家のトイレじゃないと落ち着かない人っているよね。私です
失速失速。勢い大失速。
評価とブクマが付いただと!?
ありがとうございます! でも付ける作品間違ってない? 大丈夫?
「俺、ちょっと、トイレ行ってくるわ」
「どこに行こうというのかな?」
勇者君は渾身のブロックにて、武術家君の前を防いだ!
バカ二人は本日、何かバカでかい屋敷の前に立っていた。ここに至るまでの話は別に深くもなく、涙も出ない。異世界定番、仲間が実はすごいところのお嬢様でした。という話だ。
つまり、目の前の屋敷は仲間の実家なのだ。そして、勇者君の仲間は、バカと野獣二匹だけである。野獣二匹は既に【人間エレベーター】済みなのである。
結果=お嬢様に手を出しちゃった。
「ここがお前の人生のま・お・う・じょ・う。フーッハッハッハ」
「うるせぇっ! いいからさっさと中に入るぞ!」
ちなみに野獣二匹は先に中で待っている。勇者などという肩書のせいで顔が割れているため逃げることもできない。すでに退路は断たれた。
「俺関係ねーしー。ほらほら、突っ込んでこいよ。俺ここで待ってるからさ」
武術家には関係ない話ではあるので、行く必要はない。だが、勇者は仲間を置いていくことなどできない。主に保身的な意味で。
「ふざけんなぁっ! 一人でなんて行けるか。大商人の屋敷だぞ。絶対やばいことになるに決まってんだろ!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、お前ならうまくやれるって。さすがの俺もこれ幸いにとパーティー抜けるつもりはないぜ。ほら、さすがにこの町で暮らすと色々やばそうだし。お前がアイツらから逃げた後とか」
「逃げねぇよ! 責任取るに決まってんだろ!」
草食系なだけでなく無駄に真面目である。逆【ハイエースもいいけど草むらもね】された人間のセリフとは思えない。
「お、おう、さすが勇者。なんかガンギマリだな」
「わかりゃいいんだよ、わかりゃあよ。んじゃ、いくぞ相棒」
「え、絶対ヤダ」
なし崩し的に連れて行こうとするが、失敗して舌打ちする。
「舌打ちされても絶対に行かんからな。こんな大層な屋敷ってだけでも嫌なのに、お前の【夜はデュランダル】の粗相のために行くとか、ないわ」
当然といえば当然である。
「クソガァッ!!」
勇者吠える。人生最大の咆哮である。モンスター相手でもここまで大声出しません。人生の大聖戦だから仕方ないだろう。
「んじゃ、俺トイレ行ってくるから」
「ウェイッ、ウェイッ、待とうぜ。絶対に逃がさないからな」
二人の視線が交わる。その表情は真剣そのもの。モンスター相手でもここまで真剣な顔はしません。
二人の間に凄まじいオーラが渦巻く。まるで決戦の時のようである。モンスター相手(以下略)
緊張した空気の中、唐突に武術家の目が大きく開かれる。
「お腹のダムが決壊しそう。マジでっ!」
「逃げる口実じゃなかったのかよっ!」
「ちげーよ。最初はそうだけど、今は気孔術でケツに蓋してなんとか耐えてるんだよ!」
秘術の無駄遣いである。
「さっさと屋敷入ってトイレ借りるぞ」
呆れた様子で勇者君が肩を落とす。
「豪華な屋敷の豪華なトイレ。しかも、修羅場の空気が漂う場所でリラックスしてトイレなんてできるわけなだろ」
言いたいことがわからないわけではない。故にもう諦めるしかないことを悟った。
「わかった行って来いよ。ここで待ってるからな。いいな、待ってるからな!」
「さんきゅー、勇者っちわかってるぅ」
許可を得るやいなや全力でトイレのある場所に向かって走っていく。もはや、ため息しかでない。
数十分後
「遅ぇ……」
帰りの遅い武術家にイライラしながらも待っている。だが、彼は忘れていた。ここに彼がいるということがどういうことなか……。
「私も待ってるんだけどなぁ」
後ろからお嬢様こと、女魔法使いの怒気を孕んだ声が聞こえる。
「あっ……」
彼が待っていた時間分、屋敷の住人も待っていた事実が頭からすっぽ抜けていた。
「お父様が待ってるから、行くわよ、いいわね」
質問ではない、命令だ。哀れ、勇者はただ一人、人生の魔王城に挑まねばならないのだった。
「クソ野郎っ、やっぱり逃げやがったぁ!」
尚、屋敷に連れ込まれた勇者君が見たのは、亀甲縛りで天井から吊るされた武術家だった。
ネタが思いついたらさくっと書いて、さくっと投稿。
内容を深く考えるつもりはないのぜ。