗せてくれない。」
と先生は僕に言った。
僕は先生に、僕がいじめられていたことに気がついていたか聞いてみた。
「ごめんね。気がついていれば、ちゃんと助けてあげられたんだけど。何で相談してくれなかったの。」
するとさっきと同じように先生の声が聞こえてきた。
(知っていたわよ。でも私じゃ何にも出来ないから校長に相談に行ったら、話す前にキャリアが終わるって脅されたのよ。私はたまたま君の担任になっただけで何の責任も無いのよ。黙っていて当然でしょう。)
先生が見て見ぬふりをしていた理由がよく分かった。
僕は先生に、渡し船に乗せることは出来ませんと言った。
次に現れたのは父親だった。
僕は素直にお父さんに、ごめんなさいと謝った。
「お父さんもお前を助けてやれなくてすまなかったな。ただ、死ぬ前に相談して欲しかったよ。さあ、渡し船に乗せてくれ。」
(お前が死んで直ぐにお母さんも自殺したんだぞ。それに、お前が名指しした相手は、お父さんの会社の社長の孫だったんだ。おかげで首になったじゃ無いか。家族に迷惑ばかりかけて、それもこれもお母さんがお前をちゃんと教育できなかったせいだ。)
僕の目から涙がこぼれた。
涙は次から次にあふれ出て、いつまでも止まらないのではないかと思った。
しかし、しばらくすると僕は父に言った。
「お父さんを渡し船に乗せることは出来ません。」
次に現れたのは、一番仲の良かった同級生だった。
僕は彼に、何故助けてくれなかったのと聞いた。
「ごめんね。僕が何か言ったら、今度は僕が虐められるんじゃないかと思うと怖かったんだ。今更遅いけど、あの時僕にもう少し勇気があればと後悔してる。本当にごめんね。」
不思議なことに、心の声は聞こえてこなかった。
彼は心の底から僕に謝っていたようだった。
でも、今更そんなことを言われても、もう遅いんだよ。
僕はもう死んでしまったんだ。
僕は彼に、君を渡し船に乗せることは出来きないと言った。
僕が彼にそう告げたとき、僕は閻魔大王の前に立っていた。
閻魔大王は僕に言った。
「何故一人も船に乗せなかったのだ。」
僕は答えた。
「校長先生や担任の先生なら僕を救えたはずなのに、何もしてくれなかった。お父さんは、僕が自殺する前に相談したら、めんどくさそうに『お前が弱いからいけないんだ。』って言ったんです。僕が相談したことさえ覚えていなかった。」
そして友達を乗せなかった理由を考えていたら、閻魔大王が僕に言った。
「お前を自殺に追いやった者どもには相応の罰が与えられるだろう。もちろんお前を虐めた者ども同様だ。ところでお前は何故友達を乗せなかったのだ。」
彼は心の底から謝ってくれた、でも僕はそれでも乗せなかった理由を考えた。
そして閻魔大王に答えた。
「僕が虐められていても見て見ぬふりをしていたんです。だから・・・」
僕は言葉に詰まった。
すると閻魔大王が言った。
「では、お前に問おう。もしも彼が虐められていたら、お前は助けることが出来たか。」
僕は言葉に詰まった。
しかし、自分の心の声が聞こえて来た。
(あんなつらいことを変わってあげることなんて出来ない。)
「で、あるか。自ら命を絶った以外に、お前に罪は無い、だが···」
閻魔大王がそこまで言うと、僕はまた元の場所で決して死ぬことの出来ない自殺を繰り返した。
そして、何度自殺を繰り返したのだろう、僕は再び閻魔大王の前に立っていた。