俺(武術家)とアイツ(勇者)
息抜き一発
勢いだけの第一話
ある晴れた日のこと、魔王討伐の旅に出ていた勇者一行の男二人は難題に向き合っていた。
魔王討伐の旅に出てから、もう半年が過ぎていた。武術家である男は自身の戦力不足を痛感していたのだ。武器を装備せず素手で戦う故に、攻撃力の不足が目立つのだ。
「だから俺は追放されて、町でマッサージ店を営もうと思う」
「ふざけんな。お前だけは逃がさん」
対するは人類最強の勇者。イケメン、優しい、頭脳明晰、文武両道、ファッションリーダー、謙虚、戦いでは油断なしとモテ要素の役満大王だ。表向きだが。ちなみに夜の方も勇者らしい。
「いやいや、お前さん、俺がいなくなればハーレムだぜ? しかも増員枠一個空くおまけ付きだぜ?」
その言葉を受けて、イケメンフェイスが鬼のような表情に歪んだ。イケメン台無しである。
「ハーレム? ハーレムだぁっ!? バッカ、お前、それ本気で言ってんの? バカか? バカだな。大バカだな!」
発する言葉すらすでに知性を感じないものになってしまっている。だが、それでもこの男の怒りが治まることはない。
「お前がいなくなったら、あの女どもに四六時中【夜の大聖戦】を狙われることになんだぞ! あいつら裏で『勇者君共有協定』とか結んでんだぞ!」
「いや、お前、昔ハーレムに喜んでたじゃん。当時、自分らが強くなったら俺のことポイッするって陰口言ってたじゃん」
ちなみに、勇者パーティーの女性とは魔法使い(美女)と僧侶(美少女)の二人である。二人とも勇者との【夜のボス戦闘】を経験済みである。尚、捕食者は女性陣だ。イケメンハーレム万歳野郎なのに、何故か勇者君は草食系に片足突っ込んでいたらしい。
「なんで、そのこと知ってんだよぉお! あの頃はあいつらの本性知らなかったんだよ。あいつら野獣だぞ。魔王に一人で特攻する方がたぶんマシだぞ。お前がいなくなったら、絶対アイツら歯止めが利かなくなるからな」
「うん、知ってる。パーティー組んだ時から知ってる。いつ、お前が【夜のしんでしまうとはなさけない】するか楽しみにしてたくらいだし。フーッハッハッハー」
「助けろよ、くそがぁ!」
指を指しながら大口で笑われて、勇者君のブチギレゲージが限界突破する。それで態度改めるような殊勝な男ではない。故に文句ですらも大笑いして楽しんでいる。だが、一頻り楽しんだ後、急に真顔になって勇者の肩を掴む。
「そんなお前にとっておきの気孔術を教えてやろう。房中術として使えるはずだ」
「お前、そんなん使えるなら戦闘でも役立てろよっ!」
そう、この男、人類に知られていない秘儀『気孔術』が使えるのだ。戦闘で使えば、一線級で活躍できる代物だ。秘境で数千年で等々、歴史も深く、まさに秘儀と呼べる凄い能力なのだ。
「だって、活躍したら追放してくれないじゃん。俺、金貯めたら追放されて自由に暮らすつもりだったし」
「ふざけんなぁっ! お前、もう絶対逃がさねーからな! 離さねーからな!」
「え、ちょっと、俺、同性愛は……」
「ちげぇよ、クソがっ!」
この『俺を追放してほしい会議』は第七回である。七回やってるが、まだ追放はしてもらえていない。第八回もきっとまた開かれるだろう。勇者は逃がすまいとする。武術家は逃げようとする。二人の戦いは終わらない。
(まぁ、魔王倒しちゃえばパーティー解散で結局自由になれるだけどな!)
尚、逃がさなくて、最後には逃げられるのが決定しているらしい。
勢いしかないし