度胸ですよ、食事は
さてと、全自動発火装置の出番だな。
ボタンがあるから、押せばいいのかな?
手紙を裏返すと書いてあった。
ボタンを押すと両側の石がぶつかり合い、火花によって種を作るものです。
五分程度かかります。
なるほど。
じゃあ、ボタンを押して、しばらく待つか。
部屋では化石発掘してるみたいな音が響いた。
よくよく考えると、部屋で火を興すのは危ないな。
今のうちに中庭へ行こう。
装置を担いで、音を立てながら移動。
ウサギを背負ったタヌキだな。
さてと、改めて料理するか。
このまぶしい肉……、どこの肉だよ。
コイツを焼く。
脂身の側面から焼いて脂をとかし、肉を焼く。
まあ、強火で2分くらいかな。
そう思っていた。
結論から言おう、肉は焼けなかった。
5分たとうが、焼き目すらつかなかった。
一旦皿において、ソースから作ることにした。
手紙に添えてあった酒を入れる。
焦げるような音とともに蒸気が輪っかとして出て、真紅の液体が注がれる。
酒もなかなか上質な物の様だ。
ここで俺は異変に気付いた。
すこしフライパンについていた肉が、浮かんでいたのだ。
「まさか……。」
肉を焼くのに瓶一つの酒をよこしたのは……。
俺は酒を半分フライパンに入れ、沸騰するのを待った。
そして、そこに肉を入れて待った。
するとどうだろう、肉の周りの膜がとれ、自然に一口大に分かれていく。
そこに残った酒を全部入れ、さらに煮込んだ。
「……できた、謎肉の酒蒸しだ。」
もはや酒蒸しではない。
よだれ謎肉だ。
中庭のテラスで食おう。
「では……。」
そう、謎肉なのだ。
食に必要なものは度胸。
いただきます。
「……うまい。」
一口大に途切れた肉が口の中でほどけていく。
目には見えないが、膜のようなものが何層にもあり、肉と肉の間に脂はあるようだ。
そして、何よりもうまいのが、このアルコールの抜けた酒だったもの。
目に見えるほどの脂が溶けているが、まったくしつこくない。
果実酒だろうか?
脂のうまみ、酒の甘さ、そして、深い味。
……ひょっとして、とんでもない名酒だったのだろうか
こうして食事は終わった。
まだ晩飯あるのに。




