タコ
「ん……。」
「お客さん、こんなとこで寝られちゃ困るよ。」
「なんだこのおっさんっ?!」
何故かスキンヘッドのガタイの良いおっさんが目の前にいる。
「寝起き早々、おっさんとはご挨拶だなぁっ?!」
椅子を投げられそうになる。
「ノルさん、やめるのです!!」
「フンッ、命拾いしたな、坊主。」
それにしてもムキムキである。
「……それで、こちらのお嬢さんは??」
「あぁっ??」
おいおい、頭がマスクメロンみたいになってんぞ。
「ここの看板娘兼、俺の愛娘のビアだ!!!!!!」
ここ一番の怒声である。
「まぁまぁ、お客さんも眠ってたみたいですから。」
「ふんっ。」
「で、ここは一体??」
「あぁん??」
「おめぇさん、何も知らないんだな。それともまだ寝ぼけてるのか?」
「ここはキリの国の酒飲み場、ビル・カンパネラだ。俺の店の、な。」
「それにしても、父さんをおっさん呼び出来る人がいるとは。」
「えらくご機嫌だなビア。」
「べ、別にレディー扱いがうれしかったわけではないのです。」
「とりあえず、すんませんでした、ここが店の前だったとは。」
「お前さんには何が見えてんだ。」
なかなか辛辣なおっさんだ。
しかし、道の真ん中、しかも自分の店の前で倒れられては商売あがったり、ということだろう。
「そんじゃ。」
「ちょっと待つのです!!」
「ん??」
ひざ下のお嬢さんに呼び止められる。
「お兄さん、これからどうするつもりなのです??」
「え、別に、どっか行くけど。」
「おいおい、どうしたんだ、ビア。何もする必要はねぇ。多分酔いどれだ。それも酒場の前で倒れてたことに気づかないくらいの、大酒のみだぜ多分。」
「うるせぇ!俺は未成年でまだ飲んだこともねぇよ!」
「え??」
「さっきから黙ってりゃ、うるせぇタコおやじだな!!」
「た、たこだと??知ってるか、ビア。」
「さあ??」
ん??
タコを知らないだと??
てっきり言い合いになるのかと。
しかし、知らないなら知らないままで煽るまでだ。
「タコも知らねぇ奴が、酒場の店主とは恐れ入ったぜ!!もっとも本人がタコなんだけどな!!」
「……なあ、ビアなんかムカつかねぇか。」
「確かに。」
親父の頭が再びメロンになったとき、俺は逃げた。